ドラマ大奥レビュー

ドラマ『大奥』公式サイトより引用

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ『大奥』感想レビュー第3回 白猫に若紫と名付けた意味深さよ

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ドラマ『大奥』感想レビュー第3回
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呪いを解く物語として

大奥』はヒットしています。

視聴率こそ低いように思えますが、この深夜枠で第一位、かつNHKプラスでは朝ドラと大河を除くドラマで歴代一位を獲得しました。

なぜこうも本作が受け入れられたのか?

理由として、NHKが培った時代劇のスキルや衣装があげられますが、それだけではなく、この回であることを確信しました。

本作は、解毒――呪いを解く物語です。

家光は可愛げのないヒロインに思えます。

いきなり有功を扇子でめった打ちにして、わがままばかり言っていた。

しかし、ここまでくればそれも彼女の心の傷があればこそだとわかる。

ただ、そこまでたどり着く前に「こんなわがままな女なんてどうでもいい!」となってしまいかねない、そんなリスクがありますよね。

有功ですら「甘えてるんやない!」と一喝してしまいました。

連続ドラマとなると、そういうヒロインの言動による炎上を避けるためか、全く意思のない、綺麗なお人形のような造型も最近増えているように感じます。

現実もそうです。

何かを訴え、頼んでくる人には腰の低さや好感度が求められます。若く、さらには女性となるとその傾向は強くなる。

ズタボロで立っているだけでも精一杯。そんな傷ついた少女に「助けてもらいたいなら、せめて笑いなさいよ」と言ってしまったことはありませんか?

家光のふてぶてしさはそういう呪いに対する抵抗に思えます。

そしてそんな家光は、別に壁ドンとか顎クイとか「好きなんだー!」と叫ぶ告白は全く求めていません。

少し考えればわかることなのですが、どうにも漫画やドラマのせいで、そんな刷り込みが蔓延しているんじゃないかと思えることもありまして。

有功の家光へのアプローチを見ていて、先日Eテレで放映された「100分 de 名著」スペシャル版「100分 de フェミニズム」の上間陽子さんの話を思い出しました。

傷ついていて、どうしたらよいのかわからない少女。

彼女らの痛みに耳を傾け、傷ついた心を肯定し、話し合い、笑いあい、信じあうことで道は開けるのだと。

有功と家光は、最後の場面で信じ合い、幸せそのものの状況にいます。

そういう着地点があるのだから、有功が強引に迫ればよいかというと、決してそうではないと多重構造で描いているのがこの物語です。

「若紫」という猫の名と、その由来となる『源氏物語』、そして紫の上の悲運。

手籠めにされたことで復讐心を秘めた玉栄。彼が若紫を殺した動機として、表向きには主人である有功を守るという大義名分があります。

しかしそれだけでしょうか?

角南を殺したいほど憎んだとして何の不思議があるのでしょう。

それほどまでに性暴力は人を傷つけます。

紫の上。玉栄。そして家光。踏み躙られた人の痛みと苦しみを救うように、有功は振る舞います。

彼の起こす奇跡とは、人の心を受け止めること。人の話を聞くこと。

しかしそれができない人間がなんと多いことか。

彼を見ているとそう思えてきます。

壁ドンでもなく、顎クイでもなく、相手の話を聞き、心を受け止めること――そうして解毒の手段を導き出す本作には凄まじい力があります。

そしてこれがNHKの凄みなのでしょう。

Eテレです!

視聴率は二の次にしてでも、視聴者の見識を深めるための番組を作ることができる。知識もデータも集められる。

集めた成果をドラマに反映させ、感受性と学習意欲の強い脚本家やスタッフに渡す。

そうして知識がアップデートされていくと、「今どき顎クイはないですよ」とドラマを作る過程で誰かが気づく。

もちろん原作があるからには、原作の長所を活かせば失敗は防げるとは思えます。

しかし、ウケ狙いでそういう細やかな配慮を台無しにしてしまうこともありえる。

イケメンとの恋愛要素がいいのだと浅い勘違いをしたまま突き進むと、原作にあった細やかな配慮や繊細さを踏み躙ってしまう可能性はありますから。

そういう、つまずきを防ぐものこそ、知識であり、理論でしょう。

NHKならではの、そんな強みを思う存分生かした傑作が『大奥』です。

なお「100分 de 名著」スペシャル版として「100分 de フェミニズム」は2月5日(日)に再放送されます。NHKプラスでは放送後1週間鑑賞できます。

『大奥』のおともにぜひともご覧ください。

 

来年の大河に高まる期待

同時期に放映されている『どうする家康』よりも、評価が高くなりつつある『大奥』。

「一年間放映して!」

「もうこれを大河でやろう!」

そんな声も聞こえています。

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◆冨永愛、堀田真由『大奥』で”朝ドラ””大河”に続くヒット番組「ドラマ10」を狙うNHKの胸算用(→link

史実ベースの時代劇がほぼ大河一本というのは日本の独自事情です。

時代劇が大量に制作される韓国や中国では、『大奥』のようなSF要素を加えたり、改変した作品も多い。

そして人気を集めておりますので、NHKは後追いでこの状況に追いついたともいえます。

ただ、そうではなく、ここは敢えて『光る君へ』の期待感も高まったと言いたい。

◆松本潤『どうする家康』が苦戦も…吉高由里子の来年大河『光る君へ』が大ヒット間違いナシの皮算用(→link

ここで書いてきた通り、実は『源氏物語』とは女性の苦しみを描いた作品でもあります。

紫の上を愛するんだからロリコン小説だの。イケメンがモテモテだの。ハーレムものだの。そういう読み方は表面的。

紫式部自身が、女性であることの苦しみや偏見と戦って生きてきた女性です。

そこを忘れてイケメンとラブラブする話にしたら、来年の大河は始まる前から終わります。

そこで先ほどあげたNHKの強みを思い出したい。

Eテレで得た知識とデータを活かし、人々の苦しみや嘆きを解毒するような話にすれば、共感を得られると思います。

『鎌倉殿の13人』といえば、山本耕史さんや市原隼人さんのセクシーな裸体が女性にウケていたなんて言われますが、それだけではなく、三谷幸喜さんが女性スタッフの意見を取り入れて描いた女性像も高評価の一因でした。

『大奥』でも光るそんな女性像へのアプローチをうまく軌道に乗せれば、来年大河も良い方向に向かうことでしょう。

その地ならしとしても『大奥』は注目です。

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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link

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