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【ドラマ大奥医療編 感想レビュー第13回】
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人痘の効果と利点とは?
話を人痘接種に戻しましょう。
効き目がわからない治療法を上様の男で試すなどとんでもない――幕閣は頑なな姿勢でそう主張します。
男は上様の財産扱いですが、田沼にしても家治の許可があると引けません。
と、そこへ平賀源内が訪れます。
赤面の軽症患者を連れてきたのですが、門の前で「そんなもの入れられるか!」と一悶着している。押し問答をしていて、このままでは埒が明かない……というところで、動いたのが伊兵衛。
赤面患者のできものを針でこすり、自分の腕に突き刺したのです。
これでもう人痘接種済みだ!と開き直り、赤面患者の部屋で寝起きすると凄む伊兵衛。それで生き延びたら効き目があるとの証明にもなり、こう言い切ります。
「上様の男だからこそ、赤面を防ぐのに何が文句あるんだ!」
赤面患者の病室で横になる伊兵衛に、怖くないのか?と語りかける黒木。
怖えに決まってる!と返す伊兵衛。
役に立ちたくねえはずの男が、自分の身を犠牲にしてまで、リスクに挑んでいます。
源内がまたしても旅立つところを、青沼は見送ります。
梅毒のことを心配されていると悟った源内が、痩せてしまったのは歩いたからだと強がり、そんな彼女を田沼も労います。
オランダ流のあいさつだとして握手を求める源内は、根っから明るいようで、どこか寂しげな表情を出す。鈴木杏さんが素晴らしい。
伊兵衛の人痘に怒りを燃やした定信が、田沼を糾弾しています。
成功すれば上様の男を守ることにもなるし、人痘接種を民にまで広げることで、徳川の威光をむしろ取り戻せるのではないか。
田沼が、そう主張すると
「それもそうねえ」
と、トボけたように言葉を発する治済。どうやらメリットを見出したようです。明るく穏やかにそういうと、定信も「うまくいけばそうだ」とトーンを弱めるしかありません。
我が子とて、この野心家にとっては駒に過ぎない
果たして伊兵衛は?
元気に回復して走り回っています! 成功です!
大奥の男たちは沸き立ち、人痘接種に向かってゆきます。
こうして大奥の人痘は成功を収めると、大名子息も希望し始めたと田沼が喜んでいる。リスクもきちんと説明し、事前に一筆いただいているとか。
青沼たちは、御曹司たちの人痘接種もこなしていきます。
その一人は、治済の一子である竹千代。この「竹千代」という命名に野心を感じます。
治済は、家康以来、将軍後継者が継ぐ幼名を我が子につけ、将軍にするつもりなのだと。
ちなみに史実と原作での幼名は「豊千代」です。一文字変えて、わざわざ字幕までつけることで、策士の野心が強まりました。
武女という、治済の懐刀も出てきます。佐藤江梨子さんが演じるあの女性です。しかも、白湯を持ってくる。
武女の不敵な微笑。シャランというサウンドエフェクトだけでも、不穏さが募ってきます。
武女が竹千代の快癒を祝うと、治済は臆病な子だが運はあると満足している。
我が子の前では慈母の顔であったにも関わらず、ここではうまく育った手駒に納得する顔になっています。
そして晴れ晴れと、田沼は用済みだという。
「の?」
圧をかけるように武女にそう言い、笑みを浮かべる治済。武女は少し顔がこわばっています。なんておぞましい笑顔なのでしょう。
近代は公共福祉の概念が芽生える
そのころ、同じ吉宗の孫でも、治済に比べてまだ扱いやすい定信が、田沼を呼び止めています。
定信には倫理があります。丁寧に頭を下げ、人痘接種をして欲しいと頼み込んできた。姉の子である甥二人に受けさせたいとか。
「舌の根が乾かぬうちに……」と自覚しつつ、頼み込む定信に、田沼は理想論を語ります。
人痘とは、頭を下げねば受けられぬようなものにはしたくない。それこそ吉宗の願いであろう。
誰もが受けられる――そんな公共福祉の芽生えがあります。
新自由主義が目の敵にする、誰もがアクセスできる医療。国民皆保険廃止論がこの間話題にのぼりましたが、あれは人類が長い経験とともに得た叡智の結晶だと思い出したいところです。
弱い奴は死ね。助ける必要はなし。そういうスパルタ理論、弱肉強食論みたいなことを剥き出しにしていると、社会はむしろ弱くなる。
どんな人でも簡単に医療にアクセスできることこそ、国家や社会が強くなると、近代へ向かう中、人類は学びました。
そういう意味で、この田沼は大変重要なことを体現しています。
さすがは森下佳子さん。2025年大河ドラマ『べらぼう』の田沼意次にも期待しましょう。
将軍家治の錯乱
このあと、家治が田沼を呼び出しています。
すっかりやつれた家治が人痘成功を労い、上様のご威光あってのことだと田沼が感謝すると、家治は何か頼みがあるようです。
それは青沼の診察でした。脚気の具合が悪く、おかしなシミもできていると。
田沼は「蘭方医は上様を診察できない」と断るものの、そこをうまくはからうようにと頼む家治。
診察をすると、なんと砒素中毒でした。
ほんの微量の砒素が、長いこと家治に盛られていたのです。治るのか?と尋ねられた青沼は、毒を断つしかないと言葉を濁します。
田沼は動揺しつつ、食事は毒味を経由しており、砒素を盛るとすれば、医師が渡す薬湯しかないと判断。田沼はその糾明をすると言います。
しかし、家治は精神が崩壊してしまう。娘の家基も毒殺されたのではないか?という可能性に思い至ったのです。
なぜ、そうも恨まれねばならぬのか?
激昂する家治の怒りは田沼に向かいます。お前のせいか!引き立てられておきながら主人を守れぬとはどういうことか!と叫ぶ。
ちなみに史実と原作では、田沼意次の子・意知が、恨みを買って殺害されています。そこは宮沢水魚さんが演じる『べらぼう』を待ちましょう。
錯乱した家治は、青沼を化け物呼ばわり。
蘭学だのなんだのいうが、将軍の体ひとつ治せない! あんなによくしてやったのにこの仕打ちか!と悔し涙を流します。
そして家治は田沼と青沼を摘み出せと叫びます。
男でありながら入っていたと、見咎められてしまう青沼。しかも老中の田沼が引き込んだとなればこれまたまずい。
それでも田沼は、己の保身ではなく薬湯を避けるよう家治に訴えています。
悪いことは重なるもので、このタイミングで、3パーセントと懸念されていた人痘の死者が出てしまいました。
横たわる少年の家紋を見て、ハッとする田沼。
それだけで恐ろしさが伝わってくる。そう、亡くなったのは、よりにもよって定信の甥でした。
冷静沈着な松下奈緒さんが、危機を悟り、崩壊する現実と向き合う顔になります。
定信は激怒しました。
定信は聡明だけれども、田沼よりも感情に流されるのです。
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