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【ドラマ大奥医療編 感想レビュー第13回】
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男将軍が鈴の廊下を歩む
青沼から人痘を受ける一人の貴公子がいます。
少し怯えながらも、聡明さと健気さを見せつつ、受ける彼。
青沼は母が喜ぶと語るその少年に、親孝行で優しいと言います。
そうして目覚めた彼こそ、第11代将軍・徳川家斉です。
子供を55人も作った11代将軍・徳川家斉 一体どんな治世だったんだ?
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夢の中のあれは誰であったか。
そうつぶやき、目覚める家斉。
男女が逆転して、また逆転した大奥で、女たちが身を伏せる鈴の廊下を、将軍が歩いてゆきます。
どこかうつろな目で歩いている、その左後ろには御台所。そして右後ろには、母である治済がいます。
なぜ『大奥』後半はドラマにならなかったのか?
なぜ『大奥』後半はドラマにならなかったのか?――このことを考えてみたいと思います。
まず、江戸時代後半以降がフィクションでは不人気という傾向はあります。幕末は例外としまして。
『大奥』前半はキラキラしたラブストーリーで、中世的なファンタジーとして処理できると思います。
複雑怪奇な世界ではあるけれど、華麗な衣服を身につけた王子とお姫様の恋物語のバリエーションともいえる。
しかし、医療編からは将軍の恋愛だけではないものに焦点が当たります。
青沼も、源内も、恋愛での充足感ではなく、世の中を変えることを目指した。
自分の命よりも、改革に賭けている。
そういう動機がわかりにくいとされてしまったのかもしれません。
それに、男女逆転した世界観を“元”に戻す処理も入り、そこが難解さを増しているところではありますね。
しかしだからこそ、勉強になる要素もたくさん出てきます。それこそ新科目「歴史総合」とリンクできる素晴らしさがある。
江戸時代は鎖国でもなく、オランダと清経由でさまざまなものが入り込み、変わりつつある。
そう思えるこのシーズン2は、まさしく歴史総合の世界です。
人痘はなぜ普及しない?
シーズン2は、シーズン1よりも見ていて苦しいかもしれません。
黒木と一緒に理不尽さに悔しがりたくもなるでしょう。
どうして人痘は普及しないのか?
これは史実でもそうであり、天然痘を防ぐことのできる種痘接種は、江戸時代後期には広まっています。
ただ、ドラマ同様、漢方医の反対もありなかなか普及しませんでした。
そこをなんとか風穴を開けていくのは、お殿様です。
江戸時代後期の藩政改革には、種痘接種の導入があがります。
幕末へ向かう中、名君と呼ばれる殿様たちが蘭方医学を取り入れたのです。
「有害な男らしさ」と向き合おう
江戸時代後期は、蘭学発展と共に国学や水戸学といった思想も広がってゆきます。
どんな思想なのか?一言でまとめると
「日本スゴイ!」
となるような考え方であり、日本以外のものをとにかく嫌う。
こう説明すると、
「自国に誇りを持って何が悪いんですか?」
という反論も来がちですが、もちろん素朴な愛国心を否定しているわけではありません。
過剰であることがまずいのであり、国学や水戸学のもたらした弊害は多々あります。
陰謀論とも結びつきやすいですし、今でもそういう思想史は日本史を学ぶ上でネックになっている部分もあります。
日本史陰謀論の事例まとめ~知らないうちに洗脳されないための対処法
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『大奥』の秀逸な点は、そんなナショナリズムとマッチョイズムを重ねてくるところ。
今後は、とうとう男女が逆転していない将軍の家斉が出てきます。
これを歴史が元に戻ったように思わせるのではなく、むしろ違和感を覚えさせ、過剰な男性性の毒まで描くところが、この作品のすごいところ。
「日本スゴイ!」思想と有害な男性性の結びつきは、これから描かれてゆくことでしょう。
シーズン1はフェミニズムが根底にあった。
シーズン2はさらにそこへ「有害な男らしさ」への問題提起も重ねてくる。
だからこそこの『大奥』は、女も男も、天下万民を救う。
青沼も、源内も、田沼も微笑みたくなる、そんな大志と仁がある作品です。
平賀源内たちが開けた穴が、幕末から明治へと繋がってゆきます。
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文:武者震之助
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考・TOP画像】
ドラマ『大奥』/公式サイト(→link)