ドラマ大奥医療編 感想レビュー第13回

大奥公式サイトより引用

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ大奥医療編 感想レビュー第13回 あまりにも理不尽じゃないか!

2023/10/20

平賀源内が、梅毒に罹患してしまった――青沼は衝撃を受けます。

しかし、おかしい。女性同士の性行為(といちはいち)では感染しないはず。青沼が破れた服に目をとめると、源内は言葉を濁します。

青沼は、源内が無理やり感染させられたことを察し、拳を叩きつけます。

明るく強がる源内は、蘭方で治療できないか?と尋ねますが……完治の手段はなく、静養するしかないと知ると、動揺を隠せません。

最後は気が触れてしまうと言い、源内は叫びます。

生きて働かなければ意味がない! 頭が冴えていて、体も動かなくちゃダメだ! そんなの平賀源内じゃない!

死にたくないとうろたえる源内は、青沼の胸の中で泣きじゃくるしかありません。

 


源内のセクシュアリティ

源内のセクシュアリティについて補足でも。

原作では女性同士で恋愛関係を築いており、あの襲撃事件も痴話喧嘩を装ったものでした。

史実の平賀源内も同性愛者とされています。もしも源内が家を継ぐ立場ならば結婚はしているはず。そうせずとも趣味と技能だけで源内は世を渡っていた。

こういう気ままな文化人は、文明が成熟しなければ出てきません。それほどまでに江戸後期に突入する日本は、成熟したのでしょう。

なお、シーズン1の綱吉と柳沢吉保では、時代劇では珍しい女性同士の同性愛が描かれていました。

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平賀源内が、世の改革を為すのだ

源内はどうした?

と、田沼に呼び止められた青沼は言葉を濁すしかありません。

すると田沼は、自ら源内に会いに来ます。

励ます方法を考えたのでしょう。手渡した書面には「女子蘭学の禁を解く」とありました。

これが田沼意次の考えた褒美でした。

学問の自由を広く許すことこそ、源内が喜ぶとわかっています。

一人だけの自由ではなく、世の中をより良い方向へ変えること。皆がありがとうと言ってくれる改革こそを、欲しているのだと。

これは源内、青沼、田沼に共通する志なのでしょう。一人はみんなのために、みんなは一人のために尽くす。そんな近代の息吹がそこにあります。

世の改革の背後に平賀源内がいたこと。そのことを強調する田沼に、源内は笑いながら嬉し涙をにじませます。

そして私の番だと決意を固めます。田沼が吉宗に誓った赤面撲滅のために、またしても旅出つのです。

青沼が言うように、このさき静養していれば、自分一人の安寧と寿命は確保できるかもしれない。しかし、そんな個人の幸福よりも、大義と恩を返すことに、意義を見い出したのでしょう。

自分のことよりも変革を重視する大義が、彼らにはあるのです。

 

天下万民に、人痘接種を

源内は、軽症の赤面患者を探しに行きました。

その間、治療法に名前がつけられました。

人痘接種――人の痘を種として接種する。本来は天然痘に用いられていた呼称であり、それをドラマに取り入れました。

歴史を考えるヒントになります。

実際に、江戸時代後期以降、日本では人痘接種が行われて、効果もあった。しかし、それ以降も天然痘は流行している。

なぜか?

人痘接種を広めたい青沼たちは、まずは周囲にこの方法を説明しました。

しかし、蘭学を学ぶ者ですら戸惑ってしまう。天然痘の場合だと、死亡率は3パーセントはある。これは高いか、低いか。

例えばこんな風に考えてみるとよいかもしれません。

目の前に100個入りのお菓子がある。非常に美味ではあるけれど、そのうち3個は毒入りである。さぁ、食べて!と言われて手を伸ばす勇気が湧くかどうか。

しかもこれは天然痘の場合であって、赤面疱瘡にどこまで有効か、定かではありません。「気持ち悪い」として拒まれても仕方のないところです。

どうしたらよいのか……悩む田沼と青沼。

死のリスクについての但し書きがよくないと青沼は考えますが、田沼としてはそれを伏せることはできないと考えている。

そんな二人のもとに、高丘が急を知らせに来ます。将軍の一子である家基が、急死してしまったのです。

嘆き悲しむ将軍・家治。そんな家治に、医師が薬湯を差し出し、ごくごくと飲み干しています。

その様子を見た医師が、廊下にいる女性とあやしげな目線を交わしている……表情だけで不穏さを醸し出す人物を演じているのが、佐藤江梨子さんです。

彼女はグラビアアイドル出身です。

シーズン1で大岡忠相役を演じたMEGUMIさん。『鎌倉殿の13人』北条政子役の小池栄子さん。デビュー当時は、彼女らと三人組扱いされることが多かった。

しかし、この三人にはそれぞれに強い個性があって、今こそ生かされている。

たった一瞬で不穏な空気を生み出す。彼女にはすごい力があると思います。

 


地球規模の天災が日本を襲う

天明3年(1783年)夏――田沼意次の老中就任から10年が経過しました。

家治の後継問題が浮上し、幕閣の話題の俎上にのぼります。次の将軍候補は吉宗の孫世代であり、筆頭は一橋治済でした。

政道批判が激しい松平定信よりはマシかもしれないようで、果たしてそうなのか。

確かに定信は田沼路線をひっくり返しそうではある。一方で治済は、理解があるとみられています。この辺も時代が変わりつつありますね。

政治の主体は将軍なのか、それとも幕閣なのか。家治はあまり口出しせず、幕閣に委ねていました。

田沼もそのことはわかっている。御用人あがりとしては、上様の意向には背けない。

するとここで江戸が大地震に見舞われます。

大地震に加えて浅間山大噴火が起こり、凶作が発生。

火山噴火はヨーロッパでも起こって世界史規模の凶作となり、パンが値上がりして怒った民衆がバスチーユに押し寄せていく――フランス革命の引き金になる。

ルイ16世にせよ、田沼意次にせよ。気候変動というコントロールできない不運ゆえに貶められたことを思えば、再評価がふさわしい人物かもしれません。

田沼に怒りを見せる民衆は、マリー・アントワネットの首飾り疑惑に憤るフランス人と似た顔をしているのではないでしょうか。

現在のフランス史では、ルイ16世の名誉回復が進んでいます。田沼意次再評価も今後どんどん進むことでしょう。

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こうした実際の歴史に本作ではSF要素が加わります。

大奥内に赤面が入り込んだのです。

「変革のせいだ!」と避難する者たちによって「人痘接種は中止せよ!」と命じられ、なにゆえか?と田沼が必死の抵抗を示すものの、訴状があがっています。

漢方医。中臈。そして松平定信から。

定信はただ反発しているだけでもない。彼女が治める白河藩領では餓死者を出さなかったのです。

これはなかなか重要な点でして、江戸時代後期の飢饉となると、米どころであるはずの仙台藩あたりがともかく酷い。

米はたくさん取れる。なのになぜ飢饉に対処できないのか?

というと、米に対して過剰な商品価値を見出したことが背景にあります。

江戸時代に入るまで、東北地方は飢饉と隣り合わせでした。稲作の開発が進まず、寒冷ゆえに食料は常に不足気味。

それが江戸時代になると、幕藩体制の中、新たな米どころとなります。

と、ここまではよかった。

米本位を転換し、経済を活性化してゆく中、仙台藩は米を金銭に換えることを進めていく。豊作ならばよい一方、凶作だと危険なことになる。

例年通りに収入を得ようと換金してしまい、蓄えが無くなってしまう。そのせいで仙台藩は周辺の藩よりも飢餓が深刻化してしまいました。

白河藩は、飢饉を見越して食料を蓄えていた。

こういう作物と経済、そして飢饉の関係は、イギリス領でも発生しています。

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アイルランドのジャガイモ飢饉。インドの大飢饉。現地民が飢えても知らぬ、作物は換金する。

そういうゆきすぎた資本主義が人を殺します。武器を使わぬこうした虐殺も世界にはあるのですね。

 

人痘の効果と利点とは?

話を人痘接種に戻しましょう。

効き目がわからない治療法を上様の男で試すなどとんでもない――幕閣は頑なな姿勢でそう主張します。

男は上様の財産扱いですが、田沼にしても家治の許可があると引けません。

と、そこへ平賀源内が訪れます。

赤面の軽症患者を連れてきたのですが、門の前で「そんなもの入れられるか!」と一悶着している。押し問答をしていて、このままでは埒が明かない……というところで、動いたのが伊兵衛。

赤面患者のできものを針でこすり、自分の腕に突き刺したのです。

これでもう人痘接種済みだ!と開き直り、赤面患者の部屋で寝起きすると凄む伊兵衛。それで生き延びたら効き目があるとの証明にもなり、こう言い切ります。

「上様の男だからこそ、赤面を防ぐのに何が文句あるんだ!」

赤面患者の病室で横になる伊兵衛に、怖くないのか?と語りかける黒木。

怖えに決まってる!と返す伊兵衛。

役に立ちたくねえはずの男が、自分の身を犠牲にしてまで、リスクに挑んでいます。

源内がまたしても旅立つところを、青沼は見送ります。

梅毒のことを心配されていると悟った源内が、痩せてしまったのは歩いたからだと強がり、そんな彼女を田沼も労います。

オランダ流のあいさつだとして握手を求める源内は、根っから明るいようで、どこか寂しげな表情を出す。鈴木杏さんが素晴らしい。

伊兵衛の人痘に怒りを燃やした定信が、田沼を糾弾しています。

成功すれば上様の男を守ることにもなるし、人痘接種を民にまで広げることで、徳川の威光をむしろ取り戻せるのではないか。

田沼が、そう主張すると

「それもそうねえ」

と、トボけたように言葉を発する治済。どうやらメリットを見出したようです。明るく穏やかにそういうと、定信も「うまくいけばそうだ」とトーンを弱めるしかありません。

 

我が子とて、この野心家にとっては駒に過ぎない

果たして伊兵衛は?

元気に回復して走り回っています! 成功です!

大奥の男たちは沸き立ち、人痘接種に向かってゆきます。

こうして大奥の人痘は成功を収めると、大名子息も希望し始めたと田沼が喜んでいる。リスクもきちんと説明し、事前に一筆いただいているとか。

青沼たちは、御曹司たちの人痘接種もこなしていきます。

その一人は、治済の一子である竹千代。この「竹千代」という命名に野心を感じます。

治済は、家康以来、将軍後継者が継ぐ幼名を我が子につけ、将軍にするつもりなのだと。

ちなみに史実と原作での幼名は「豊千代」です。一文字変えて、わざわざ字幕までつけることで、策士の野心が強まりました。

武女という、治済の懐刀も出てきます。佐藤江梨子さんが演じるあの女性です。しかも、白湯を持ってくる。

武女の不敵な微笑。シャランというサウンドエフェクトだけでも、不穏さが募ってきます。

武女が竹千代の快癒を祝うと、治済は臆病な子だが運はあると満足している。

我が子の前では慈母の顔であったにも関わらず、ここではうまく育った手駒に納得する顔になっています。

そして晴れ晴れと、田沼は用済みだという。

「の?」

圧をかけるように武女にそう言い、笑みを浮かべる治済。武女は少し顔がこわばっています。なんておぞましい笑顔なのでしょう。

 

近代は公共福祉の概念が芽生える

そのころ、同じ吉宗の孫でも、治済に比べてまだ扱いやすい定信が、田沼を呼び止めています。

定信には倫理があります。丁寧に頭を下げ、人痘接種をして欲しいと頼み込んできた。姉の子である甥二人に受けさせたいとか。

「舌の根が乾かぬうちに……」と自覚しつつ、頼み込む定信に、田沼は理想論を語ります。

人痘とは、頭を下げねば受けられぬようなものにはしたくない。それこそ吉宗の願いであろう。

誰もが受けられる――そんな公共福祉の芽生えがあります。

新自由主義が目の敵にする、誰もがアクセスできる医療。国民皆保険廃止論がこの間話題にのぼりましたが、あれは人類が長い経験とともに得た叡智の結晶だと思い出したいところです。

弱い奴は死ね。助ける必要はなし。そういうスパルタ理論、弱肉強食論みたいなことを剥き出しにしていると、社会はむしろ弱くなる。

どんな人でも簡単に医療にアクセスできることこそ、国家や社会が強くなると、近代へ向かう中、人類は学びました。

そういう意味で、この田沼は大変重要なことを体現しています。

さすがは森下佳子さん。2025年大河ドラマ『べらぼう』の田沼意次にも期待しましょう。

 

将軍家治の錯乱

このあと、家治が田沼を呼び出しています。

すっかりやつれた家治が人痘成功を労い、上様のご威光あってのことだと田沼が感謝すると、家治は何か頼みがあるようです。

それは青沼の診察でした。脚気の具合が悪く、おかしなシミもできていると。

田沼は「蘭方医は上様を診察できない」と断るものの、そこをうまくはからうようにと頼む家治。

診察をすると、なんと砒素中毒でした。

ほんの微量の砒素が、長いこと家治に盛られていたのです。治るのか?と尋ねられた青沼は、毒を断つしかないと言葉を濁します。

田沼は動揺しつつ、食事は毒味を経由しており、砒素を盛るとすれば、医師が渡す薬湯しかないと判断。田沼はその糾明をすると言います。

しかし、家治は精神が崩壊してしまう。娘の家基も毒殺されたのではないか?という可能性に思い至ったのです。

なぜ、そうも恨まれねばならぬのか?

激昂する家治の怒りは田沼に向かいます。お前のせいか!引き立てられておきながら主人を守れぬとはどういうことか!と叫ぶ。

ちなみに史実と原作では、田沼意次の子・意知が、恨みを買って殺害されています。そこは宮沢水魚さんが演じる『べらぼう』を待ちましょう。

錯乱した家治は、青沼を化け物呼ばわり。

蘭学だのなんだのいうが、将軍の体ひとつ治せない! あんなによくしてやったのにこの仕打ちか!と悔し涙を流します。

そして家治は田沼と青沼を摘み出せと叫びます。

男でありながら入っていたと、見咎められてしまう青沼。しかも老中の田沼が引き込んだとなればこれまたまずい。

それでも田沼は、己の保身ではなく薬湯を避けるよう家治に訴えています。

悪いことは重なるもので、このタイミングで、3パーセントと懸念されていた人痘の死者が出てしまいました。

横たわる少年の家紋を見て、ハッとする田沼。

それだけで恐ろしさが伝わってくる。そう、亡くなったのは、よりにもよって定信の甥でした。

冷静沈着な松下奈緒さんが、危機を悟り、崩壊する現実と向き合う顔になります。

定信は激怒しました。

定信は聡明だけれども、田沼よりも感情に流されるのです。

 

ありがとう、青沼

田沼は青沼に頭を下げ、「守りきれぬかもしれぬ」と訴えます。

それでも青沼は人痘を施す予定だと返し、死者が出たことを伝えたいと言います。己の身の危機よりも、人痘という仁の道を考えている青沼。

田沼を責めるどころか、ずっと私の主人だと頭を下げます。

「ありがとう、青沼」

青沼はその言葉をもう一度聞きたいと言います。

「ありがとう、青沼」

その言葉をじっと聞く青沼。

青沼は黒木に、一人で罪を被るとして、他の者は人痘から手を引くよう言います。

それでも蘭学仲間たちは、人痘接種に向かってゆく。黒木は力強く、気持ちは皆同じだと訴えます。

田沼は老中を免職されました。

飢饉に有効な策を見いだせない。蘭学を大奥に持ち込み、男と乱行に耽った。人痘により死者を出した。もはや老中には能わず。

家治がそう言ったとか。

それでも田沼は家治の様子を尋ねます。何ら変わりはないとのことですが。

「そうですか……上様は、もう……」

田沼は悟りました。家治の世は、もう終わったのだと。

武女が罪状を読み上げ、上様の命まで縮めたと責めると、右筆青沼に死を宣告。

そして青沼の蘭学を学んだ者は、大奥から追放すると言いました。

青沼は、ホッとしています。死罪は自分だけだったから。

なぜ先生だけなのか!と暴れる大奥の者たちに対し、それでもいいと青沼が諭す。これで大奥の外にも人痘のやり方が伝えられる。

青沼は皆に礼を言いつつ、引き立てられてゆく。

黒木が彼の背中に向かって声を張り上げます。

「ありがとうございました!」

大奥の男たちの人生に、誇りと生きがいをもたらした青沼。そんな彼は、たくさんの「ありがとう」をもらいました。

丸山遊女の母を持つ青沼。あいの子だと罵られ、蹴られ、殴られた息子に母は言いました。このくらいで済んでよかった。これからもっとつらか目にあうと。

それがどうね、兄ちゃん――そう自殺した兄に語りかける青沼。

たくさんの人から「ありがとう」と言ってもらえた。多くの人に出会えた。

斬られる前、「ありがとう」と言われるのが好きだと語る源内を思い出す青沼。

五十宮。黒木たち。田沼。彼に「ありがとう」と言った人々の顔が浮かびます。

こうして青沼は、斬首刑となったのでした。

水野の時と同じ奇跡は、彼には起こりません。

村雨辰剛さんは長崎弁を使い、難しい医療考証も受け、これほどの難役をこなしました。

彼がそこにいるだけで涙が滲む。圧巻の演技でした。

「ありがとう」と私も彼に言いたい。素晴らしい青沼でした。

 

源内は改革を夢見て、種を蒔いていた

青沼と源内の記録が消されていく中、黒木は源内のもとにいました。

病魔が進み、光を失った源内。黒木の声を聞いて、人痘が成功したのだと思い込んでいます。

きっと田沼が人痘所でも作り、黒木がそこの頭に収まったのだと喜んでいる。

青沼は元気か?と尋ねる源内。

「お元気ですよ」と返す黒木。

死にゆく病人の思い描くあるべき未来を訂正せず、信じ込ませるしかない。

皆が人痘を受けている。

大奥の蘭学講義はますます盛況。

女子も蘭学を学ぶようになった。

「えー、すごい! すごいよ! 世の中変わったんだなぁ」

源内はか細い声でそう喜び、皆に会いたいとつぶやきます。そうして「非常の人」とされる源内は、ひっそりと世を去ってゆくのでした。

これは史実の平賀源内にとっても、救いかもしれません。

晩年の彼は、才能を世を変えることに活かせなかったと悔やんでいました。

源内や杉田玄白、前野良沢が蒔いた蘭学の種はどうなったのか?

というと、芽吹いたようで幕府に禁じられ、彼らの後進には獄死する者も出てきます。

幕末になると、最後の蘭学者ともいえる福沢諭吉は悟りました。

これからは英語の時代である――。

それでも蘭学の種は無駄じゃなかった。世を変えた。改めて、そのことを思い出してゆきたい。

本草学の効能を再確認させた朝ドラ『らんまん』と、『大奥』シーズン2には、そんな過去を甦らせる力があると思います。

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そのころ治済は、田沼の後任として松平定信を老中にする旨を告げています。

白河藩に餓死者をださなかったことを踏まえてのことであり、徳川の血を受け継ぐもので政治を行なってゆこうと語りかける。

定信は、治済とともに新しい世を作ることを誓います。

面白いですよね。保守ゴリゴリで世の流れを戻すことになる定信が、「新しき世」と考えているあたりが。人間とはこういうものなのでしょうか。

ただし治済は、自らが将軍になるつもりではないとのこと。

女ではなく、我が息子を男将軍にしようと企んでいます。

しかも、ここで微笑みながら、その息子は人痘を受けていると語る。

仲間由紀恵さんが、結んだ唇をきゅっとあげる。微笑んだ目は、きれいな半円形を描く。なんて甘い微笑みなのか。

しかし、その裏には死に至る毒がある。

口に蜜あり腹に剣あり。その言葉がふさわしいおそるべき笑顔です。

 

あまりにも、理不尽ではないか!

豪雨の中、黒木は叫びます。

「女たちよ。江戸城にいる女たちよ。貴様らは母になったことがないのか? 母ならば男子を産んだことはないのか? 産んだならば、その子を赤面で亡くしたことはないのか! そういう悲しい母と子を一人でもなくすべく懸命に歩んできた者に、この仕打ちか! あまりにも理不尽ではないか!」

雷鳴の中、彼は訴える。

まるで天に向かって訴えているように思えます。

世の中を、仁あるよい方向へ変えてゆきたいのに、なぜ理解されないのか?

同時に虚しさも湧き上がってきます。

この黒木の言葉は、人としての心がある者にだけ響く。我が子を駒として扱う治済がこれを聞いたところで、あの笑みを浮かべて終わりでしょう。

世の進歩とはまっすぐではなく、ジグザクで、曲がりくねって進んでゆく。そんな虚しさへの怒りを、黒木が叫びます。

そしてこれは何も劇中だけのことではありません。

実際に江戸後期の進歩は足踏みをしてしまった。

現在だって、医学の進歩の結晶である検査なり、ワクチン接種を否定する人がいる。己のプライドや保身のために、世の進歩を拒むものはいる。そんな苦しみを黒木は訴えます。

それにしても、玉置玲央さんほど月代と裃が似合う人って、そうそういないのではないでしょうか。

時代劇がぴったり。華やかな甘い香りではなく、白檀のような魅力があります。

わからないうちは、お線香や仏壇みたいで、なんか地味だなと思ってしまうかもしれない。

けれども東洋らしさがあって、とてつもなく素晴らしい香りだとしみじみと思えてくる。そんな役者さんだなと。

筆で描いた絵のような、あるいは錦絵のような。

そういう凛々しさがあって、これからもどんどん時代劇に出て欲しいと思えます。見事な黒木でした!

 

男将軍が鈴の廊下を歩む

青沼から人痘を受ける一人の貴公子がいます。

少し怯えながらも、聡明さと健気さを見せつつ、受ける彼。

青沼は母が喜ぶと語るその少年に、親孝行で優しいと言います。

そうして目覚めた彼こそ、第11代将軍・徳川家斉です。

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夢の中のあれは誰であったか。

そうつぶやき、目覚める家斉。

男女が逆転して、また逆転した大奥で、女たちが身を伏せる鈴の廊下を、将軍が歩いてゆきます。

どこかうつろな目で歩いている、その左後ろには御台所。そして右後ろには、母である治済がいます。

 

なぜ『大奥』後半はドラマにならなかったのか?

なぜ『大奥』後半はドラマにならなかったのか?――このことを考えてみたいと思います。

まず、江戸時代後半以降がフィクションでは不人気という傾向はあります。幕末は例外としまして。

『大奥』前半はキラキラしたラブストーリーで、中世的なファンタジーとして処理できると思います。

複雑怪奇な世界ではあるけれど、華麗な衣服を身につけた王子とお姫様の恋物語のバリエーションともいえる。

しかし、医療編からは将軍の恋愛だけではないものに焦点が当たります。

青沼も、源内も、恋愛での充足感ではなく、世の中を変えることを目指した。

自分の命よりも、改革に賭けている。

そういう動機がわかりにくいとされてしまったのかもしれません。

それに、男女逆転した世界観を“元”に戻す処理も入り、そこが難解さを増しているところではありますね。

しかしだからこそ、勉強になる要素もたくさん出てきます。それこそ新科目「歴史総合」とリンクできる素晴らしさがある。

江戸時代は鎖国でもなく、オランダと清経由でさまざまなものが入り込み、変わりつつある。

そう思えるこのシーズン2は、まさしく歴史総合の世界です。

 

人痘はなぜ普及しない?

シーズン2は、シーズン1よりも見ていて苦しいかもしれません。

黒木と一緒に理不尽さに悔しがりたくもなるでしょう。

どうして人痘は普及しないのか?

これは史実でもそうであり、天然痘を防ぐことのできる種痘接種は、江戸時代後期には広まっています。

ただ、ドラマ同様、漢方医の反対もありなかなか普及しませんでした。

そこをなんとか風穴を開けていくのは、お殿様です。

江戸時代後期の藩政改革には、種痘接種の導入があがります。

幕末へ向かう中、名君と呼ばれる殿様たちが蘭方医学を取り入れたのです。

 

「有害な男らしさ」と向き合おう

江戸時代後期は、蘭学発展と共に国学や水戸学といった思想も広がってゆきます。

どんな思想なのか?一言でまとめると

「日本スゴイ!」

となるような考え方であり、日本以外のものをとにかく嫌う。

こう説明すると、

「自国に誇りを持って何が悪いんですか?」

という反論も来がちですが、もちろん素朴な愛国心を否定しているわけではありません。

過剰であることがまずいのであり、国学や水戸学のもたらした弊害は多々あります。

陰謀論とも結びつきやすいですし、今でもそういう思想史は日本史を学ぶ上でネックになっている部分もあります。

『大奥』の秀逸な点は、そんなナショナリズムとマッチョイズムを重ねてくるところ。

今後は、とうとう男女が逆転していない将軍の家斉が出てきます。

これを歴史が元に戻ったように思わせるのではなく、むしろ違和感を覚えさせ、過剰な男性性の毒まで描くところが、この作品のすごいところ。

「日本スゴイ!」思想と有害な男性性の結びつきは、これから描かれてゆくことでしょう。

シーズン1はフェミニズムが根底にあった。

シーズン2はさらにそこへ「有害な男らしさ」への問題提起も重ねてくる。

だからこそこの『大奥』は、女も男も、天下万民を救う。

青沼も、源内も、田沼も微笑みたくなる、そんな大志と仁がある作品です。

平賀源内たちが開けた穴が、幕末から明治へと繋がってゆきます。


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武者震之助

2015年の大河ドラマ『花燃ゆ』以来、毎年レビューを担当。大河ドラマにとっての魏徴(ぎちょう)たらんと自認しているが、そう思うのは本人だけである。

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