ドラマ大奥医療編 感想レビュー第13回

大奥公式サイトより引用

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ大奥医療編 感想レビュー第13回 あまりにも理不尽じゃないか!

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ありがとう、青沼

田沼は青沼に頭を下げ、「守りきれぬかもしれぬ」と訴えます。

それでも青沼は人痘を施す予定だと返し、死者が出たことを伝えたいと言います。己の身の危機よりも、人痘という仁の道を考えている青沼。

田沼を責めるどころか、ずっと私の主人だと頭を下げます。

「ありがとう、青沼」

青沼はその言葉をもう一度聞きたいと言います。

「ありがとう、青沼」

その言葉をじっと聞く青沼。

青沼は黒木に、一人で罪を被るとして、他の者は人痘から手を引くよう言います。

それでも蘭学仲間たちは、人痘接種に向かってゆく。黒木は力強く、気持ちは皆同じだと訴えます。

田沼は老中を免職されました。

飢饉に有効な策を見いだせない。蘭学を大奥に持ち込み、男と乱行に耽った。人痘により死者を出した。もはや老中には能わず。

家治がそう言ったとか。

それでも田沼は家治の様子を尋ねます。何ら変わりはないとのことですが。

「そうですか……上様は、もう……」

田沼は悟りました。家治の世は、もう終わったのだと。

武女が罪状を読み上げ、上様の命まで縮めたと責めると、右筆青沼に死を宣告。

そして青沼の蘭学を学んだ者は、大奥から追放すると言いました。

青沼は、ホッとしています。死罪は自分だけだったから。

なぜ先生だけなのか!と暴れる大奥の者たちに対し、それでもいいと青沼が諭す。これで大奥の外にも人痘のやり方が伝えられる。

青沼は皆に礼を言いつつ、引き立てられてゆく。

黒木が彼の背中に向かって声を張り上げます。

「ありがとうございました!」

大奥の男たちの人生に、誇りと生きがいをもたらした青沼。そんな彼は、たくさんの「ありがとう」をもらいました。

丸山遊女の母を持つ青沼。あいの子だと罵られ、蹴られ、殴られた息子に母は言いました。このくらいで済んでよかった。これからもっとつらか目にあうと。

それがどうね、兄ちゃん――そう自殺した兄に語りかける青沼。

たくさんの人から「ありがとう」と言ってもらえた。多くの人に出会えた。

斬られる前、「ありがとう」と言われるのが好きだと語る源内を思い出す青沼。

五十宮。黒木たち。田沼。彼に「ありがとう」と言った人々の顔が浮かびます。

こうして青沼は、斬首刑となったのでした。

水野の時と同じ奇跡は、彼には起こりません。

村雨辰剛さんは長崎弁を使い、難しい医療考証も受け、これほどの難役をこなしました。

彼がそこにいるだけで涙が滲む。圧巻の演技でした。

「ありがとう」と私も彼に言いたい。素晴らしい青沼でした。

 


源内は改革を夢見て、種を蒔いていた

青沼と源内の記録が消されていく中、黒木は源内のもとにいました。

病魔が進み、光を失った源内。黒木の声を聞いて、人痘が成功したのだと思い込んでいます。

きっと田沼が人痘所でも作り、黒木がそこの頭に収まったのだと喜んでいる。

青沼は元気か?と尋ねる源内。

「お元気ですよ」と返す黒木。

死にゆく病人の思い描くあるべき未来を訂正せず、信じ込ませるしかない。

皆が人痘を受けている。

大奥の蘭学講義はますます盛況。

女子も蘭学を学ぶようになった。

「えー、すごい! すごいよ! 世の中変わったんだなぁ」

源内はか細い声でそう喜び、皆に会いたいとつぶやきます。そうして「非常の人」とされる源内は、ひっそりと世を去ってゆくのでした。

これは史実の平賀源内にとっても、救いかもしれません。

晩年の彼は、才能を世を変えることに活かせなかったと悔やんでいました。

源内や杉田玄白前野良沢が蒔いた蘭学の種はどうなったのか?

というと、芽吹いたようで幕府に禁じられ、彼らの後進には獄死する者も出てきます。

幕末になると、最後の蘭学者ともいえる福沢諭吉は悟りました。

これからは英語の時代である――。

それでも蘭学の種は無駄じゃなかった。世を変えた。改めて、そのことを思い出してゆきたい。

本草学の効能を再確認させた朝ドラ『らんまん』と、『大奥』シーズン2には、そんな過去を甦らせる力があると思います。

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そのころ治済は、田沼の後任として松平定信を老中にする旨を告げています。

白河藩に餓死者をださなかったことを踏まえてのことであり、徳川の血を受け継ぐもので政治を行なってゆこうと語りかける。

定信は、治済とともに新しい世を作ることを誓います。

面白いですよね。保守ゴリゴリで世の流れを戻すことになる定信が、「新しき世」と考えているあたりが。人間とはこういうものなのでしょうか。

ただし治済は、自らが将軍になるつもりではないとのこと。

女ではなく、我が息子を男将軍にしようと企んでいます。

しかも、ここで微笑みながら、その息子は人痘を受けていると語る。

仲間由紀恵さんが、結んだ唇をきゅっとあげる。微笑んだ目は、きれいな半円形を描く。なんて甘い微笑みなのか。

しかし、その裏には死に至る毒がある。

口に蜜あり腹に剣あり。その言葉がふさわしいおそるべき笑顔です。

 


あまりにも、理不尽ではないか!

豪雨の中、黒木は叫びます。

「女たちよ。江戸城にいる女たちよ。貴様らは母になったことがないのか? 母ならば男子を産んだことはないのか? 産んだならば、その子を赤面で亡くしたことはないのか! そういう悲しい母と子を一人でもなくすべく懸命に歩んできた者に、この仕打ちか! あまりにも理不尽ではないか!」

雷鳴の中、彼は訴える。

まるで天に向かって訴えているように思えます。

世の中を、仁あるよい方向へ変えてゆきたいのに、なぜ理解されないのか?

同時に虚しさも湧き上がってきます。

この黒木の言葉は、人としての心がある者にだけ響く。我が子を駒として扱う治済がこれを聞いたところで、あの笑みを浮かべて終わりでしょう。

世の進歩とはまっすぐではなく、ジグザクで、曲がりくねって進んでゆく。そんな虚しさへの怒りを、黒木が叫びます。

そしてこれは何も劇中だけのことではありません。

実際に江戸後期の進歩は足踏みをしてしまった。

現在だって、医学の進歩の結晶である検査なり、ワクチン接種を否定する人がいる。己のプライドや保身のために、世の進歩を拒むものはいる。そんな苦しみを黒木は訴えます。

それにしても、玉置玲央さんほど月代と裃が似合う人って、そうそういないのではないでしょうか。

時代劇がぴったり。華やかな甘い香りではなく、白檀のような魅力があります。

わからないうちは、お線香や仏壇みたいで、なんか地味だなと思ってしまうかもしれない。

けれども東洋らしさがあって、とてつもなく素晴らしい香りだとしみじみと思えてくる。そんな役者さんだなと。

筆で描いた絵のような、あるいは錦絵のような。

そういう凛々しさがあって、これからもどんどん時代劇に出て欲しいと思えます。見事な黒木でした!

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