黒木に頭を下げ、人痘接種の再開を訴える11代将軍・徳川家斉。
男と女が同じ力を持てる世をめざしたい。男が女を守る。そんな世に変えたい。男が種付けしか脳のない木偶の坊である時代を変えたい。これでは何もできぬ、妻や子を守ることすらできぬ――。
本心から、そう訴えるように見えますが、黒木はどうしても許せない。
青沼を冤罪で打首にした。私利私欲の権力闘争に走った女どもを打首にしてやらねば気が済まない!
そうしなければ話を進められないと突っぱねます。
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男女逆転の極みがここにある
男女逆転した世界観が特徴である本作。
その極みが見えてきました。
女は妊娠出産しか能がないとか、産む機械だとか、そういうことを言われているけれど、人々の意識を変えてゆきたい――実際そんな思いが世の中を動かしてきました。
立場を逆にすることで、男女間の権利についてシビアに考えることができるでしょう。
トボトボと家斉は城へ戻り、きらびやかな鈴の廊下を歩いてゆく。
オットセイ将軍が歩いているのに、そこには何ら喜びはない。
男は性欲さえ満たされていればいい。下手をすれば男性自身すらそう思い込まされていかねない偏見を打破する場面です。
権力があろうが、美女が大勢いようが、それが一体何だというのか。
人生を賭けた結果、酒池肉林を得るのならばまだしも、はなから用意されているとなると味気ない。
家斉は世を変えることの重要性を知ったのでしょう。
そんな家斉の後ろには、あの志賀がいます。
と、そこへ御台の茂姫がやってきて、般若の形相で立ち塞がると「志賀がなぜそこにいるのか!」と叫びます。
志賀は治済の寵愛を受け、今は大奥総取締・滝沢となっているそうです。武女の後継者ですね。
目をぎらつかせ、尋常な様子ではない御台が志賀に掴み掛かり、殴る。
蓮佛美沙子さんは、まるで凄絶な美人画のようだ。
茂姫は、カステラで敦之助を殺されたと怒りに燃えています。
思えばこの薩摩出身御台の男児が夭折したことは、歴史的な転換点といえました。
もしも彼が次期将軍ならば、歴史が大きく変わったことでしょう。御台の無念の背後には、悔しがる薩摩藩もあるのです。
家斉が何とかして御台を止めるものの、地獄そのものの状態……思いあう妻が発狂してしまった。
どうすればいい?
この家斉はただの好色な人物ではありません。心が通じる妻を愛していました。妻のために彼はどうするのか?
治済に取り入る志賀改め滝沢
悲劇を引き起こした治済は、ゴシップを面白がる感覚で、嫁発狂の知らせを聞いています。
毒を盛るなんて人の所業ではない……とかなんとか平気でのたまうのですから、恐ろしくぶっ壊れてますね。
そんな治済に「あんな女は自害すればいい!」と訴えるのは滝沢。御台が側室の子を間引いていたと吹聴しています。
治済はそなただけが頼りだと滝沢に言い、菓子の毒味を任せる。
御台の逆恨みを恐れているのだとか。
滝沢は真剣な顔になり、毒味をつとめます。
治済の狙いはわかる。こやつは滝沢は頭の軽いどうでもいい女だと思っているからこそ、寵愛したのでしょう。チョロいやつだとすっかり油断し切っています。
茂姫は、無惨にも狂い、夫の前で叫んでいる。御台は御台で、滝沢が殺したのだと叫んでいます。
家斉はそんな妻を狂気ごと抱きしめるしかありません。
松方のもとに会いに来た田嶋屋とは
家斉は妻を救うため、黒木に頼み込み、人痘を実現したいと言います。
妻が後押ししてくれていた人痘。
これを為せば、彼女も正気を取り戻してくれる……と、家斉はなかなかロマンチストですね。
天下とか世を変えるとか、そんな目的が一人への愛に変わっているとも言える。
けれどもそれを告げられ、松方は治済の耳に入るからと止めます。
苛立ち、ならば治済の耳に入らぬ策を考えよと怒る家斉。
「それでも大奥最高の地位にあった男か!」
そう言われた瞬間、松方の目にもカッと火がついたようにも思えます。さあ、どうなるのか?
松方のもとに、田嶋屋という薬種問屋が薬の売り込みに来たと告げられます。
その相手は、なんと大奥にいた僖助でした。
ずいぶん立派になりましたね。僖助は、松方に書状を託します。
松方を演じる前田公輝さんの所作が実に素晴らしいですね。
書状を一息にサッとふって広げるところが素敵です。彼の有能さが所作一つで伝わってくる。
書状の字も見事で、質感もいい。黒木の書状を書く所作もいい。時代ものは、やはりこうでなくては!
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