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最後に手に入れたいものは何?
最終決戦へ向けて、さまざまな要素が積み重なってゆく『ゴールデンカムイ』。
暗号解読や、ウイルクがアシㇼパに託した謎が解かれていく中、この第七師団の三人は、ずっと付かず離れずの様相を呈しています。
そしていよいよ、金塊の隠された五稜郭にたどりついたとき、鯉登は「月寒あんぱんのひと」こと鶴見に騙されていたことを確信します。
それでも鯉登は、鶴見が自分を必要だと言えば、ついていくつもりだった。
そう突き放してくる鶴見に打ち明け、悔しそうに、悲しそうにその場を去る。このとき鯉登は、月島に呼びかけています。
鶴見はここで、月島がこれから先も自分のそばにいることを確認しています。
月島と鯉登は離れ離れになり、そして最終決戦へ向かう列車に乗り込む。
土方歳三を撃破する鯉登。
一方で牛山をかろうじて倒した月島。
二人とも負傷するものの、月島の方が重傷です。
それでも月島は、鶴見の後についていこうとする。その月島を止める鯉登。
さあ月島の選択は?
重傷を負った月島は、鯉登の隣で気を失うほかありません。
ああも絡んできた第七師団のうち、鶴見だけが杉元たちと対峙。尾形は派手な退場を遂げ、鶴見は捨て身の杉元たちによって敗北します。
こう書いてくると、妙な気はしませんか?
鶴見は結局、最終決戦は一人だけで戦った。あれだけ人を洗脳し、たぶらかしておきながらそうなってしまう。
そして月島と鯉登は、杉元と対峙するわけでもなく、負傷退場したままでした。
こうしてみてくると、第七師団の三人は、金塊を追い求めていなかったとわかってくる。
鶴見が退場間際に見せた悲しい笑顔は、今は亡き妻子を思うものでした。全てを失ったようで、彼は愛を取り戻したように思えます。
鶴見の求めていたものは、妻子への愛だったのではないでしょうか。
お互いがお互いを手に入れる
月島は鶴見の遺骸を探しています。
鯉登はそんな月島に、自分の右腕になるようにと強引に告げます。
足を踏み鳴らして月島に苛立ち、相変わらずわがままな鯉登。それでも月島はどこまでもまっすぐな人だと惚れ込んでいるように思えます。
この二人の最後の場面は奇妙です。
鯉登は父を失い、軍法会議は不可避のはず。これから苦労は山ほどあるはずなのに、月島と鯉登はハッピーエンドのような佇まいをしています。この終わり方はまるで『お嬢さん』のようでもある。
歴史の流れを追えば、主人公二人は平穏に暮らせたとは到底思えません。それでもお互いがそばにいるだけで幸せだと訴えるような結末なのです。
この二人は、金塊なんてそこまで重要でもなかった。
目的は信じ合える相手を見つけることだったように思えます。
いご草ちゃんにしか求められておらず、そんな彼女を求めてきた月島。鶴見はその穴に埋まるようで実はそうでもない。
幼くして兄を失い、何かが欠けてしまった鯉登。彼にとっても鶴見は自分を騙した詐欺師でした。
詐欺、嘘、謀略。そんな汚いものに塗れていたのに、ラストの二人はあまりに爽快でした。
思えば鯉登は見抜いていました。
月島の、鶴見に対する思いは不健康である、と。その不健康さを断ち切った彼らは生き生きとした顔をしています。
さて、ここまで、一体何の話をしてきたのか。あの無茶苦茶な闇鍋状態の漫画について話しています。
そうです。やはり『ゴールデンカムイ』は闇鍋でした。
サラ・ウォルターズのような耽美な世界観がそこに入れられているなんて、まるで闇鍋に薔薇の花びらを無造作にドッサリと入れたような無茶苦茶さに思えます。
それでも成立していますからね。改めておそろしい作品です。
月島と鯉登の接近は、作風に合わせてコメディタッチであること。
そして鯉登のズレた反応と常識人である月島の受け取りのせいか、どうにもわけがわかりません。
象徴として、鯉登の鶴見写真コレクションがあります。鯉登はコレクター気質があり、同じような鶴見写真でも際限なく集めてしまう。
おまけに謎のこだわりがあり、鶴見以外の顔に自分の写真を貼り付けてしまう。
独特のこだわりと繰り返しを好む、鯉登の個性ゆえの奇行といえます。この奇行も、鯉登本人にとっては精一杯のロマンがある。
インカラマッの出産後、鯉登は鶴見の顔の上に貼り付けていた自分の写真を半分に切る。
鶴見の隣には、月島と鯉登がいる写真に変化します。
思ったことをまっとうに説明しない鯉登の性格ゆえに、月島も読者も困惑させられますが、これには深い意味があったのです。
この写真に写っていたのは、鶴見と月島です。
月島を押し除けてでも、鶴見の隣にいたい。そう願っていた鯉登であるけれども、月島だって大事になっている。あの写真はそう示しています。
きっと本編解決後、鯉登は月島と写真館に向かい、二人の写真を撮影することでしょう。
何かの折につき写真をしつこいほどに撮り続け、アルバムでも作るのでしょう。
二人が歳をとり、白髪頭になって、温泉街で浴衣を着て写真を撮影できればいいですね。
旅館でビールでも飲みながら、しみじみと思い出を語る姿を想像すると微笑ましいですね。
月島と鯉登の思い出アルバムが分厚くなる姿を想像したくなります。
野心も、金塊もどうでもいい。そんな境地にいる彼らはきっと満たされているのでしょう。
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文:小檜山青
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