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【那波列翁伝初編】
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松陰、フレイヘイドを求める
長州藩の思想家である吉田松陰は、野山獄(長州藩の牢)の中で『那波列翁伝初編(ナポレオンでんしょへん)』を読みあさりました。
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そこで印象に残ったのが、【フレイヘイドを掲げたナポレオンがイタリアを解放する記述】です。
「フレイヘイド」とは、「自由」ということ。
自分と同じ一書生にすぎなかったナポレオンがフレイヘイドを掲げてイタリアを解放したように、自分もきっとそうできる。そう松陰は憧れていたのです。彼の師である佐久間象山から学んだ影響と言えます。
この「フレイヘイド」を求める思想こそ、「草莽崛起」へとつながってゆきます。
松陰はじめ、尊皇攘夷思想を持つ人々は、外国を敵視していました。
その一方で、夷狄であるはずのナポレオンには憧れを抱いていたのです。
沖永良部島での西郷も
文久3年(1863年)、西郷隆盛は二度目の流罪となる、沖永良部島へ向かっておりました。
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島へと向かう荷物の中に、ある本が入っていたのですが……。
それが小関三英が命がけで翻訳した『那波列翁伝初編』です。
ナポレオン伝の前半部として、コルシカ島で成長するナポレオンの成長期が描かれたものでして。
ナポレオンが生まれる直前、コルシカ島はフランス領に組み込まれました。
青年期のナポレオンは、故郷コルシカ島から政敵によって追放されるという挫折を味わい、そこから青年将校としてのキャリアをスタートさせています。
遠い島の中、西郷は何を思いながらこうしたナポレオンの人生を読んだのでしょうか。
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そんなとき、島から本土に戻り、大きく羽ばたく姿を……遠くフランスで生まれた英雄に、己の人生を重ね合わせていたのかもしれません。
なぜ幕府はナポレオンの情報を隠そうとしたのか?
にも関わらず、時に命まで賭けて翻訳する人がいたのか?
答えは、幕末になるとわかります。
吉田松陰や西郷隆盛は、ナポレオンの人生に己を重ね、国を変えることを目指しました。
コルシカ島出身の一将校から、フランス皇帝にまで出世し、ヨーロッパを征圧したナポレオン。
その立身出世は、遠く離れた日本においても、人々の心に火をつけるだけの力があったのです。
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文:小檜山青
【参考文献】
岩下哲典『江戸のナポレオン伝説―西洋英雄伝はどう読まれたか』(→amazon)
五代夏夫『薩摩秘話』(→amazon)