大河ドラマ『青天を衝け』で、徳川斉昭の最期が話題となりました。
愛する妻にキスをして死んでゆくその姿は、愛を感じさせたものですが……。
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野暮なツッコミを承知で言わせていただければ、斉昭は死の間際にキスはできない状況です。
観月の宴(かんげつのうたげ)の折、厠に立ったところ、突如心臓発作に襲われ、あっという間に急死してしまったのです。
突然死には、こんな噂がたちました。
「彦根藩士の足軽・小西貞義が、庭師に化けて厠から出てきたところを刺殺したらしい。あの急死は井伊直弼の仇討ちだって」
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荒唐無稽なゴシップなれど、そう囁かれるほどに評判の悪かった斉昭。
もちろんそれには理由があり、とりわけ下半身事情が酷い有様で、幕政にも大きく悪影響となりました。
そしてその悪癖は息子にも受け継がれたのでしょうか。
慶喜も、幕府の存続がかかった「ここぞ!」という場面で、だらしない性格の一面を見せてしまっています。
大河ドラマ『青天を衝け』で注目度の高まった二人。
ドラマでは描かれない負の史実に目を向けてみましょう。
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斉昭は精力が強すぎた
斉昭は精力が強い――。
突然何を言い出されるのかと思われるかもしれませんが、多くの幕末書籍に出てくる決まり文句といえます。
男女合わせ、子供の数は全部で37人。多くは夭折しております。
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斉昭は、内親王である正室・有栖川宮吉子女王を重んじ、側室を置きませんでした。そんな妻ですから、一人の女性というより、むしろ尊王の志を実現するために重んじたのでしょう。
ただし、その正室も含めて斉昭の精力のことは理解しています。
乗馬する吉子に斉昭が
「女が馬に乗るときは、鞍に棒を立てたら落ちないだろう」
というと、彼女はこう返したのです。
「御前は前壺に穴を開けたらよろしおすなぁ」
斉昭がどれほどの女好きだったか。
例えば、水戸の偕楽園で梅見をするときの女中たちは恐れ慄き、未婚の証である丸髷を結ったほどです。既婚であるとわかると、手がついてしまうのですからどうしようもありません。
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斉昭の大奥ゴシップ
こうした斉昭のゴシップは、皮肉屋の幕臣・大谷木醇堂の『灯前一睡夢』で書き留められていました。
あくまで自分の聞いた範囲と断りつつ、暴かれたゴシップ。まるで現代の週刊誌記事のような妖しさに満ちています。
とにかく斉昭は、幕政や大奥から不人気なことで有名でした。
最たる理由は、唐橋という大奥の上臈(じょうろう・位の高い女官)です。
京都の公家出身であるという唐橋は、美貌で有名ながら、不犯の誓いを立てていました。それは11代将軍・徳川家斉が迫っても拒むほど。
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そんな美貌の噂ゆえか、とんでもない事件が起きます。
唐橋がつとめる徳川家斉八女・峰姫が小石川邸に向かった折、斉昭が強引に関係を結び、懐妊させてしまったのです。
いったん人間関係を整理しておきますと……。
唐橋:美貌の大奥女中
家斉:11代将軍。唐橋に想いを寄せるも断られる
峰姫:家斉の娘。唐橋の主人。8代水戸藩主・徳川斉脩の正室であり、徳川斉昭の養母
斉昭:義母・峰姫に仕える唐橋を妊娠させる
主人の峰姫は激怒。家斉に訴えると、唐橋は堕胎させられ、京へと戻ります。
それでも斉昭はひそかに唐橋を呼び寄せ、茨城で囲い者にしたのです。何かと理由をつけ、水戸に帰っては逢瀬を楽しんだというのですから普通じゃありません。
ハッキリしていることがあります。
それは斉昭の性格です。
唐橋に手をつけたのは、美女だからということは当然考えられます。
しかし、それだけでしょうか?
斉昭は分家でありながら本家を潰すように動いた――幕臣たちがそう振り返っています。つまり将軍の誘いをはねつけた美女をものにすれば、将軍の面目を潰せるという考えもあったのではないでしょうか。
そしてその結果、斉昭は大奥で徹底的に嫌われました。
元から「大奥なんぞあるから軟弱になる」と持論を展開し、狩猟で獲ってきた動物の死骸を大奥で見せびらかしていた斉昭です。
大奥からすれば、将軍の誘いすら断るほど潔癖な女性が操を踏みにじられ、堕胎までさせられたということになります。
徹底して嫌われるのも当然の話でしょう。
それが後に息子・慶喜の【将軍継嗣問題】まで影響し、一橋派が一網打尽に失脚させられるという幕政の混乱を招いたのでした。しかし……。
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