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危うく生麦事件と同じ目に遭うところだった!?
ジェームスの専門は脳外科でした。
が、専門にこだわらず、いろいろな外科手術も行っています。
白内障の手術に一度だけ失敗したとのことで、まあ当時の技術では仕方のないことでしょう。その患者には実に気の毒なことですが……。
とはいえ、トラブルと無縁だったわけでもありません。
来日の翌年、東海道で商人フランシス・ホールと、宣教師兼医師のデュアン・シモンズ夫妻とともに大名行列を見物したことがあります。
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しかしそれは、よりにもよって御三家の一つ・尾張徳川家の行列でした。
跪かないジェームスらと先触れの藩士との間で、一時緊迫した空気が流れたのだとか。
このときは当の尾張藩主もオペラグラスでジェームスらを観察したといいますから、どっちもどっちですけどねw
尾張藩主は十五代・徳川茂徳(もちなが)なので、多分この人だと思われます。他の逸話が見当たらないので、人柄がよくわからないのですが、おおらかというかテキトーというか……。
ちなみに、茂徳は会津藩主となった松平容保の兄弟です。
ルート的にありえませんが、もしジェームスが容保の行列を見物していたら、生麦事件レベルの大騒動になっていたかもしれませんね。
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まぁ、その生麦事件での負傷者の治療を行ったのがジェームスだったりするんですが。
「もしかして、私もこうなってたかも……」とヒヤヒヤしながら治療にあたっていたりして。
本で初めての和英辞典「和英語林集成」
そんなこんなのうちに、ジェームスは日本人への教育機関を作ろうと思い立ちました。
当初は診療所に併設した「ヘボン塾」という小さな私塾で、後の明治学院大学の原型となります。
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ヘボン塾は男女共学でしたので、ジェームスの同僚である宣教師メアリー・キダーによって分化し、後に女子部がフェリス女学院になりました。
また、眼病の治療のため訪れた岸田吟香という女性が、治療を受けるうちにジェームスの和英辞典編纂を手伝うようになります。
そして1867年(明治元年)に『和英語林集成』として出版。もちろん、日本で初めての和英辞典です。
「ヘボン式ローマ字」は、この辞典を作る際に考案されたものでした。
政府などの依頼によって作ったものではなく、ジェームスたちが「日本人が英語を勉強しやすくなるように」と、自主的に作り出したものだったんですね。
診療所も畳んで翻訳作業に専念
ジェームスは、並行して日本語の勉強も続けていました。
和英語林集成を出版してから少し後くらいに、頼山陽の『日本外史』(※漢文体の源平~江戸時代までの歴史書)を原文で読んでいたそうですから、大多数の日本人より日本語スキル上がっとるがな。
元々頭が良いと、外国語もスラスラ入っていくものなんですかね。
和英語林集成を出版した後は、聖書の翻訳を主に手がけました。
そのためにヘボン塾や診療所の経営が難しくなり、塾は別の人に任せ、診療所も畳んで翻訳作業に専念することを選んでします。
さらには、1887年(明治二十年)に私財を投じ、他の神学校と合同で明治学院を創設。
その五年後に妻の病気によりアメリカへ帰国しています。
病人に長旅をさせるのもどうよという気がしますが……クララは帰国から四年ほど後にアメリカで亡くなっているので、帰国は正解だったようです。
いかにジェームスが腕のいい医師でも、当時の日本では西洋医学の最新情報や機材を手に入れることは難しかったでしょうしね。
ジェームス自身は、クララを亡くしてから五年後に96歳で亡くなりました。
帰国後のことはあまりわかっていないので、おそらくはご隠居生活といった感じで過ごしていたのでしょう。
明治学院では彼のモットーを今でも受け継ぎ、キリスト教の奉仕の精神からボランティアにも積極的なんだそうです。
亡くなった人の魂が海を超えられるとしたら、ジェームスが草葉の陰で喜んでいるかもしれませんね。
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長月 七紀・記
【参考】
片野勧『明治お雇い外国人とその弟子たち』(→amazon)
明治学院大学の歴史と現在(→link)
ジェームス・カーティス・ヘボン/wikipedia