太夫

江戸時代

江戸時代の大名豪商が憧れた「太夫」寛永三名妓に見る過酷な生涯とは

「この世は地獄

文学の中では、そんな表現がよく出てきます。

戦場や疫病で荒れ果てた土地など、まさにその通りな状況でありますが、本日は女性にとっての苦海とされる世界で、数々の逸話を残した人たちに注目。

延宝六年(1678年)1月7日は、寛永三名妓の一人・初代夕霧太夫が亡くなったとされる日です。

「妓」とつくからには、夜の世界で働いていた女性ということになりますが、その中で一際優れた美貌や芸、人格を持った「太夫」は伝説的な存在でした。

現代ならば芸能人みたいなものでしょうか。

江戸時代の吉原遊女は上から「太夫・格子女郎・局女郎・端女郎・切見世女郎」の五階層に分かれていたのです。

ただし、この階層は時代によって様変わりしまして、上記五階層は吉原が元吉原と呼ばれ、人形町にあった頃の話(徳川秀忠の治世)。

幕末期には八階層に分かれ、太夫という階層も消滅していたと言いますから、それだけ移り変わりが激しかったんですね。

太夫の代わりに花魁(おいらん)が高級遊女を指すようになったとも言います。

いずれにせよ太夫になれるのは、吉原3~4,000人の遊女のうち20~30人だったと言いますから、それだけ選ばれし美貌と知性の女性だったことは間違いないでしょう。

 

太夫に上り詰めるまでの苦労は苦界そのもの

太夫がいるような妓楼に通えるのは、大名や豪商といったごく一部の人だけ。

しかし、妓楼の生活を「苦界(くがい)」というように、太夫に上り詰めるまでの苦労は、皆何となく知っていました。

だからこそ「そんな状況で頑張り続けた女は、さぞ美しくて立派なのだろう」ということになるわけです。

現在の夜の世界と同じように、江戸時代の妓楼でも女性たちは芸名を使って働いていました。

寛永三名妓は、それぞれ郭の中で特に優れた女性にだけ襲名を許される名前です。

だから“初代”なんですね。

といっても初代夕霧太夫の場合は、本名まで伝わっています。

「照」というお名前だったそうです。

生まれや妓楼に入った経緯ははっきりしませんが、一説には京都市右京区あたりの出身で、扇屋という妓楼に入ったといわれています。

そして扇屋が大坂に移転したため、「大坂の美女といえば夕霧太夫」と呼ばれるまでになったとか。

美女であれば話のネタにもされやすいもので、夕霧太夫の死後、彼女を巡るストーリーの歌舞伎や浄瑠璃の演目がたくさん作られました。

よしながふみ先生の「大奥」でも、江島生島事件のきっかけとなる場面で「夕霧名残の正月」が演じられていましたね。

タイトルをパッとみた感じだと、源氏物語の夕霧(光源氏の息子)を思い浮かべる人もいるかもしれませんが、この「夕霧」は夕霧太夫のことです。

さて、寛永三名妓の他の二人についても触れておきましょう。

 

二代目吉野太夫

夕霧太夫同様、京都に生まれて京都の妓楼に入った人です。

「吉野」というのもまた世襲される名前なのですが、中でも二代目を襲名した女性が才色兼備で知られています。

彼女は小さい頃から妓女の見習い・世話係である「禿(かむろ・ハゲではない)」として妓楼に入り、14歳で妓女として最高の位である太夫になったといわれています。

彼女がいつ頃から客を取るようになったのかは定かではありません。

禿の後に「新造(しんぞう)」と呼ばれる見習い期間があり、17歳くらいでデビューするのが平均だったので、二代目吉野太夫はか

なり早い年齢でお座敷に出ていたと思われます。成長が早くて大人っぽい感じの人だったのかもしれませんね。

二代目吉野太夫は和歌や音楽はもちろん、書や茶・香・華道にも優れ、囲碁やすごろくといった遊びも極めていたとされます。

外見だけでなく、知性の成長も早かったのでしょうか。

もちろん美貌もかなりのもので、「寝起き姿でも他の太夫と一線を画していた」とか、「名声が明(当時の中国)まで届いた」といわれるほどでした。

それだけに競争率も非常に高く、後陽成天皇の皇子で近衛家に入った近衛信尋と、豪商かつ文化人である灰屋紹益が取り合い、最終的に吉野は紹益に買われる形で郭を出ました。

信尋は非常に落胆したといわれていますが、もしかすると近衛家や皇室・宮廷の誰かが紹益に有利になるよう仕向けたかもしれませんね。

臣下になったとはいえ、皇室の血を引く人が娼妓を身請けするというのは、あまり好ましい話ではなかったでしょうし。

まあ、当時の公家や皇室の困窮ぶりからして、ただ単に信尋より紹益のほうがお金を出せた可能性も高いですが。

夜の世界は、昼間にも増して金の力が物を言いますからねえ。

吉野はそれから12年ほど人の妻として過ごし、穏やかに亡くなったようです。

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