桂昌院

桂昌院(お玉)/wikipediaより引用

江戸時代

五代将軍綱吉の母・桂昌院が八百屋の娘というのは本当か?大奥竜雷太

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前述の通り、彼女は最終的に女性として最高位の従一位となり、宝永2年(1705年)に79歳で天寿を全うします。

経歴だけ見ればまばゆいのに、その評価は低い。

大奥作品においても、お玉(桂昌院)は大事に扱われません。

家光の心を開く運命のヒロインは、彼女が仕えていたお万の方(永光院)が務めます。

桂昌院の描かれ方は、綱吉を溺愛して堕落させ、身分が低く教養がない、迷信深い愚かな母――悪役としてドラマに登場することすらありました。

 

綱吉悪政の原因だったのか?

徳川幕府の将軍は、家康の子が多かったから保たれた一面があります。

二代・徳川秀忠以降は決して子宝に恵まれたとは言えません。

例外は、あまりの子沢山ぶりに“オットセイ”とささやかれた徳川家斉ぐらいであり、家光の代で既に存続の危険性すら見えていました。

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なんせ家綱に続いて、綱吉も世継ぎができないのです。

そんな中、桂昌院についてはまたしてもゴシップが囁かれるようになりました。

信心深く、仏教に帰依する桂昌院は、僧・隆光を紹介され、こう言われたとされます。

「お世継ぎに恵まれないのは、前世に殺生をした報いです。殺生を禁じなさい。御上は丙戌(ひのえいぬ)の生まれです。とりわけ犬を大事になされますよう」

この言葉を信じた桂昌院が息子をせっつき、【生類憐れみの令】を出させたとまで言われます。

しかし近年の研究では、この迷信話は否定されています。

生類憐れみの令は、そんな単純な思いつきではなく、武断政治から文治政治への転換を図った一環であると評価されているのです。

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変わりつつある桂昌院の評価

桂昌院は、綱吉の悪評に大きな影響を与えています。

無知で身分の低い八百屋の娘が、迷信に惑わされて将軍を動かした――そんな評価を押し付けられてしまった。

確かに彼女は信心深く、寺社仏閣の復興に尽力しました。

しかし、それを悪く言うのは、さすがに無理なこじつけでしょう。

男女逆転版『大奥』では、万里小路有功の部屋子・玉栄(演:奥智哉さん)として登場します。

彼は幼い頃、物乞いをしていました。そのとき、通りすがりの僧から「将軍の父となる」と予言され、玉栄がこのことを語ると家光は笑い飛ばします。

しかし、有功との間に子ができぬ家光は、玉栄を含めた他の男に身を委ねることになるのでした。

家光の死後、玉栄は出家し、桂昌院(演:竜雷太さん)となります。この桂昌院は、彼が若い頃に薫陶を受けた春日局が再来したように、我が子・綱吉に子を産むよう迫る。

それが綱吉を追い詰め、そして子を産むだけが人生ではないと喝破する右衛門佐に惹かれることとなります。

綱吉の評価の見直しと共に、母として再評価される桂昌院。

2022年には藤村真里さんの漫画『めでたく候』において彼女の人生が描かれました。そのあらすじは次の通り。

◆あらすじ

野菜売りを営む親の元に生まれた娘は、様々な出会いと別れを経験し、ついに大奥のトップへ昇り詰める。

三代将軍徳川家光の側室にして五代将軍徳川綱吉の生母、桂昌院の生涯を描く、日本一のシンデレラストーリー!!

ついに彼女は、その人生の波乱と栄光が肯定的に語られるようになったのです。

八百屋の娘という出自も、きらびやかな人生を強調するものとして扱われ、生き方だけでなく、評価からも目を離せない。

そんな魅力のある女性に生まれ変わりつつあるのではないでしょうか。

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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
塚本学『徳川綱吉 (人物叢書)』(→amazon
山本博文『将軍と大奥 -江戸城の「事件と暮らし」』(→amazon
別冊歴史読本『徳川家歴史大事典』(→amazon
歴史群像シリーズ『大奥のすべて』(→amazon

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