慶安4年(1651年)4月20日は徳川家光の命日です。
皆さんは、この三代目にどのようなイメージをお持ちでしょうか。
15人いる徳川将軍の中ではそれなりに知名度があり、マンガや映像作品などのフィクションでも御馴染みの存在。
ただし、弟(忠長)が父母に寵愛されるせいか、どことなく自信なさげで気弱――そんな風に、若干ネガティブな一面もクローズアップされがちです。
特に大奥作品では、彼のコンプレックスはことさら強調されますが、一方で、史実における政治外交の事績を見ると、これが、なかなか印象が変わってきます。
祖父・家康と父・秀忠の後を継ぎ、江戸時代の基礎を作り上げた将軍とも言えるのです。
その生涯を振り返ってみましょう。

徳川家光/wikipediaより引用
お好きな項目に飛べる目次
お好きな項目に飛べる目次
徳川宗家待望の跡継ぎ 徳川家光
時は慶長9年(1604年)7月17日――。
江戸城西の丸で、徳川秀忠の二男が産声を上げました。
実は秀忠には2年前の慶長7年に男児が産まれ、自らの幼名「長丸」と名付けながら、ほどなく夭折していました。

徳川秀忠/wikipediaより引用
その最中に生まれた待望の男児。
やや早産ではあったものの健康であり、伏見にいた徳川家康もこの報告を聞くと喜び、今度は家康の幼名から「竹千代」と名付けられました。
賑やかな誕生祝いも催され、生まれてすぐに小姓、乳母の稲葉福がつけられます。
徳川宗家後継者の堂々たる誕生です。
家光が三歳のときに大病を患うと、祖父・家康が自ら調薬するほどの気の使いようであり、博士も薬師もお手上げだった病気はそのおかげで治ったとか。
なお、慶長11年(1606年)に生まれた弟・国松には、乳母がつけられず、母の乳を飲んで育ちました。
竹千代と国松 お世継ぎはどちら?
竹千代と国松――秀忠の二男と三男が揃うと、フィクションでもおなじみの火花が散らされることになります。
兄弟の母は、お江(江与・小督とも/本稿はお江で統一)。
浅井長政と織田信長の妹・お市を母とする「浅井三姉妹」の三女であり、秀忠の妻となるまで二人の夫がいるなど、苦労を重ねてきた女性です。

お江(崇源院)/wikipediaより引用
一方、竹千代の乳母となった稲葉福は、明智光秀家臣・斉藤利三の娘――以下、春日局で統一しますが、いうまでもなく彼女も苦労人です。
「信長の姪」と「光秀重臣の娘」が同じ場所に立つ。
どうしたって因縁を感じさせるもので、各方面で関心を集めてきました。
お江は弟の国松(徳川忠長)を偏愛し、妻の影響もあってか、秀忠も次第に傾倒。
次の将軍は弟・国松にしたい。
そんな野心を募らせるお江と、言いなりになるしかない秀忠という構図がフィクションの定番とされます。
国松ばかりが溺愛された理由は、さまざまな推測がなされてきました。
・竹千代は暗愚で醜く、国松は聡明で美貌の持ち主であった
・竹千代の実母は春日局である
・お江vs春日局の影響
いずれも物語では盛り上がる設定。
確たることは言えないですが、史実で全く根拠がないともいえません。

徳川忠長/wikipediaより引用
幼い竹千代は無口で頼りなく、これで将軍になれるのか?と心配する声があったとされます。
理由はともかく、両親が国松を溺愛したことは確かなのでしょう。
「生まれながらの将軍である」という家光の言葉は有名ですが、そう単純なことでもありません。
フィクションで御馴染みの対立
そして、ここにもう一つの有名な逸話が生まれます。
「竹千代の将来を気に病んだ春日局が家康に直訴すると、御大自ら解決に乗り出し、江戸城で対面するときに兄弟の待遇に差をつけた」というものです。

春日局/wikipediaより引用
山田風太郎の小説『甲賀忍法帖』および漫画版『バジリスク』では、この幼い兄弟のうちどちらを将軍とするか、伊賀と甲賀忍者の対決で決めるという物語がありました。
話としては荒唐無稽のようで、劇中で春日局が旅をしている設定は、こうした逸話を基にしています。
ともかく、この兄弟の争いは、多くのフィクションで人気を博し、他に例を挙げますと『柳生一族の陰謀』のラストで家光は、なんと生首になってしまいました。
日本史の枠からはみ出すと、かくも家光は無茶苦茶な扱い。
「どんな事績があるのか?」というより、「どんなフィクションでどう扱われたか?」という点に注目が集まるようです。
では、史実ではどうだったのか?
竹千代の三代将軍の座が決定的になったのは、【大坂の陣】が終結した元和元年(1615年)あたりとされます。
一方、争いに敗れた国松(後の徳川忠長)はどうなったか?
甲府藩主を経て駿河藩主となるのですが、結局、後に改易となり、寛永10年(1634年)12月6日に切腹を命じられました。
享年28。
フィクションに出てくる忠長は、聡明な美青年の姿が定番でした。
しかし、南條範夫の『駿河城御前試合』および漫画『シグルイ』では、とてつもない暴君というイメージが形成されています。
※続きは【次のページへ】をclick!