千代姫

江戸時代

家光に溺愛された長女・千代姫~尾張徳川家に嫁ぎ“お姫様”な一生を送る

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プリンセス中のプリンセス

最後の理由三つ目は、彼女が生涯「将軍家の姫」という扱いを受け続けたこと。

千代姫は嫁に行った後もずっと「姫様」と呼ばれているのです。

それは家臣だけでなく、夫の徳川光友や息子達もでした。奥さんのほうが身分が高いので特別扱いされたんですね。

徳川光友/wikipediaより引用

嫁入り道具にもその片鱗がうかがえます。

「初音の調度(=家具や身の回りの品)」として現在名古屋の徳川美術館に所蔵されているものが有名ですかね。ちなみにミクとは関係ありません。

この時代、大名家の姫は『源氏物語』の「初音」の段から学ぶのが慣例化していました。

光源氏の人生最盛期ともいえる段で、お正月のめでたい様子が描かれている話です。

その縁起の良さ、女性達の慎ましやかな様子から「高貴な女性はこうして過ごすもの」という見本として教材に選ばれたのでしょう。

初音の調度はこの段に出てくる和歌を題材にとった蒔絵(漆の上に金粉や色つきの粉で描く絵)が施されており、その品数の多さや絵の見事さから「一日見ていても飽きることがない」とまでいわれました。

漆だけでも熟練した職人が必要ですし、その上に金銀を使って絵を描くとなればさらに多くの人の手が要ります。

当然費用はうなぎ上り。

それを気前良くポーンと出した家光の子煩悩さ、姫とともに受け取った尾張家のgkbrぶりが目に浮かぶようです。

とはいえ、大名家の正室は江戸藩邸に住むことになっていましたので、実際には数百メートルしか移動しておらず、調度品や衣類などが紛失・破損するおそれはさほどなかったでしょうけども。

この三つが絡み合い、千代姫は嫁ぎ先でも相当大事にされていたと思われます。

決して大人しいばかりの姫ではなく、「私が男だったら今頃将軍をやっていたのに」なんてことも言っていたそうなので、やはり家光の娘なんだなあという気がしますね。

夫・徳川光友はこのお姫様を上手に扱えたようで、夫婦仲についてはとくにゴタゴタしたとかトラブルがあったというような話は伝わっていません。

千代姫から尾張家三代・徳川綱誠(つななりor つなのぶ)が生まれていますし、早世した子を含めれば四人の子宝に恵まれています。

将軍家への体面のためといえばそれまでですが、千代姫がちょっとでも不満に思えばいつでも実家へ言いつけられたでしょうから、おそらく政略結婚としては順調な夫婦生活だったのではないでしょうか。

 


名古屋城を見ることはなく

彼女の生涯で残念だったと思われることは一つ。

それは、天下の名城・名古屋城を自分の目で見られなかったことではないでしょうか。

名古屋城と本丸御殿跡

名古屋城は、千代姫からすれば曽祖父の家康が、歴戦の大名に命じて作らせた城。

建物は違いますが、かつては織田信長が生まれた場所でもあります。

当時は那古屋城で、現在、信長の生誕地は勝幡城(しょばたじょう)であることが確実視されていますが、いずれにせよ信長と縁の深いお城ですね。

光友も当然話の種にしたでしょうし、藩邸に出入りする家臣達からどんなところか聞き知っていたことでしょう。

例え夢物語だとわかっていても、一度見てみたいと思っていた可能性は十分にあります。

光友がその意を汲んだのか、はたまた彼女自身が言い残したのか、初音の調度は千代姫の死後、一式揃えて名古屋城へ送られました。

普通嫁入り道具は代々江戸藩邸で受け継いでいくものでしょうし、それをあえて国許へ送ったからには何か理由があったと見て間違いないでしょう。

千代姫の遺体は将軍家の一員として増上寺に葬られているのですが、もし生前からそれを知っていたとすれば「愛用の品に宿って、名古屋のお城を見に行きたい」と思っていたのかもしれませんね。

ちょっとロマンチックすぎ?


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長月 七紀・記

【参考】
国史大辞典
歴史読本編集部『歴史読本2014年12月号電子特別版「徳川15代 歴代将軍と幕閣」』(→amazon
歴史読本編集部『歴史読本2013年1月号電子特別版「徳川15代将軍職継承の謎」』(→amazon
霊仙院/wikipedia

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