三浦庄司

江戸時代 べらぼう

『べらぼう』原田泰造演じる三浦庄司とは何者か?元農民が意次の下で果たした役割

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田沼政治が憎まれる一因を作ってしまう

大河ドラマ『べらぼう』で田沼意次が陰謀を練るのは、気を許したほんの数名に限られますね。

三浦庄司と共に同席している嫡男の田沼意知は、天明4年(1784年)、佐野政言により江戸城内で斬りつけられ命を落としてしまいます。

田沼意知(左)に斬りかかる佐野政言/国立国会図書館蔵

この非業の死に対し、江戸っ子たちは快哉を叫びました。

斬りつけた佐野が「世直し大明神」と呼ばれたほどで、「自分たちはこれほど憎まれていたのか……」と、田沼主従は愕然としたことでしょう。

しかし、十代将軍・徳川家治の信任があるからには、それでも気力を振り絞り、政治を進めていくしかありません。

そんな中で、天明6年(1786年)、意次は三浦庄司の献策「御用金」を採用します。

いったいどんな策か?

元を辿れば桑名藩士・原惣兵衛の発案とされます。

原惣兵衛が大坂にいたとき、東照宮修復のため豪商から金を集め、成功した経験がありました。

『べらぼう』でも序盤から「入銀」という金の集め方が出てきます。

有志が金を出し合い、大きな事業を実現するというもので、現代の「クラウドファウンディング」と似たような仕組みと言えるでしょう。

ただしその実態は、進んで金を出すというよりも、同調圧力で渋々出したり、騙されて出す者もいることが、劇中でも描かれていましたね。

明和南鐐二朱銀/wikipediaより引用

この入銀のような仕組みを、全国規模に拡大し、町人や農民まで含めて金を徴収することが御用金。

以下のような流れで進められる仕組みでした。

・集めた金を「公金貸付」制度に利用する

・そのうえで大阪に「貸付会所」という組織を設立する

・出資者には利益をつけて還元

現在の銀行に通じる斬新な策なのですが、そうすんなりと納得されるわけもありません。

劇中の花魁・松の井の言葉を借りれば、こうなるのでしょう。

「民は打ち出の小槌でありんせん。やるならやるで、わっちらにお鉢が回って来ないような工面の手を考えておくんなんし」

入銀という、出資者を募るやり口は江戸っ子にもお馴染みであり、しかもタカるたかるような手段だということは『べらぼう』でも何度も語られました。

天明年間は、ただでさえ天変地異とそれに伴う物価上昇により、民は生活苦に喘いでいます。

浅間山の天明大噴火を描いた「夜分大焼之図」/wikipediaより引用

やってられっか!と、なっても不思議はありません。

実際、この政策は大反発を招き、田沼凋落の一打となる失策といえました。世の人々はますます彼らを憎むようになったのです。

そして追い打ちをかけるかのように、同年、意次が後ろ盾としていた十代将軍・徳川家治が没してしまいました。

 


田沼派の失墜により、歴史の中に消える

最大の拠り所だった徳川家治を喪った田沼意次の一派。

徳川家治/wikipediaより引用

もはや庇う者はおりません。田沼の時代は終わり、たちまち転落してゆくこととなります。

知行を大幅に減らされ、田沼意次と接近していた人脈は蜘蛛の子を散らすように去ってゆきます。

三浦庄司も「御用金」の責任を取らされ、田沼家を去るしかない。

田沼全盛期には、その側近である三浦にも、姻戚関係を結ぼうと近づいてくるものもいましたし、実際、兄と弟は福山藩で重用されてもいます。

しかし、もはや田沼の家臣など、終わった人物です。

世間はこんな陰口を叩いてました。

「井上寛司にせよ、三浦庄司にせよ。どこの馬の骨かもわからん低い身分から取り立てられたらしい。そんな卑しい連中を用いるなんて田沼は下劣な奴だった」

田沼意次という大樹が失脚すると、その配下のものまで、悪事を彩る脇役とされてゆきます。

かくして懐刀であった三浦庄司は世間から消えてゆくのです。

失敗の責任を取らされ、田沼家から暇を出された三浦が、その後、何処に流れていったのか。

その詳細は不明です。

田沼健在の頃には三浦の親族を取り立てようとする武家もありましたが、失脚後はことごとく離縁。

田沼家は存続します。

しかし、その家臣の列に三浦庄司に連なる者の名はありませんでした。


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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link

【参考文献】
藤田覚『田沼意次』(→amazon
江上照彦『悪名の論理』(→amazon
安藤優一郎『蔦屋重三郎と田沼時代の謎』(→amazon

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