ポーツマス条約

ロシアを熊に見立てた世界地図/wikipediaより引用

明治・大正・昭和

ポーツマス条約はなぜ国民に大不評だったのか? 日露帰還兵も翳背負い

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腐っても大国ロシア 賠償金どころの話ではない

振り返ること10年前。

1894年に始まった日清戦争に勝利した日本は台湾を得て、賠償金も獲得しておりました。

今度もそうなるだろう――と、国民は皆、胸を躍らせておりました。

当時の国民は、ロシアから

◆樺太・カムチャッカ・沿海州全部の割譲

◆賠償金30〜50億円

これぐらいの戦利品はもらえるだろうと踏んでいたのです。

政府の苦しい実情を知らない庶民は、新聞があおり立てる勝利の熱気を信じ、すっかりそのつもりでした。

一方で小村は、桂太郎のロシアへの要求に賠償金が含まれていることに気づき、ウンザリでした。

「桂の馬鹿が! 賠償金を取れると思っているのか」

小村の前に立ち塞がったのは、ロシア随一の政治家ヴィッテ。

崩壊する帝国の中、数少ない希望といえたのは、彼の辣腕ぶりです。

ヴィッテ/wikipediaより引用

ヴィッテの強硬な態度に困り果てた小村は、このままでは議論は永遠に平行線で講和が成立しない、と政府に電報を打ちます。

明治政府は大慌てで元老と閣僚を呼び、御前会議を開催、領土と賠償金を放棄してでも講和すべし――と小村に伝えたのです。

ニコライ2世も南樺太ならばと折れ、かくしてポーツマス条約は合意に至ったのでした。

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政治家の暗殺に躊躇はない

ポーツマスでは祝砲が鳴り響き、アメリカやヨーロッパの新聞は、盛んに日本は人道的で素晴らしいと絶賛。

金もいらない、土地もいらない、道義のために戦う日本、素晴らしい、というわけです。

メリットはあった、ともいえます。

・朝鮮半島における日本の優位性確保

・満州からのロシア軍撤退

・樺太南半分の獲得

・大連と旅順の租借権をロシアから得る

粘り腰で交渉した小村の面目躍如でした。

しかし、日本国民と新聞は納得しません。

ロシア相手に、こんなに苦労して勝利を得たというのに、たったこれだけ? 冷や水を浴びせられた気分です。

桂太郎の家には石が投げつけられ、愛人宅(お鯉こと安藤照)にまで脅迫状が届けられました。

日露戦争の真っ最中に、親子ほど歳の離れた女を妾とした桂は、人々から酷く憎まれてもいたのです。

その憎悪はお鯉に向けられ、殺人予告までされてしまい、首相官邸に匿われたことすらありました。

晩年、出家した安藤照/wikipediaより引用

戦前の日本人は、奸悪とみなした政治家を殺すことに躊躇がありません。

それだけではおさまらず、ついには暴力事件まで発生します。

1905年9月5日、ポーツマス条約に反対する人々が暴徒と化し、日比谷焼打事件が起こるのでした。

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帝都初の戒厳令

騒ぎは神戸や横浜におよびました。

電車が焼き討ちにされ、教会には石が雨あられと投げつけられ、ついには鎮圧に軍隊で出動。

検挙者2千人という大事件となります。

暴徒の大半は血気盛んな人夫・車夫・馬丁、当時の都市で最下層の労働者たちでした。

日常生活の怒りや社会への不満が、こうした暴動にぶつけられたのでしょう。政府は対応を迫られます。

まずは9月6日、帝都初の戒厳令。

外患ではなく、内憂で戒厳令まで出される、まさに異常事態です。

あわせて、新聞雑誌取締令が出されました。

明治政府の成立以降、「新聞紙条例」「讒謗律」という法律により、政府は新聞やジャーナリズムを厳しく取り締まってきました。

言論の自由と弾圧の間で駆け引きが続いてはいたものの、変化の兆しはありました。

明治30年(1897年)には、内務大臣による新聞発行停止権が廃止されていたのです。

ところが、日比谷暴動にともなう戒厳令の中で、それすら反故。

記事だろうが、広告だろうが、暴動を煽るようなものがあれば、即座に取り締まり対象とされました。

戒厳令と言論統制というセットが、国民を縛るようになったのです。

政府寄りの新聞以外は、地方紙まで発刊停止というあまりに強硬なものでした。

ゴールデンカムイの杉元たちが読んでいてもおかしくない『小樽朝報』も、停止されています。

特に厳しい処分を受けたのが『東京朝日』でした。

発行停止期間は15日。

政府批判。非戦論者。彼らの口と筆は封じられていました。

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