こちらは3ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
【牛車】
をクリックお願いします。
お好きな項目に飛べる目次
馬
馬についてもご紹介していきましょう。
馬といえば武士のイメージが強い方も多いかもしれませんが、実は平安貴族も乗る機会が多々ありました。
主に儀式の場や、お忍びで出かけるときに牛車の準備をする時間が惜しいときなどに使われています。
貴人の従者として従う男性も、よく馬を用いています。
主人が乗っている牛車の牛も、遠方へ行く場合は時折休ませなければなりませんので、そういった面での不都合はなかったのでしょうね。
葵祭では「騎女(むなのりおんな)」といって、斎王に仕える女官が馬に乗って行列に従っていました。
現代の葵祭でも騎女が参加しているので、見たことがある方もおられるのではないでしょうか。
平安装束では女性も日常的に袴を用いていたため、比較的馬に乗りやすかったと思われます。
『源氏物語』では、「総角(あげまき)」の帖で、匂宮が馬でこっそり宇治へ行くシーンが印象的でしょうか。
そのとき、匂宮は「軽々しい行動が過ぎる」と母后・明石の中宮から叱られ、外出を止められていました。
しかし匂宮は、宇治の姫君・中の君と関係を持ったばかりで、外出を止められたのは最も大切な三日夜の餅の儀式をするべき日という間の悪さ。
平安貴族が結婚に至るまでの不思議な手順~文を書き夜を共に過ごして三日通う
続きを見る
そのためなんとしても匂宮は宇治に行きたいと思い、幼なじみで宇治への手引をした薫に嘆きます。
すると薫は
「私が中宮様に何とか言っておきますので、目立たぬように馬で宇治へお行きください」
と言い、匂宮は感謝して馬で宇治へ向かいました。
また『蜻蛉日記』では、著者である藤原道綱母の家の近所で火事があった際、夫の藤原兼家がやってきて、
「以前であれば馬に飛び乗ってでも来られたけれど、そうもいかない身分になってしまって……」
と、言い訳のような本音のようなことを口にしたシーンがあります。
藤原兼家の権力に妄執した生涯62年を史実から振り返る『光る君へ』段田安則
続きを見る
藤原道綱母と『蜻蛉日記』が今でも人気あるのは兼家との愛憎劇が赤裸々だから
続きを見る
やはり身分の高い人は、よほどのことがない限り牛車を使うもの、とされていたことがわかります。
それだけに、前述の匂宮の愛情がうかがえますね。
舟
最後に舟も見ておきたいと思います。
平安貴族の舟は、大きく分けて2つの役割がありました。
ひとつは、遊び道具の一つとして舟を用いるものです。
寝殿造りの絵や模型などでは必ず大きな池がありますが、そこに舟を浮かべて船上から庭を眺めたり、詩歌を詠んだりなどして非日常を楽しむものでした。
「三船の才」の逸話や、物語でもたびたび舟遊びの描写がありますね。
もうひとつは移動手段としてです。
特に地方へ赴任する国司やその家族は、道中に川や海があれば渡し船を用いました。
陸路は牛車を使い、途中で舟を使う場合は牛車を別の船に乗せて運び、対岸に着いたらまた牛車に乗っていたのです。
現代でも自家用車をフェリーで運び、現地でまた乗ることがありますので、似たようなイメージかと思われます。
なんでわざわざ牛車を持っていくのかというと、特に地方へ下る場合、現地で牛車が調達・修理できるとは限らなかったからです。
特に帰路のことを考えれば、持参するほうがより確実ですよね。
このように、動物や人の力を用いてさまざまな乗り物が使われていました。
大河ドラマ『光る君へ』に限らず、平安時代を描いた作品を鑑賞する際は、乗り物に着目してみるのも一興かもしれません。
あわせて読みたい関連記事
◆ドラマや平安時代など全ての関連記事はこちら→(光る君へ)
◆以下、名前をクリックすると各人物伝の記事へ飛びます
紫式部 まひろ | 藤原為時 まひろ父 | 藤原惟規 まひろ弟 | 藤原宣孝 まひろ夫 |
藤原道長 兼家三男 | 藤原兼家 道長の父 | 藤原道兼 道長の兄 | 藤原道隆 道長の兄 |
藤原時姫 道長の母 | 藤原寧子 道綱の母 | 藤原道綱 道長の兄 | 高階貴子 道隆の妻 |
藤原詮子 道長の姉 | 一条天皇 66代天皇 | 藤原定子 道隆の娘 | 藤原彰子 道長の娘 |
源倫子 道長の妻 | 源雅信 倫子の父 | 藤原穆子 倫子の母 | 赤染衛門 女流歌人 |
藤原公任 道長の友 | 藤原斉信 道長の友 | 藤原行成 道長の友 | 藤原実資 ロバート |
藤原伊周 道隆嫡男 | 藤原隆家 道隆四男 | 清少納言 ききょう | 清原元輔 |
藤原頼忠 公任の父 | 安倍晴明 陰陽師 | 源明子 道長の妻 | |
円融天皇 64代天皇 | 花山天皇 65代天皇 | 藤原忯子 | 藤原義懐 |
朱仁聡 宋の商人 | 周明 宋の医師 | 三条天皇 67代天皇 | 藤原顕光 兼家の甥 |
藤原頼通 道長嫡男 | 藤原為光 忯子の父 |
◆配役はこちら→光る君へキャスト
◆視聴率はこちらから→光る君へ全視聴率
◆ドラマレビューはこちらから→光る君へ感想
長月 七紀・記
【参考】
京樂真帆子『牛車で行こう!-平安貴族と乗り物文化-』(→amazon)
国史大辞典
ほか