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【鎌倉幕府の文士】
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扇子にみえる文武両道
幕末に来日した外国人は、男性の和服正装には「扇子が含まれている」と書き記しています。
若き日の福沢諭吉ら幕臣たちも、扇子を手にした写真を残しました。
扇ぐための道具ではなく、マナーとして定着していたのです。
再び『鎌倉殿の13人』を思い出してください。
扇子を手にしている京都からきた文官たち。
この扇子は当時高級品であったのか、しばしば当時の贈り物の目録に登場します。
かくして坂東にも扇子が到達するのです。
主役である北条義時は、初めの頃は腰に矢立(やたて・筆と墨壺を組み合わせた携帯用筆記道具)を、腰刀の横にさしていました。
それが出世と共に扇子をさすようになります。
木簡で米を数えるような実践的な雑事ではなく、もっと責任の重い業務を担うようになったことのあらわれでしょう。
北条義時が手にしていた「木簡」紙の普及が遅い東国では超重要だった
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では、扇子とはそもそも何か?
文官の持ち物は、中国を手本にしておりました。
束帯の文官が持つものは「笏」(しゃく・本来の読み方は“こつ”)。
この笏には、儀式の手順といったメモが書かれていて、カンニングペーパーのような使われ方をしていたのです。
そのうち誰かが『どうせなら何枚にも重ねておけば、もっと色んなことが書けるんじゃないか?』と考えたのでしょう。
笏は檜扇に変化し、さらに檜扇が扇子となり、かくして文官が手にするものとして扇子が定着したのです。
これが中国に伝わり、宋代から明代ともなると主に男性向けのアイテムとして定着し、朝鮮にも伝わりました。
扇子を手にして仰いでいる男性は、自らの教養や知性に自信を持つ人物として描かれます。
武勇が自慢――そんな元気お兄ちゃんとは異なる人物像をアピールしていることが定番です。
そして日本でも、男性の正装アイテムとなりました。
本来は文官のものであったにも関わらず、広く社会全体に取り入れられていきました。
文武両道が定着した証がこんなところにもあります。
融合していく文武
武士が統治していた江戸幕府が終わり、明治時代が訪れると、さらに日本の文武は融合してゆきます。
武士の時代が終わり、四民平等とされる明治において、皇族や公家も表舞台に立ちました。
明治政府は西洋こそ文明国であるとみなし、なんとかして追いつこうとしています。
彼らはヨーロッパの王侯貴族を参考にしました。
西洋では文武の区別が明確でなく、王侯貴族は武力行使をして正統性を獲得していた。
イギリスの貴族は狐狩り楽しんでおりましたが、こうした娯楽も軍事教練の名残と言えます。
これを日本に適用するとどうなるか?
文において人の上に立っていた皇族や公家が、西洋を真似て、武を司どることとなりました。
皇室は大きく変わります。
孝明天皇までは薄化粧をするなど、御簾の奥にいるもので、女性的な面もありました。
それが明治以降になると、皇族が馬にまたがり、軍服を着て、写真におさまるようになり、最終的に軍人として戦場に立つようになります。
男性性こそが近代国家で重要だと見なした明治政府にとって、西洋流の王侯貴族こそが正しい道とされました。
かくして、武家政権の成立後も、かろうじて京都に残っていた文官の残り香は消え去ります。
★
日本史の特徴といえば、武士の存在が挙げられます。
彼らは武勇に優れていただけではなく、文士も取り込み融合していった歴史を踏まえて、文武両道を是とする存在となった。
他ならぬ大江広元が最たる例でしょう。
安芸毛利氏――知略で知られ、中国地方を制覇した大大名の毛利元就は、大江広元の子孫です。
文士の血脈は文武両道の武士として残り、幕末を牽引した長州藩まで続きました。
文武が溶け合う日本の歴史。
その根源である鎌倉幕府の文士たちを『鎌倉殿の13人』でも楽しみましょう。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
田中大喜『図説 鎌倉幕府』(→amazon)
野口実『図説 鎌倉北条氏』(→amazon)
福田豊彦/関幸彦『源平合戦事典』(→amazon)
小島毅『中国の歴史7 中国思想と宗教の奔流 宋朝』(→amazon)
他