本郷和人の歴史ニュース読み

名古屋城で激論起き 姫路城は日本一の快挙 東大教授・本郷和人の歴史ニュース読み

日本中世史の本郷和人・東大史料編纂所教授が歴史ニュースに注目する「歴史ニュースキュレーション」。

今週は、本郷先生も直に足を運んだ「白すぎ城」こと姫路城です!

 


名古屋城天守閣を改修か復元か

名古屋城天守閣、改修か復元か 市長と市民、大激論 12月8日朝日新聞DIGITAL(→link

名古屋城天守閣の木造復元事業をめぐり名古屋市は6日、初のタウンミーティングを熱田区役所で開いた。

河村たかし市長は「市民の皆さんが決めること。耐震改修とどちらがよいか考えて」と呼びかけたが、参加者約200人からは賛否両論。

「具体案が示されず判断できない」と戸惑う声も出た。

天守閣は70年前の空襲で焼失。コンクリート造りで再建され56年経ち、震度6強の地震で倒壊する恐れが高いとされる。

市は参加者らに、29億円の耐震改修で40年間維持する案と、270億~400億円の木造復元で文化的価値や経済効果を高める案を示した。

本郷くん1

本郷「うわ。これは大問題だね」

himesama姫さまくらたに

「どちらの言い分にも理があるものね」

本郷「ぼくね、名古屋で月一で、60人くらいの方を相手に歴史の話をしているんだ。その教室でも聞いてみたよ」

「復元天守閣を建設する賛否についてね。どんな感じだった?」

本郷「賛成が6割。税金はもっと違うところに使ってほしい、という反対が4割だった」

「歴史の話をわざわざ聞きに来てる人で、4割が反対なのね。一般の方だったら、数字は当然、逆転するんじゃない」

本郷「そうだろうねえ。あとで話す姫路城は、駅から姫路城の天守までがまっすぐな道路で結ばれていて、町の至る所から天守閣が見える。だけど、名古屋は町の規模が大きいし、高層ビルが多いから、天守閣は埋もれてしまって見にくい。だから今更、尾張名古屋は城でもつ、と言っても説得力ないかもね」

「いま、名古屋は製造業が好調で、景気が良いらしいわね。そうすると、尾張名古屋はト○タでもつ、かな」

本郷「正直なところはそうだろうね。江戸城天守閣再建計画、というのがあるけれど、規模が大きな江戸城天守の再建には500億かかる、という試算があるらしい。名古屋城なら300億から400億だね」

「市民の寄付にも期待、って記事にあったけれど」

本郷「秀吉が姫路城を作ったとき、老婆が石臼をもってきて、これを石垣に使ってくれ、と頼んだんだって。それが石垣に「姥が石」として残ってる。それにちなんで姫路で「姥が石基金」と命名して寄付を募ったところ、5億3千万円が集まったらしい」

「姫路市の人口が53万人くらい。名古屋市の人口が226万人くらい。すると、寄付金が21億くらい集まるかもしれない、と」

本郷「それは捕らぬタヌキの何とやらだねえ。よく話し合って、結論を出してほしいね」

 


◆姫路城の年間入場者222万人で“日本一”に

◆姫路城の年間入場者222万人突破 熊本城を抜いて“日本一”に 12月9日産経WEST(→link

世界遺産の姫路城の今年度の入場者が9日、222万人を突破した。平成20年度の熊本城(221万9517人)を抜き過去最多を記録した。

「平成の大修理」を終えて3月にグランドオープンした後、白いしっくいが特徴的なことから、愛称の白鷺城ならぬ“白すぎ城”と話題になっていた。

本郷「ぼくも行ってきたよ。姫路城。観光客がたくさんいて、驚いた!」

「白鷺城ならぬ、白すぎ城、っていうのね」

本郷「いや、本当に白いんだ、これが。瓦を一度全部はずして、白漆喰を塗っている。だから、屋根が本当に白い。姫路城の天守閣は大天守に3つの小天守がくっつくかたちになっているでしょう。そうするとね、大天守の屋根と小天守の屋根の色が全然違うのが一目でよく分かるんだ」

「でも、白漆喰もそのうち汚れるわけよね。大気汚染とか,カビとかで」

本郷「そうなんだ。工事が終わってオープンしたのが去年の3月で、もうすでにカビが出て、変色が始まっているらしい。防カビ剤をコーティングしたそうだけど、そういう処置をした例はこれまでにないので、これからどうなるかは全く読めないらしい。だから「白い姫路城」が見たい方は,急いだ方が良いね」

「せっかく姫路城に行って、勉強もしたんでしょうから、少しこのお城のことを教えて」

本郷「分かった。何しろ、立派だね。100万石のお城、なんて言われるけど、その評価はダテじゃないなあ、なんて思ったよ」

「このお城って、天下普請(德川幕府の命令で大名たちが協力して築城するもの)なの?」

本郷「いや、違う。関ヶ原の戦いのあと、播磨国をもらった池田輝政が作ったんだ」

「池田輝政は52万石ね。大大名には違いないけど、100万石は言い過ぎじゃない?」

本郷「輝政自身は52万石だけどね。弟の長吉が鳥取で6万石。それからね、輝政の嫡子は利隆なんだけど、次男(実は五男という)の忠継が岡山に28万石、三男(実は六男という)が淡路6万石。これを合計すると池田一族で92万石だろう。一族が力を合わせて作ったのなら、100万石の城もオーバーじゃないよ」

「輝政の弟の6万石は分かるけど、忠継と忠雄はなにそれ? どういうことなの?」

本郷「ごもっとも。ちょっと奇妙な事例なんだけどね。家康の次女がさ」

「ああ、小田原5代目の北条氏直にお嫁に行った人ね。たしか名前は督姫だっけ」

本郷「そう。彼女は氏直が高野山で病死したあと、池田輝政と再婚したんだよ。それで、忠継と忠雄を生んだんだ。つまり、この二人は家康の孫に当たる」

「なるほど。それで江戸幕府は大盤振る舞いをして、まだ子どもだったふたりに大きな所領を与えたのね。でも利隆は? 廃嫡はされなかったの?」

本郷「そうだね。利隆のお母さん、輝政の前妻は中川清秀の娘だった。摂津コネクションだね。輝政は利隆の地位は守った。ただ、慶長18(1613)年に輝政が没して利隆が姫路城主になったんだけど、このとき彼は10万石を弟の忠継に分与している。督姫は継子の利隆を毒殺しようとした、なんで物騒な話があるけれど、まあそれは作り話だろうな」

「でも池田家というと、岡山と鳥取のイメージよね。どんなふうに姫路を去ったの?」

本郷「利隆がわりと若くして亡くなって、跡を継いだ子どもの光政が9才と幼かった。それで10万石を減らされ、鳥取に国替えになったんだね。この人が後に岡山池田家と領地を取り替え、岡山城主になった名君、新太郎光政だ」

「ああ、なるほど。そうなるわけね。で、池田家が去った姫路には、誰が入るの?」

本郷「徳川四天王の一人、本多忠勝の息子の忠政が15万石で入るんだ。それで、彼の息子というのが」

「あ、知ってる、知ってる。イケメンだった忠刻ね。大坂城から救出された千姫が一目惚れしたという」

本郷「一目惚れしたのかどうかはわからないけれどね。家康や秀忠にしてみたら、今度こそ幸せになって欲しかったんだろうね。それで、10万石もの化粧料をつけて千姫を本多家に託したんだ。忠刻のお母さん、つまり千姫のお姑さんは熊姫といって、家康の孫(家康の長男、松平信康の娘)。大坂城の時(姑は淀殿)とは大違いで、くつろげたんじゃないかな」

「じゃあ、千姫は幸せになったの?」

本郷「どうかな。夫の忠刻は31才で亡くなるし、二人の間にできた男の子は3才で亡くなる。結局、千姫は娘と二人、江戸に帰っていくんだね。その娘はやがて池田光政と結婚し、千姫は70才で天寿を全うして亡くなっている」

「波瀾万丈の人生だったのね」


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本郷和人

東京大学史料編纂所教授。 専門は、日本中世政治史、古文書学。 『大日本史料 第五編』の編纂を担当している。 NHK大河ドラマをはじめ各種の歴史作品や書籍の監修に携わり、今なお数多のメディアで活躍中。 ◆主な著書 『東大生に教える日本史』文藝春秋・2025年 『空白の日本史』扶桑社・2024年 『歴史のIF(もしも)』扶桑社・2024年 『鎌倉幕府の真実』産経新聞出版・2023年 『天下人の軍事革新』祥伝社・2023年 『歴史学者という病』講談社・2022年

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