大河ドラマ『光る君へ』第9回放送には、衝撃的な展開が待ち構えていました。
町の辻で散楽を披露しながら、盗賊団でもあった直秀が殺害されてしまい、鳥辺野に遺体のまま打ち捨てられていたのです。
主人公まひろと、三郎(藤原道長)が出会うキッカケにもなった散楽。
序盤の二人にとって、そこにいた直秀は単なる役者にとどまらない、非常に重要な存在でした。
ゆえに道長も、検非違使に賄賂を渡し、流罪とするよう念を押しておいたのに、一体なぜ、あんな惨い最期を迎えねばならなかったのか?
当時の事情からして、あのような展開はありなのか?
直秀の死を考察してみましょう。
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検非違使の腐敗と暴虐
直秀は検非違使たちにより、縛られたまま暴行を受け、鳥辺野に遺体が放棄されました。
平安京といえば、字面からして貴族たちによる安寧の場所――そんなイメージがあるかもしれませんが、下級役人は暴力的で腐敗していて、相手を見て忖度します。
直秀らが殺されるのも、ありえない展開とは言えません。
劇中では、道長が心づけをそっと渡し、手心を加えるように伝えていました。鞭打ちや腕をへし折る暴力ではなく、流罪とするよう告げていたのです。
まひろに「海の見える、遠くの国へ行く」と伝えていた直秀の、希望を叶えるための処置でした。
しかし、道長はあまりに甘かった。
当時の警察権力である検非違使は「暴力装置」であり、連中が普段から暴力沙汰を起こしていることは、都では周知の事実といえました。
直秀とまひろの出会いからして、それが示されています。
検非違使に捕まりたくない直秀が逃亡の最中にまひろにぶつかり、彼女が適当な方向に逃げたと嘘をついたところ、お忍びで歩いていた道長が捕まってしまったのです。
不安がっているまひろに対し、道長の正体を知る直秀は彼女の家までやってきて「心配ない」と告げるのでした。
もしかしたら、こうした経験が、道長の行動を甘くしたのかもしれません。
捕まったのが自分ならば、さしたる審議もなく解放される。検非違使とはいえ、その程度の存在だと思ってしまったのかもしれません。
検非違使は暴力的です。
犯罪者の家に押し入り荒らす。
容赦なく捕らえ、殴り倒す。
かつ、相手によっては忖度することもある。誰の味方につけばよいか目配せしながら、気配りをしなくてよい弱小な相手となれば、とどまるところを知りません。
検非違使は相手を見ているのです。
道長の甘さにつけこみ、心づけを渡してホッとした彼は、どうせそれ以上は何もしないと踏んだのでしょう。
殴って放免にするならまだしも、流罪となると何かと面倒だ――だったら、いっそのこと始末しちゃったほうが早いんじゃね?と殺害に及んでもおかしくありません。
警察組織の横暴、腐敗、堕落は、中世ならではの問題といえます。
例えばヨーロッパでも、貴族が連続殺人を続けていても捕縛できず、大事になってから判明した事件があります。
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道長も、この特権を生まれながらに有しています。
今はまだ未熟でも、この先は暴力を振るい、見逃す側になっても不思議ではありません。
道長が権力者となったあと、検非違使はその顔色を窺うようになります。
道長の息子には暴力沙汰を起こす者もいて、そんなとき、検非違使は忖度を見せていたのでした。
鳥辺野に放置された、直秀たちの遺骸についても注目してみましょう。
直秀たちの遺骸はどうなるのか?
まひろと道長は、直秀たちの遺骸を必死になって埋めていました。
しかし、あの程度の浅さでは限界があり、カラスや犬に食い荒らされることでしょう。
遺骸は棺におさめ、2メートルほど掘らねばその危険性にさらされるため、貴族二人が素手で埋めることは困難です。
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では、誰ならば可能か?
『鎌倉殿の13人』で市原隼人さんが演じた八田知家を思い出しましょう。
知家は史料があまり残存しておらず、劇中では土木工事担当者としての印象を残しました。
そこで、知家を演じる市原隼人さん、脚本家の三谷幸喜さんはじめ、キャストとスタッフが練り上げた人物像です。
筋骨隆々として工事道具を手にした人物ならば、きっちり埋葬することができます。
劇中の知家も、源頼朝の火葬を取り仕切っていました。
もしも、鳥辺野に知家がいれば、直秀たちもきちんと埋葬されたことでしょう……なんてことは言っても仕方のないことであり、実際に遺体に触れたまひろと道長には、もっと憂慮すべき事態もありました。
【穢れ】です。
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