直秀たちはなぜ殺されたのか

楽人の図/国立国会図書館蔵

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『光る君へ』直秀はなぜ検非違使に殺されたのか?遺体は無事に埋葬されたのか?

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「オリキャラ」はテーマを示す

直秀のように、歴史に名を残していないキャラクターは歴史劇でおなじみの存在です。

プロットを盛り上げるため、何かのテーマや象徴を示すため、あるいは民衆目線で歴史を見るため、様々な理由から彼らは作り上げられてきました。

大河ドラマでも、かつては架空主人公の作品があったほどです。

しかし近年は「オリキャラ」(オリジナルキャラクター)と呼ばれ、邪魔者扱いされることすらあり、歴史劇鑑賞の姿勢としてよいものかどうか、懸念を覚えてしまいます。

『麒麟がくる』の駒は、戦災孤児であり、身につけた医学知識で多くの人を救おうとする“仁”の体現者でした。

彼女は第1話において、戦さのない世となれば「麒麟がくる」という、根幹となるセリフを主人公の明智光秀相手に語ります。多くの人を救う理想を示す人物と言えました。

また『鎌倉殿の13人』に登場する善児は、第1話で頼朝と八重の間に生まれた子を殺害。

この殺された子の異父弟にあたる北条泰時が、坂東武者の統治を安定化させるための【御成敗式目】制定に着手する姿が最終回で描かれています。

さらには善児に両親を殺され、弟子にされた“トウ”という女刺客もいました。

彼女は師匠と同じく多くの人を手にかけました。

しかし、絶望し自殺しようとした北条政子を止め、最終回では政子のもとで孤児たちの世話をする姿が見られます。

善児とトウという、人を殺める稼業の師弟が、めぐる命と因果の果てにたどりつく――そんなプロットも『鎌倉殿の13人』の魅力であり、テーマに迫るものでした。

『光る君へ』に話を戻しましょう。

直秀は、序盤で退場するものの、大きな問いを投げかけてゆきました。

彼は散楽という、まひろと道長が出会う場面の背景にいた人物です。

その散楽は東三条に暮らす藤原家を散々おちょくり、道長も面白がっていました。

そんな舞台装置でもあった散楽は壊滅してしまうのです。

 


直秀と共に二人は離れ離れになる

直秀の退場と時を同じくして、花山天皇退位の陰謀も迫っています。

これは花山天皇の寵臣である藤原為時の失脚をも意味します。

花山天皇の電撃退位により為時が職を失えば、当然ながらまひろの運命も変わってしまう。

十代後半から二十代前半ともなれば、当時の姫たちが最も婿を取りやすい重要な時間であり、為時に十分な財産があれば、まひろの元にも文が届き、通う貴公子がいてもおかしくありません。

しかし、資産のない姫にそんなことをする貴公子はいません。

まひろは大事な時期を逃すことになってしまいます。

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『光る君へ』では、第1話で道長の兄・道兼が、まひろの母を刺殺しました。これは劇中の脚色です。

しかし、この道兼が花山天皇をそそのかし退位させたことにより、藤原為時一家が困難に見舞われることは実際にあったことです。

直秀の死は、まひろと道長が引き裂かれる前奏ともいえました。

まだまだ序盤で、どうして直秀が去らねばならないのか!と嘆いた方も多いことでしょう。

しかし、このタイミングだからこそ意義があるとも言える。

散楽一座の前で出会った二人は、その一座の終わりとともに散ってゆくのです。

物語に、ひとつの終わりが訪れたことを示す直秀の死でした。


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文:小檜山青
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【参考文献】
倉本一宏『平安京の下級官人』(→amazon
繁田信一『殴り合う貴族たち』(→amazon

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