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【『光る君へ』感想あらすじレビュー第31回「月の下で」】
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ややこしい、暗い、鬱陶しい姉上
まひろは実家に戻った弟の藤原惟規に、“自分らしさとは何か”と尋ねています。
また変なことを聞かれて面倒くさいなぁ……という顔になる惟規。
それでも「嫌なことがあってもすぐに忘れて生きていることだ」と答えます。
するとまひろが「まひろらしさとは何か」と聞いてくる。
「えー、難しいなぁ」
「うん、私って難しい」
「そういう意味でなく……」
珍しく言い淀む惟規。
まひろは「もっと言って! 人と話してわかることもある」と言います。
日頃そんなにしゃべらないし、雑談の類があんまり好きでもないくせに、突然こういうややこしいことを言い出すんですよね。
「そういうことをうだうだ考えるところが姉上らしい。そういうややこしいところ。根が暗くて鬱陶しいところ」
惟規が、思わずズバリと指摘してしまい、自分で聞いたのだから怒るなと言っています。
しかし、彼の指摘どおりですよね。
だいたい“人と話してわかることがある”ってなんなんでしょう。
まひろは自己完結型なのだけれども、外部のフィードバックも時折必要とする。そのとき忖度してズバズバ言わない相手だと、キャッチボールにならないからあまり役に立たない。
こういう会話の相手を壁にして、ボールを投げつけて跳ね返ってくることを期待するような話法をする人は時折います。
大河ドラマだと『麒麟がくる』の斎藤道三ですかね。
光秀は、会話に対して鋭い答えを返してくるし、怯えないし、光秀の叔父・光安のように忖度しません。
ゆえに序盤、光秀は道三に呼び出され、会話の相手にされていました。
光秀がズバズバ言いすぎて、光安はヒヤヒヤしていたものですが、そういう鋭い答えが必要な局面はあるものですね。
中国史ですと、「諫議大夫」という専門職があったほどです。
『光る君へ』で一条天皇も愛読の『貞観政要』は泰時も家康も参考にした政治指南書
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書くからには、紙をください
内裏で道長が文を見ると、まひろからでした。
中宮様をお慰めする物語を書いてみようと思います。
ついてはふさわしい紙を賜りたく、お願い申し上げます。
そう書かれていました。
「洛陽の紙価を高める」という言葉があります。まひろならば知っているでしょう。
東晋の時代、左思(さし)という文人がおりました。
彼の『三都賦』(さんとのふ)という作品が好評を博し、洛陽の人々は書き写すために紙を買いました。
そのため価格が上がってしまいました。
印刷術が広がる前は、ベストセラーができると紙そのものが売れた状態がよくわかる言葉です。
紙はそれほどに高級品でした。
ここで「紙を大量によこせ!」と迫るまひろは、現代ならばさしずめ最高級ラップトップかタブレットあたりを、執筆用に寄越せと交渉しているようなものでしょう。
紙は消耗品ですから、サブスクの方が近いかもしれませんね。
かくして、身をやつした道長自ら、大量の紙と共にまひろの元へやってきました。
彼女が好んだ越前紙です。
いつかあんな美しい紙に歌や物語を書きたい――宋の言葉でそう語っていたと道長は語り、俺の願いを初めて聞いてくれたと道長は感慨深げに言っています。
まひろはまだ書き始めてもいないと返しますが。
邸の中では、福丸が「あれは左大臣じゃないか」と驚き、いとに確認しています。なんだかすごい家にいるんだと自覚したようです。
そして、いざ執筆を始めたまひろ。硯はまだ小さく素朴なものです。
紫式部愛用と伝わる硯は現存しており、その精巧な複製品が今後出てくるものと思われます。
ちなみにこのドラマで使われている文房四宝(紙・筆・墨・硯)は非常にお高いものですので、じっくり最高級品を脳裏に焼き付けておくとよいかもしれません。
道長を疑うまひろ
物語ができあがり、道長がまひろの前で読んでいます。
「よいではないか」
そう褒められたまひろが答えます。
「どこがよいのでございますか?」
はぁ、めんどくせぇ~!
どれだけ褒められても、具体性がないとお世辞と思ってしまうか、あるいは、おだててされに何かかさせたいのかと、猜疑心をめぐらせてしまうようです。
戸惑いつつも、飽きずに楽しく読めたと返す道長。
「楽しいだけでございますよね? まことにこれで中宮様をお慰めできるのでしょうか?」
まひろは、道長が読んで笑う姿に違和感を覚えてしまうようです。
おもしろい、明るくてよい。道長がそう言っても、まひろは考えてしまう。
中宮様もそう思うのか? そもそも中宮様が読むのか? もしや偽りがあるのではないか?
道長に向かって「中宮様」と口にするたび、目が虚になるとかで、まひろは彼の嘘に気付きました。
「正直なお方だ」
「お前にはかなわぬな……」
やはり、と納得するまひろです。
道長は語ります。物語は、中宮ではなく帝に献上したいのだ、と。
一条天皇が『枕草子』に囚われてしまい、亡き皇后から解き放たれぬ帝を救うため、『枕草子』を超える書物を献上したい。
ただ、それを明かせば、まひろが「政の道具にするな!」と怒ると思い、中宮様のためだと偽ったとのことです。
確かに怒ったかもしれない……と、そこは冷静に考えるまひろ。
彼女も怒るポイントがおかしいですよね。
騙す理由に納得できれば、実はそこまで怒らない。その上であっさりと「帝が読むものを書きたい」と言い出しました。
先ほど道長に渡したものとは違う話を書く。
そのために、帝のことも知りたいし、道長から帝の姿を聞きたい。
人柄。
若き日のこと。
女院(詮子)のこと。
皇后(定子)とのこと。
道長は戸惑いつつ「話してもよいけれどもどこから話せばよいのかわからない」と戸惑っています。
思いつくまま話せばよい。家の者は邪魔せぬように宇治に行かせ、時間はいくらでもある。
まひろはそう言い、いわば道長への取材が始まるのでした。
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