家康黒幕説

徳川家康/wikipediaより引用

どうする家康感想あらすじ

家康黒幕説で盛り上がる『どうする家康』どこまで根拠のある説なのか

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家康黒幕説はあり得るのか
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黒幕説はスマホがあれば可能である

そもそも黒幕説には、乗り越えられない大きな壁があります。

治安の悪い乱世で、黒幕と光秀がどう定期的に連絡をとりあっていたのか?

そこの説明がつかない限り、フィクションだとしても納得のいく展開にはなり得ない。

近年のNHKが制作している番組に『(人物名)のスマホ』があります。

あの歴史上の人物がスマートフォンを持っていたらどう使うのか?

そんなアプローチの番組であり、本能寺黒幕説も、このスマホシリーズならば成立しますが、大河ドラマとは別のシリーズで放映すべき話でしょう。

通信手段の発達は、人の意識も変えてしまうことがあります。

過去の大河ドラマでも、登場人物の移動距離と時間がおかしく、ワープだのテレポートだの揶揄される展開はありました。

2020年代ともなれば「スマホで連絡取り合っているのかよ!」と突っ込まれかねない状況も発生し得る。

そういうことをやりたいのであれば、SF要素を取り入れる異色時代劇には向いていますね。

例えば『三体』以来SFブームが起きている中国では、歴史要素とSFを組み合わせた斬新な作品が多数生み出されています。

戦国武将が巨大ロボットを操縦するドラマなんてあれば、おもしろいかもしれません。

武則天ら中国史の人物がロボットを操縦するSF小説『鋼鉄紅女』は傑作ですので、その日本版はいかがでしょう?

聖女瀬名と、ちょっと情けない家康がペアを組んで、ロボットで天下を守るなんて、私はドキドキワクワクします。

もちろん大河ドラマという枠ではなく、別の時間帯でお願いしたい話ですが。

 


「信長を殺す」はミスリードの可能性

ならばなぜ、本能寺黒幕説は消えないのか――。

1990年代あたりから浮上してきたこの説は、何度否定されても亡霊のようにしつこく出てきます。

理由は単純、需要があるからでしょう。

陰謀論の類には爽快感があります。自分だけが真実を知っているんでは?というワクワク感。偉そうな頭でっかちの相手を言い負かし、論破できる! そんな甘い誘惑もあります。

何よりコンテンツとして売れる。

正確性よりも、ビジネスモデルとしての売れ筋路線として、受け入れられてしまうことも確かです。

だからこそNHKが大河ドラマでその手法をなぞるのは問題視されるのではありませんか。

NHK大河ドラマは、日本で初めて時代考証をつけた作品であり、勉強にもなるから、と鑑賞されてきました。

受信料を徴収する公共放送ですから、視聴率やスポンサー企業の意向に左右されない番組作りこそが使命といえます。

2023年にドラマ10で『大奥』が放映されると、民放放送局は嫉妬したと言います。

NHKならではの経験値と時代考証の存在により、SF要素がありながらも重厚感ある作品として仕上がっていたからです。大河ドラマで培ってきた強みがそこにはありました。

『どうする家康』は、民放ドラマでヒットを手がけた脚本家が前面に押し出されています。

宣伝文にはその代表作がズラズラと並び、あの民放ドラマのような切り口であると喧伝され、それがプラスどころかマイナスに出てしまったと思えます。

・シンガーソングライターが歌いながら戦場を駆け抜ける

・役者の境遇を人物設定に落とし込み、史実よりも重視される

・過去大河ドラマネタを使い回し、 SNSでの受けを露骨に狙う

・唐突なラブコメじみたシーン。性暴力や遺体損壊を入れる

ネットでの「バズ」現象を意識しているようで、同作品を褒め称えるWEBメディアでは毎週のように「ネットでは」という文言が入り、SNSのトレンド獲得に言及されます。

ジブリ映画『天空の城ラピュタ』が放送されるときの「バルス!」現象に似たものを狙っているのかもしれませんね。

宣伝戦略としてはありかもしれませんし、現に『どうする家康』はこんな記録を残しました。

◆松本潤主演NHK大河ドラマ「どうする家康」が上半期全国推計視聴人数ランキングドラマ編で1位(→link

ただし、これには注意が必要でしょう。

あくまで第1回での集計であり、前作『鎌倉殿の13人』の人気を引き継いだ可能性が高い。最終回では『吾妻鏡』を読む徳川家康を出す、サービス精神にあふれていました。

番宣に加えて、期待を込めた記事も多く、さらには脚本家が同じ映画『レジェンド&バタフライ』も大々的に宣伝され、「ヒットするしかない!」という風が吹いていたものです。

しかし、この風は瞬く間に萎んでしまいました。

第二回放送以降は、視聴率の低迷が始まり、今では二桁10%を割るかどうかの瀬戸際。

この傾向はNHKのもう一枚の看板とも言える朝ドラ『らんまん』と比較すると顕著です。

前作『舞いあがれ!』の視聴率低迷の影響で序盤は苦戦していたのが徐々に盛り返していき、上昇傾向を維持しています。

だからなのか。数字狙いで「家康黒幕説」を匂わせたのでは?という指摘も耳にします。

というのもNHK公式ガイドブック(→amazon)の“あらすじ”には「信長を殺す」というセリフが無いのです。

大河のレビューを書いている私は、先入観を避けるためガイドブックの類を見ることはありませんが、同書を確認した編集によると

「信長を殺すというセリフはなく、安土城の饗応役で光秀が信長に叱られる設定だから、怨恨説に近いのかな?と思っていたら、放送後は家康黒幕説で盛り上がっていて驚いた」

とのこと。

大事なセリフだからあえてガイドブックには掲載しなかったのか。

それとも数字狙いで後から付け加えたのか。

私にその真相はわかりませんが、まさか「信長を殺す」というセリフで瞬間的に沸騰すればよい――そんな安易な発想だとしたら、家康黒幕説で盛り上がる世間に対しても酷いミスリードでしょう。

いずれにせよ、本能寺の変は、日本人の興味を最もそそる戦国事件の一つ。

どんな展開になるのか?

というと、どうやら引っ掛けのようで、NHK公式メディアともいえる「ステラ」で第27回のあらすじが公開されています。

◆ 本能寺で信長(岡田准一)を討つという家康(松本潤)の決意に、家臣たちの意見は分かれ……。(→link

そこには、以下のように記されています。

京の本能寺で信長(岡田准一)を討つ計画を家臣たちに明かした家康(松本潤)。

並々ならぬ家康の決意に、家臣たちの意見は賛成と反対で真っ二つに割れるが、忠次(大森南朋)は、家康の決断を信じようと家臣団を諭す。

やがて家康たちは信長に招かれ、安土城へ。

だが酒宴の席で、家康は供された鯉(こい)が臭うと言いだした。信長は激高し、接待役の明智(酒向芳)を追放する。その夜、信長と家康は2人きりで対峙し――。

これを読んだ時点で引っ掛かります。

本能寺の変は、偶然に偶然が重なり起きた事件とされます。

たまたま警備が薄くなり、しかも織田家の跡継ぎ・織田信忠も同じ京都に滞在していた。稀なタイミングで、武装した明智光秀が京都周辺を通った。

そんな偶発性ゆえに、現在は光秀の気が揺らいだとされることが多い。

それがこのプロットでは、織田どころか徳川家臣団まで、危険極まりないノーガード宿泊が漏れていたことになります。

戦国時代のセキュリティ体制は、そこまで緩くてよいのでしょうか。

前提からして何やら引っかかるのですが……。

こうなると「信長を殺す」の一言は、やはりウケ狙いだったのか?と疑念が深まるばかり。

放送を待ちましょう。


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文:武者震之助note

【参考文献】
呉座勇一『陰謀の日本中世史』(→amazon
出口治朗『自分の頭で考える日本の論点 』(→amazon

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