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【麒麟がくる第13回】
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高政は素直でピュア
深芳野は利政と戯れております。
酒を飲み過ぎのようです。そこで侍女が誰かを止めている声がします。
「父上!」
高政がドスドスと怒りをたぎらせ、入って来ます。
利政は我が子が頼芸の元に向かい、置き去りにされたことはわかっています。行き先は近江の六角氏の元だとまで掴んでいる。
「置き去りにされえた哀れな忠義者か……」
「そうさせたのはお前ではないか!」
そう挑発され、利政はこう言います。
「お前? 言葉は刃物ぞ。気をつけて使え」
「申し訳ございませぬ。置き去りにされた忠義者のゆえ、正気を失っております」
「それしきのことで失うとは、ずいぶん安物の正気じゃな」
「たったそれだけ? まことの父上を失うたのじゃ! この高政にはもはや父上はおらんのじゃ、その口惜しさがおわかりになりますまい!」
高政はやはり、素直でピュアなのではないか。そう思えてくる。
利政は笑い飛ばします。
「異なことを申す。まことの父はここにおるではないか。そなたの父は……わしじゃ。油売りから身を起こした、成り上がりの子で、蝮と陰口を叩かれる、下賤な男がそなたの父じゃ!」
「ちがうっ、わしの体には、土岐の血が流れているのじゃ! この高政のまことの父は……」
ここで深芳野が酒杯を投げつけつつ、怒ります。
何を地迷うているのか、そなたの父はここにおわす利政様じゃ!
それからこう言います。
「謝るのじゃ、詫びるのじゃ、お父上に詫びるのじゃ、高政、高政っ、詫びるのじゃ、謝るのじゃ、高政、高政、謝れ、高政!」
この様子を見て、冷たく利政は言い切ります。
「そろそろ家督を譲ろうかと思うておったが、いまだしじゃのう」
深芳野は我が子を抱きしめています。
いくつになっても、我が子は我が子。
そんな圧巻の演技を見せる南果歩さんが素晴らしい。
嫌な父子対決、頂上決戦
今週は、土日で嫌な父子選手権決勝トーナメントを見たような気がして、クラクラしてきた。
はい、土曜日は『柳生一族の陰謀』における、柳生宗矩と十兵衛です。
高政が相対的に善良に思えなくもないと言いますか。
十兵衛の方が激情を込めて宗矩を全否定するし、肉体的に打撃を与えるし、とどめは宗矩の全てをぶっ壊してからの「夢でござーる!」エンドです。
でも、この父子対決は似ているようで、違うところもありまして。時代背景という単純なものでもありません。
斎藤利政vs高政
父が【革新】、子が【保守】。
父は下賤な血であることを受け止め、血筋のようなお守りふだではなく、自分の力で戦おうとする。
子は、血筋をアイデンティティとする。
という構図に対し、柳生はこうなる。
柳生宗矩vs十兵衛
父が【保守】、子が【革新】。
父は陰謀の果てに大名となって浮かれている。剣術指南役という肩書を重視している。
子は血統や地位を捨てて、諸国で剣術修行をする道を選んだ。
どちらも父は陰謀まみれだし。子は暴力発散をするし。ロクなものじゃないと言えばその通りなのですが。
価値観の違いを認めていくこと。人の心を踏みにじらないことが大事だという点は共通しています。
利政は、十兵衛よりもあのドラマでは家光に性格が近いかも。ピュアな子ほど、吹っ切れるとおそろしいことを、受信料で学ぼう!
40貫のところ5貫しか受け取らず
さて、今週の駒と東庵は。
と、その前に『柳生一族の陰謀』には茜というオリジナルキャラクターが出ていました。
これは昭和版からおります。『宮本武蔵』のお通が代表例ですが、こういう狂言回しであったり、作品の潤滑剤になるオリジナルキャラクターは、むしろ時代物の伝統ではあるのです。
スイーツだの女に媚びただの。そういう叩きは筋違いです。
あと、駒叩きって、男子の習性じみたノリを感じます。さしたる理由もないのに、おとなしそうだったり目立つクラスの女子をロックオンして笑いものにする行動パターンですね。もうそういう小学生じみたことは、オンラインでは終わりにすべきでしょう。
二人の目的地は駿河です。
東庵としては、駒が美濃に行かなかった気持ちがわからないそうです。
東庵が鈍いとか。駒の複雑な気持ちだとか。
そういうことだけでもなくて、これは駒を助けたお侍の正体を引っ張る効果もあるんですね。こう引っ張るからには、何かあるのかと気になる。こういうフックを残すことが、高度な創作テクニックだと思えます。
駒は、東庵こそわからないと言う。
帰蝶は40貫を渡すと言ったのに、5貫しかもらわなかったそうです。
悲嘆に暮れる奥方に40貫要求できないと語る東庵。
「100貫をくださるお方がお待ちになるのだから、35貫くらい軽いものじゃ」
と言うわけですが、引っかかるところはある。
東庵の態度?
それだけではなく、帰蝶の手元に残った35貫という大金です。
尾張織田家には大金がある。けれども、帰蝶の裁量で使える金はどれほどなのか。実家からの仕送りはさして期待できません。
さあ、帰蝶はこの金をどうするのか?
賢い秀吉の登場で三英傑揃う
そのころ、織田信秀の死を受けて、今川義元の軍勢は浜名湖畔を進軍しております。
そこへ一人の行商人がぶつくさ言いながら、東庵に聞いてきます。
「これ、なんと書いてあるのだ?」
行商人は字が読めぬので、これを読んで覚えようと、寺の坊様にいただいたとか。
「字が読めんと出世できんと言われてな! 難儀な話だ!」
師の言はく、「初心(しょしん)の人、二つの矢を持つことなかれ。後(のち)の矢をたのみて、初めの矢に等閑(なほざり)の心あり。毎度(まいど)ただ得失(とくしつ)なく、この一矢(ひとや)に定(さだ)むべしと思へ」といふ。わづかに二つの矢、師の前にて一つをおろかにせんと思はんや。
『徒然草』第92段。
駒に解読してもらっている行商人ですが、ちょっと彼は奇妙なところがある。
「初めて矢を持つ者は、矢を二本持つなというのだな。二本目の矢があると思うと、初めの矢を疎かにしてしまう。いやー助かった、そういうことか、ははっ! いやー、書物というのはえらいものだ」
こう語るわけですが、理解が早すぎませんか。こう読んでもらって、ここまで想像してたどりつくのって、紛れもなく賢いと思いませんか?
三英傑が全員揃いましたが、三人とも個性があって、かつ賢いことは掴めてきました。
駒にどうやって字を学んだか、軽いノリで聞いてくる行商人。駒は生まれたらすぐ歩いて、全部お経も読めたと返します。
ここで関所が今川様の軍勢だらけだと語る行商人。そのうえで、これからは今川様の世の中になると分析しています。
戦国大名・今川義元 “海道一の弓取り”と呼ばれる名門 武士の実力とは?
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織田信秀は負けた。後継者はうつけ。織田の本家と分家が争っている。
これではもう駄目だ。三河を攻めて、尾張も取る。仲間もみんな今川様を目指しているって。だから今川様に元で一旗あげるつもりだと語り、猿のようにすばしこく木に登るのです。本物の猿もちゃんと映ります。
◆藤吉郎(秀吉)ってどんな人?
・笑顔。すごく明るい
→駒にすらここまで笑わない光秀。不機嫌さがモロにでる信長。可愛げがないと言われる家康。
・エネルギッシュで、すぐにアドバイスを求めてくる。人見知りをしない
→ガードが固そうな光秀。興味があれば聞いてくる、なければ無視する極端な信長。まず観察する家康。
・仲間の意見を尊重する
→光秀は友人である高政にも反対する。信長は独断専行か、素直に聞くか。家康は参考にはするけれども、自分が納得するまで時間がかかる。
・一を聞いて十を知るし、そのことをすぐに口に出す
→賢さでは他の人物も同じ。でも光秀はここぞというときにしか出さないとは思うし。信長は極端だし。家康はムスッと黙っていそうだし。
本作の秀吉は、昭和の少年漫画主人公に一番多いタイプだろうとは思います。それに長らく教育現場でも社会でもよろしいとされてきた、そういうタイプだ。
人との交流でエネルギーを得る。即断即決、しないで後悔するくらいならしてみろ! そういうタイプですね。
・目標達成でエネルギーが湧いてくる!
・欲しいものがあるならば、全力で手に入れようとする!
・絶好のチャンスを得られると、ともかくテンションがあがる!
・いいことがあると、テンションが無茶苦茶あがってしまう!
・恐怖を感じることそのものが少ない!
この手のタイプ、職場におりません? 営業職向きで、飲み会幹事に最適だとは思います。SNSフォロワーは、あっという間に気がつけば数千~万単位になってる。
でも……こういうタイプと相性が悪い人もいますし、本人が苦手なこともある。
今何かと求められているテレワークが得意とは思えません。
時代が求める人間の資質は、普遍的なようで変わっていく。この秀吉は、20世紀型、元号ならば昭和と平成までなのでしょう。
令和は……テレワークが苦痛でない、家康タイプの時代なのかもしれませんね。
佐々木蔵之介さんはイケメンで背が高いと言われますが、動きが猿みたいだし、あまりにフランクでそこが下劣に思われそうですし。
よい意味で、美形に見えない藤吉郎だと思えました。
でも、魅力はある。そこは抜群です。駒も、光秀のときより心を開いているように思えます。
いろんな鍵をたくさん持っていて、人の心を開けていく。生来のエンターティナーだと思えます。
まぁでも、稀に、この魅力がまるで通じない人がいるのでしょう。本作の家康も、彼を心の底からは信じることはないのでしょうね。
またすごい人物が来ちゃったな。
利政が信長との面会を望むのはなぜだ
天文22年(1553年)、閏正月に平手政秀が切腹したとナレーション語られます。
信長の爺や・平手政秀が自害したのは息子と信長が不仲だったから?
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画面内では、信長が鎧を脱ぎつつ歩いています。イライラしながら、噛んで手甲を外すあたりに彼らしさが出ています。
帰蝶は書状を読み何かを考えていましたが、信長を迎えます。
信長は、父上の死後、清州も岩倉も背いてイライラしています。恥知らずの身内ほど当てにならぬものはいないそうで。平手はそれを感じていて、織田彦五郎のために切腹したと信長は語ります。
腹を切って見せれば誠意を見せる連中ではないと、信長はいうわけです。
信長の尾張統一に立ちはだかった織田信友(彦五郎)策士策に溺れる哀れな最期
続きを見る
ここでは珍しく甲冑を脱ぐ所作が出てきて面白い。脱ぎながら扱われる平手政秀が気の毒です。
切腹の理由にせよ、信長個人の見解ではあります。
言動の端々に、信長についていけない困惑はあった。信秀の死で糸が切れたのかもしれない。気の毒な退場でした。
そんな中、帰蝶は着替えを終えた信長に書状を見せます。斯様な折に見せるのはどうかと思うけれど、無碍にはできぬと断ってのことです。
なんでも、利政は信秀を失い、跡を継いだ信長と対面したいとか。
わざわざ会って何を話すのか、信長は疑念を抱いています。愛する妻の父でも、容赦なく猜疑心旺盛です。
◆信長の自己認識と判断
四面楚歌だ! 父は死に、家老も死に、東は今川。尾張内部すら分裂!
もうこれ以上面倒は見られない。溺れゆく者に手を貸す暇はないと思っているとか?
和睦破棄? それなら書状でいいでしょ。対面して殺せば、尾張を楽に得られる?
→面会しません、以上。
本作のフェアかつ緻密なところって、信長の台頭をほとんどの人が予測していないこと。藤吉郎(秀吉)もそうでした。例外をあえてあげるとすれば、竹千代(家康)ですかね。
結果がわかっている後世の人間がやらかしがちなことは、
「あいつはすごい、オーラがある」
というようなことを言わせちゃうこと。しかし本作では、本人すらしていない。
根来衆と鉄砲を至急用意しておくれ
愛着か、いや彼女なりに楽しんでいるのか。帰蝶が、会いにいかねば臆したと見られ、和睦が帳消しだと焚きつけます。
信長は帰蝶がここにいるということは和睦破棄はありえないと言うものの、自信がなさげではあります。
帰蝶はスッと茶碗を差し出す。信長は両手でそれを持ち、そっと下ろします。
そして手を握る。彼なりの愛着を感じているようです。
そして寝室。
帰蝶に膝枕をされつつ、信長は考えています。帰蝶はそんな殿に、信秀がかわいがっていたという旅の一座の話をします。
亡き父のために弔い公演をするとか。伊呂波太夫のことです。信長はこう言います。
「その話、父上からよく聞いた。戦の折には役に立つ、不思議な太夫じゃと」
そのうえで、帰蝶はこう確認してきます。
紀伊の根来の傭い衆(傭兵)には、鉄砲を使う者もいると聞いている。それはまことでございましょうか。
『柳生一族の陰謀』にも登場した根来衆です。あちらはアレンジが効かされており、かつ太平の世で傭兵をしようにもどうにもならない集団という設定でした。
フィクションでは、鉄砲を得意とする忍者軍団のような扱いをされることも多い、そんな集団です。
銅鑼が鳴り、大道芸が披露されております。
みな一様にお並びあれや じゅんやく踊りを……。
そう歌声が響く中、帰蝶が被衣をかぶって歩いてゆきます。
行き先は、伊呂波太夫の元でした。
伊呂波太夫は、亡き殿とのご縁を語ります。お亡くなりになられ、胸が潰れるとかなんとか言う相手に、帰蝶は要件を切り出します。
戦の兵を集められないかと単刀直入に言います。
◆帰蝶の依頼
期間は?→急ぐ
形ばかりの弱い兵か、強い兵か?→根来衆がよい。鉄砲の数も揃えたい
時と場合によると渋っていた伊呂波太夫の前に、荷物から袋を取り出し、落としてゆく帰蝶。ひとつ、またひとつ。その袋を傾けると、砂金がサラサラと落ちるのでした。35貫分かな?
「手付けじゃ」
そう言われて、伊呂波太夫の頬もかすかな笑みを作ります。
そのころ、稲葉山城では。
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