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【麒麟がくる第31回感想あらすじ】
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誰のおかげでその酒が飲めるのか!
そして光秀が、やっと京・妙覚寺へ戻ります。
出迎えるのは藤吉郎。一足先に帰り着き、待っていたのだとか。二手に分かれて以来案じていたと光秀は感慨深げに言います。
しかし、その藤吉郎が悔しさのあまり泣き出してしまう。
光秀が驚き気遣うと、彼は言葉を搾り出します。
誰も信じてくれませぬ。わしが、この藤吉郎が、殿を務めたことを。
お前如きに殿が務まるわけがない。頃合いを見て逃げ帰ったのであろうと。
明智は帰らぬ。お前はここにおる。それがその証じゃ……。
光秀はそんな訴えを聞き、怒りを見せつつ、奥へと向かってゆきます。
そして、木下殿は立派に殿をつとめられたと勝家らに宣言する光秀。誰のおかげでその酒が飲めるのか!とまで言い切ります。
そうやって自分をかばった光秀に、藤吉郎は感謝を見せる。光秀はその後、信長の元へ向かいます。
信長には次がある
当の信長は、部屋で寝転がっていました。周囲には書状が散らばっている。
互いの無事を確認し終えて、信長は光秀を労います。
それから帰蝶からの文を投げるのでした。此度の大きな戦、勝ったか負けたか誰よりも早く知りたいのだと。
その返事をなんと書けばよいのか?
御所にも行かねばならない。帝に何を申し上げたものか?
そう思い悩む相手に、光秀はこう言い切ります。
「此度の戦、負けと思うてはおりませぬ」
信長がまだ生きている。生きておいでなら、次がある。次がある限り、やがて大きな国が作れましょう。大きな国ができれば平穏が訪れ、きっとそこに麒麟がくる――。
麒麟? そう不思議がる信長。光秀はさらに夜通し馬を走らせておるとき、ふとその声を聞いたような気がしたと続けます。
「麒麟の声をか? どのような?」
「信長には次があると」
ここで信長は笑い出します。二条城へ赴き、公方様にそう報告すればよいと。浅井の大軍3万を相手に、結束力の強さは信長だからこそ。そう帝にも貴重にも報告すれば良いと告げるのです。
「次か」
信長は動き出します。
負けを認め、次を目指す姿がそこにはありました。
MVP:三英傑と光秀
今回は三英傑揃い踏みであり、その価値観や本質が強調される回でした。
間違いなくターニングポイントです。
このドラマのみならず、大河ドラマそのものまで変えるような、そんな意義を感じます。
長いけれども、まとめてみましょう。
織田信長:【創業】の英雄
本コーナーで何度も指摘してきましたが、従来の信長像で一つの到達点はAmazonプライム『MAGI』の吉川晃司さんでしょう。
本作の信長は、そんな、カッコいい、誰もが憧れる像を破壊してきました。
信長は、激しすぎる自分自身にも傷ついていて、慎重なようで杜撰、敏感なようで鈍感、ぶれる幅が大きくて難しい人物です。
あんなすごい唸り声をあげるくらいワイルドなようでいて、帝と帰蝶への報告で悩んでしまう。
褒められたい要求もあるけれど、同時に失望されることへの恐怖とも紙一重であるのです。
東洋の伝統では定義がなされていて、信長と同じタイプの曹操や始皇帝は、東アジアでもとりわけ日本で人気があります。
後述する【守成】よりこちらの人気が高い傾向があるのです。
曹操もカッとなって家臣を殴り飛ばしたりして、自分のそんな短気を反省しています。
詩人だけに彼の心理はしっかり残っています。一部抜粋したので、ヤケになってしまう彼のストレスを感じてみましょう(紫色の文字=現代語超訳)。
曹操『短歌行』
対酒当歌
酒に対しては当(まさ)に歌うべし
酒を前にしたら歌うしかねえわ
人生幾何
人生は幾何(いくばく)ぞ
人生なんだってんだよ
譬如朝露
譬(たと)えば朝露の如し
どうせ朝露みたいに消えちまうだろうし
去日苦多
去りし日苦(はなは)だ多し
過ぎた日々があまりに多いし
慨当以慷
慨(がい)して当にもって慷(こう)すべし
黒歴史思い出すと気分どんよりするし
幽思難忘
幽思忘れ難し
暗い気持ちがなかなか去らねえわけよ
何以解憂
何をもって憂いを解かん
ストレス発散マジでどうすんのよ
唯有杜康
唯(ただ)杜康(とこう)有るのみ
酒を飲むしかねえだろオイ!
人生をよりよくしようと思い、一歩進むと、また別の困難がやってくる。一段階あがると、新たな問題がどっと襲ってくる。
そう思えば、若い頃はなんて楽だったのでしょうか。
好きなイベントに行けるだけで盛り上がり、試験に合格して目標を達成できて……人生は歩めば歩むほど複雑で、喜びがなくなっていくようだ。
そういう複雑な迷路に、光秀も信長もはまりこんでいくようで。高みを目指し続けることの厳しさがそこにはあります。
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