麒麟がくる感想あらすじ

麒麟がくる第31回 感想あらすじ視聴率「逃げよ信長」

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麒麟がくる第31回感想あらすじ
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豊臣秀吉:仁なき英雄

ジャッキー・チェンの盟友であるサモハンには、こんな映画がありました。

『デブゴンの太閤記』(1978年)。明の太祖・朱元璋を描いた作品です。

ここで太閤記とされているところに、ポイントがあります。

朱元璋と秀吉には共通点がある。

両者ともに、貧しく何もない、徒手空拳の人物から天下統一まで上り詰めたこと。

そんなロマンあふれる英雄、きっと中国では人気だね!

というと、実はそうでもない。功績も大きいけれど、禍根も残した人物です。

功臣の残酷な粛清、猜疑心の強さが引き起こす悲劇。そういうマイナス面も大きいのです。彼は血を流しすぎた。仁政からは遠く、それゆえ褒められないのです。

今週の佐々木蔵之介さんの、末妹への懺悔と虫に己をたとえる場面には、そんな仁政を欠いた英雄となる予兆がみっちりと含まれていると思いました。

この秀吉は、巧言令色鮮し仁。すごく口がうまくて、コミュ力高くて、ノリがよくて。飲み会の幹事にしたら最高! そんなパリピです。

しかし、宴会だけじゃなく、戦場では殿(しんがり)だって務められる。飛べるだけの羽はあるのです。

ただ……仁が足りない。誠意に欠ける。それは家康との対比でハッキリします。

彼には高邁な理想、仁政をめざすことがない。出世欲がある。自分自身を持ち上げてゆく気持ちはある。

しかし、世界そのものを変える、仁政への見通しがない。

末妹への申し訳のなさ、飛んでみせる気持ち。それはそれとして結構。感動的だ。けれども何かが決定的に足りないのです。

彼は己自身については語る、プレゼンする。けれども結局、そこに止まっている。

それでは何かが足りないんですよ!

何が足りないのか?

ヒントは現実にもある。

今回盛り上がったアメリカ大統領選挙。トランプ支持者の理由として、こんなものがありました。

「彼はビジネスマンだ。小理屈を捻る奴とは違って、キッパリとやりきるから」

これって、日本人にある秀吉崇拝の理屈にもちょっと通じると思ったんですね。

秀吉の教養は、他の武将と比較すると見劣りはしました。いくら賢くても、育ちが影響していて、インプットがあまりに少ない。

源氏物語』トークで盛り上がるなんてことができないのです。

けれども、そういう教養インプット由来じゃない凄み、営業部のエースらしさが、魅力でもあるとは思うのです。過去の大河ドラマはじめフィクションでもそういう味付けはされてきた。

それを今年は、教養豊かな光秀目線で“宿敵”と言い切るわけです。面白いんですよ、現実とフィクションを組み合わせて考えていくと、楽しみ方は無限にどんどん広がります。

◆【麒麟がくる】宿敵秀吉考(→link

 

徳川家康:【守成】の英雄

【創業】への対比として、彼は【守成】。

信長が始皇帝曹操で、秀吉が朱元璋ならば、家康は李世民です。おめでとうございます!

東洋では英雄には【創業】と【守成】がいるとされました。

乱世を切り抜け、非常な決断を果たしてでも新世界を切り開く【創業】。

【創業】が変えた世界を固めて、世の中の新たな基盤を作る【守成】。

中国では【守成】型の人気が高く、この分類で最高峰とされる唐太宗・李世民が人気ナンバーワンの名君とされます。

世界史的にもそういう傾向はある。BBCが番組のテーマとして選んだ三英傑は、家康でした。

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徳川家康は、日本を代表する【守成】型の英雄とされ、中国語版山岡荘八『徳川家康』は200万部を超える大ベストセラーとなっております。

家康の愛読書は唐太宗・李世民の君主としての心得をまとめた『貞観政要』。

日本にも李世民のような人物がいたとなれば、納得しつつ追い求める。そういう流れがきっちりと見えてきます。

家康はそうした思想や持って生まれた気質もあってか、東洋で名君とされる資質があります。

だからこその風間さんなんです!

風間俊介さんか……彼こそ家康だと見抜いた方がいるならば、それこそ偉業です。

ご自身も本作のインタビューで語っておりましたが、この家康は見るからにカリスマ性のある顔をしていないのです。

カスタマーサポートとして彼が応対したら、きっとなんでも話せちゃう。そういう親しみやすさと聡明さが入り混じっています。

考えてみてもください。黒光りカリスマを持つ斎藤道三がカスタマーサポートにいたら、嫌じゃないですか。

「何もしていないのにパソコンが起動しなくなった? そう皆さんおっしゃるけれど、何もしていないわけがないんですよ……」

そうあの笑顔で言われたら、もう、絶望するしかない。

家康はその点、なんでも話せそうではありませんか?

これが【守成】タイプの資質なのです。怖くて話せないようではよろしくない。とりあえず話を聞いてくれそう……これが大事です!

『貞観政要』での太宗は、ともかく家臣や皇后とコミュニケーションをする。

主君が何やからかすと、周囲が「それはどうかと思うんですね」と注意をし、太宗は「すまんかった……」と素直に反省する。

こういうやりとりは、なまじギラギラした【創業】型とはできない。むしろキレる。カリスマのある俺に何言ってんだとなる。

そういう英雄は、いくら有能でも当たりがきついから嫌なもの。名君じゃない。そういうことを教訓としてきたわけです。

家康の「なんでも話せそうな名君顔」をふまえて、風間さんを選んだのだとすれば、やはり本作は素晴らしいのです。

 

明智光秀:水魚の交わり

光秀について、こんな見方もあるようです。

「義昭につくって言ってたはずの光秀がいつの間にか、信長に味方してない?

それに信長にせよ、光秀にせよ、帰蝶の意のままになっているって認めたくないから誤魔化してない?

光秀って誰かの言うことを聞いてばかりで主体性ってもんがないよね。

一体こいつは何をしたいの?」

帰蝶の過大評価しすぎだと思います。

なまじ川口春奈さんが注目を集めているだけに、帰蝶を持ち上げすぎるのもどうかと思います。信長だって光秀だって、自分なりの考えはあるでしょう。

それに、大きな理想のためならば目の前の小さな要素を切り替えてゆくのは、よくあることです。

光秀よりいろいろヤバい奴がいたじゃないですか。

2016年『真田丸』の真田昌幸ですよ!

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アイツは「武田は滅びない」といいながら、滅びる前提で北条にくっついたり、上杉にぺったりしたり、徳川支援も受けたし、表裏比興過ぎてもう……。

でも、真田昌幸には大きな目的があった。

真田郷は真田が治める!

そういう大目的のためならば、コロコロと味方を変えるのは、戦略として正しいのです。そこまで踏まえましょう。

光秀は「麒麟がくる世」――仁政を望んでいることはタイトルからわかりますよね。

2016年、2017年、そして2020年と、戦国大河は人間の心理解釈に進歩がありまして。

もう一人、大目的のためならば態度を変える人物がいます。

2017年『おんな城主 直虎』の小野政次です。

小野政次
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彼は井伊家を、その当主である直虎を守るためならば、自分の立場も言動も二の次にできた。必要ならば、裏切るフリだってできた。

自分の命よりも、名誉よりも、井伊谷と直虎を選んだ存在でした。

大きな目標のためならば、何かを犠牲にしてでもいい――そういう人間を大河ではどう描くか?

トーンや作風はそれこそ同工異曲でも、そこに共通点はあるのです。

さきほど、光秀の決意と諸葛亮の『出師表』をあげました。

諸葛亮と主君である劉備は【水魚の交わり】の語源です。

前述のように、状況に応じて姿を変える人物のうち、光秀は水のように変わります。

透き通った水のような光秀は、相手の気持ちを引き出し、スイスイと泳がせる。光秀という透き通った水があればこそ、三英傑が魚として泳ぐ姿を見せた感があります。

ただ、諸葛亮と劉備の関係は、君臣としてそれでよいのか?

そんな疑念は後世呈されました。

劉備が自分の子に器量がなければ、諸葛亮が国を運営するよう言い残したとされることも、問題視の大きな原因です。

魚が泳げるのは、水あってのもの。水がそうしようと思えば、魚を干上がらせることはできる。そういう力関係は、不安定で下克上を狙えるのではないか?

【水魚の交わり】とはとても美しいようで、緊張感を伴うものではないか?

そういう関係性における、水の反乱を本作は示すのでしょう。

本能寺の変がどうして起こるのか、謎とされているけれど。

魚に対する水の怒りと絶望と反撃だとすれば、スッとおさまる気がするのです。

本能寺の変
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総評

すんません、三英傑と光秀考察で、もう今回の気力が尽きかけていますが……。

この作品は、人間の心を解剖していく作品だと思います。

今週はどの場面も感動的で、三英傑と光秀がいがみあう未来なんて想像できないようでもある。

ただ!
彼ら自身の中に後年すれちがう種はある。その兆しまで描く本作のおそろしさを感じました。

演じる側も、あえて役作りをするというより、なりきってしまっているというか、関連ニュースを見るだけで笑ってしまう。

[麒麟がくる]風間俊介、名だたる武将そろい踏みに「この顔ぶれは圧巻」(→link

こんなこと言われたって、そういう顔ぶれで頂点に立つのが家康でしょ?

そう言いたくなる一方、謙遜してしまうあたりに【守成】の英雄になりきったものを感じてしまうのです。

風間さんのコメントはいちいち謙虚で、だからこそ家康だと毎回笑いたくなるほど。

おそろしいほどの完成度を毎週感じます!

※関連noteはこちらから!(→link

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文:武者震之助
絵:小久ヒロ

【参考】
麒麟がくる/公式サイト

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