その城代を任され、本能寺の変では先陣も務めた明智左馬助(秀満)をご存知でしょうか。
しかし、その生涯は謎だらけでもあります。
生年が不明なら、出生地も不明。前半生だって不明。
そうかと思えば、
「敵の追手をかわすため、馬に跨って琵琶湖を渡り、坂本城へ入った」
なんて、神がかった伝説まで語り継がれ、一部の戦国ファンには大いなる支持を受けてきました。
近年は新たな書状も発見され、あらためて光秀の右腕的存在であることが再認識されています。
では、その人柄や事績は如何なるものか?
大河ドラマを機に、新たな人物評価の進む明智左馬助(明智秀満)の生涯を振り返ってみましょう。

明智左馬助(秀満)のものと伝わる南蛮具足/wikipediaより引用
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光秀に最も信頼された明智左馬助(明智秀満)
明智左馬助(明智秀満)が史料に登場するのは天正6年(1578年)頃のこと。
明智光秀の娘を娶(めと)ったということが確認できます。
それ以前は三宅姓であったことが現在は有力視されておりますが、出自については後ほど触れるとして、まずはこの先へ進みましょう。
明智姓を名乗るようになっていた天正8年(1580年)頃。
左馬助が主君・光秀から絶対的信頼を勝ち得ていたことが、光秀の書状の出し方などからも確認できます。左馬助名義の副状(主となる手紙の補助的文書)が見つかっているのです。
これは明智家代表補佐として自他共に認められていたことを示しています。
推定年齢は、天正10年(1582年)の頃でおおよそ30歳前後とされますので、光秀よりも20〜30歳程度は年下となりましょう。
本能寺の変時点で、光秀は55才説が一つの例として挙げられます(他に67才や43才説も)。
いずれにせよ左馬助はかなり若い。
にもかかわらず、天正9年(1581年)には丹波国(現在の京都府付近)福知山城城代にも任命されておりました。
上記地図をご覧の通り、福知山地方は京都と山陰エリアをつなぐ交通の要衝です。
明智家の本拠地だった坂本城が京都と近江をつなぐ要衝だったことを考慮すると、その次に大事なところを任されていたことになります。
本能寺襲撃を最初に打ち明けられたのも左馬助?
明智左馬助は文化人としての素養も持ち合わせておりました。
光秀が主催した茶会でも饗応役(おもてなし)に指名されていたことがあります。
織田家にとって「茶」は政治的にも特別な存在。
主君・光秀のさらに主君である織田信長が茶器茶会を重要視していたのは有名な話で、戦場だけでなく、茶を通じた政治外交手腕も期待できる左馬助(秀満)は、光秀にとって極めて重要な存在だったに違いありません。
明智家においてだけでなく、織田家全体の中でも有力なポジションを築いたことでしょう。

織田信長/wikipediaより引用
しかし……その生活も唐突に終わりがやってきます。
天正10年(1582年)6月1日――。
『政春古兵談』という史料によれば、光秀から「信長への謀反」を最初に打ち明けられたのは、他ならぬ明智左馬助とされています。
左馬助は当初、光秀の叛意に反対でした。
しかし、光秀が他の家臣複数にも同様の相談をしたことを知ると腹を括ります。
「複数人にその意思を明かしてしまった以上、信長公に知られるのも時間の問題、もう事を起こすほかない」
そうして結果的に光秀を後押ししたとも伝わっています。
いざ決断したら迷わない芯の強さも感じさせますね。
この手のエピソードは「いかにも創作」という印象が拭えず、史実として信用するのは難しいながら、光秀と左馬助(秀満)の強固な関係を表すにはわかりやすいものでしょう。
本能寺では先鋒 山崎の戦いには参加せず
天正10年(1582年)6月2日未明――戦国の世に激震を走らせる事件がついに始まりました。
言わずもがな【本能寺の変】です。
左馬助は光秀の命によって本能寺攻略の先鋒を務め、作戦そのものの成功に大きく貢献します。
一番槍の武功を得たのは斎藤利三配下の安田国継とされますが、重要なのは信長の命を奪うこと。
さらには二条にいた織田信忠も自刃に追い込み、明智家にとってまずは理想的な展開を迎えます。

織田信忠/wikipediaより引用
しかし、問題はその後でした。
程なくして明智家には暗雲が立ち込めます。
事態は、光秀らには都合が悪く、かつ当初の想定にはなかったであろう展開へと流れていきました。
光秀は、毛利に釘付けにされると計算していたであろう羽柴秀吉(豊臣秀吉)の軍勢とぶつかり、6月13日に【山崎の戦い】へと発展。
勢いや兵数の勝る秀吉相手に大敗を喫し、翌14日に光秀は絶命します。
小栗栖(京都市)の藪で落ち武者狩りに遭い、殺されたというのが定説です。

明智光秀/wikipediaより引用
左馬助は、この重要な一戦・山崎の戦いには参加しておりませんでした。
というのも……。
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