『おんな城主 直虎 完全版 第壱集 [Blu-ray]』/amazonより引用

おんな城主直虎感想あらすじ

『おんな城主 直虎』感想レビュー第21回「ぬしの名は」卑しく奪い合う中世を終わらせたいが……

母・祐椿尼ばかりか高瀬姫にも叱られて

龍潭寺で直虎を待つ政次は、南渓から無事に直虎が戻ると聞いて安堵します。
政次、ここ数日一睡もしていないし食事もしていません、3キロ痩せました、みたいなやつれ方なんですが……気の毒に。

無事に戻った直虎を、母の祐椿尼やたけだけではなく、年下の高瀬まで心配して叱りつけます。

直之は盗賊を追わない直虎に激怒。直虎は盗賊の顔もアジトもわからないとシラを切ります。

一方でこっそりと喜びを見せる政次。
直虎には乗っ取りの芝居がバレたとはいえ、他の家臣は騙さねばなりませんからね。

直虎は元の暮らしに落ち着いたのですが、どこかで頭の「領主なんて大泥棒じゃねえか」という言葉が引っかかっています。直虎は百姓の出である高瀬に、武家を泥棒だと思ったことがあるかと、聞いてみるのでした。

「おらたちの作ったものなのに、おらたちの口に入らねえ。奪われていると思ってしまう」

率直に答える高瀬。まあ、全部取られるんでなくとも、税金を払う時は何か納得いかないのが人情ってもんですよ。
祐椿尼は、武家も同じ、戦をして、奪うしかないのだ、と説明をします。

限りある資源、人。それを奪い合い生きる戦国はまさに厳しい世界。
「この世は、奪いあうことでしかたちゆかぬということですか……」
戦国のマッドマックスぶりを噛みしめる直虎でした。

 

木材は燃料であり建材であり、中世には欠かせぬ大事な存在

そこへ方久が材木の商売を持ちかけます。

材木は燃料です。建築材です。さらに合戦が起これば木材でや楯、様々なものを作ります。大事な資源です。

現代の山林でロケをしているからには仕方の無いことですが、戦国時代の山野は“はげ山”だらけだったとも言われています。日本の森林資源が回復するためには、徳川期の太平が必要でした。
木材の切り出しには人手が足りないと思う直虎ですが、あることを思いつきます。

気賀に向かった方久は、盗賊の身代金要求状を示し、この「達筆な文字を書けて子供が部下にいる」盗賊団はいるか?と与太夫に問い合わせます。

調査の結果、あの頭に直虎から連絡がつきます。
一対一で話し合おうと誘い出された頭は、指定された寺に向かいます。
直虎は「これでも結構腕が立つからついていようか?」と言う南渓を断り、サシで話し合うことにします。

あらわれた頭に、直虎は昔飢えて蕪を盗んだ(第4回)と告白。

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追い詰められれば人は盗む、自分もお前も等しく卑しい、一人の人としてそうなのだ、と切りだします。

人として生まれ、卑しいことをせねばならないと開き直ってそれでいいのか、そう問う直虎。
この奪い合う卑しい、マッドマックスな世を何とかしないか、とスケールの大きな更正を持ちかける直虎。
もちろん夢だけではなく、リクルート情報も持って来ています。

直虎は、その森林伐採スキルを生かして、分け前七対三で井伊家に就職しないかと持ちかけます。夢だけではなくちゃんと地に足を付けて商談に持って行くのは、なかなか有能です。
頭としても危険をおかして盗みをしているよりも、命の危険がない仕事になるわけですし、どうやら納得したようです。
契約完了! ここで直虎が名を確認します。

旅の男、盗賊の頭はついにここで龍雲丸という名が判明したのでした。随分引っ張ったなあ。

ただし龍雲丸の面は割れているわけで、直之や近藤康用は納得しないですよね。

早速、直之、激怒。さあどうする?

 

MVP:龍雲丸

第16回から登場して、引っ張ってきてようやく仲間になった男。
他の人物とタイプが違うな、と思ったわけですが本作はタイプ被りがいないんですよね。こういう謎めいたワイルドキャラは、他の誰とも違い柳楽優弥さんにぴったりだなあと。

ひょうひょうとして人を食った演技、つかずはなれず、心酔しているのか利用したいだけなのか。
つかみにくい直虎との距離感がよいので、このままキープして欲しいかな、というところも。本音はともかく、コロリと心酔しない枠を彼に残してもよいかなと思います。

あのネックレスや赤メッシュヘアーがハマっているのも凄いと思いますよ。
それにしても、龍雲丸という名前もどこか引っかかるところです。
龍雲寺は寿桂尼の菩提寺ですが、果たして……。

 

総評

木材騒動を一週あけてひっぱって、盗賊がパーティーに加入しました。

大河オリジナルキャラ特有の、個性的な衣装と遊び、そして森下さんが好きそうな伝奇風味が絡んだ今週。
そして重要な問いかけは「武士や領主の支配正統性」と「このままマッドマックスな乱世でいいのか?」ということですね。

直虎は正統性をつきつけられて迷いこそすれ、きっちり答えを出しています。損得勘定も入れて、美談だけでは終わらせません。
それが正統性への返しだと思います。
正統性よりも、実際役に立つかどうか、支配するメリットで決着しようというわけです。

この問いかけは今年のようなスケールが小さいドラマだからこそできること。いわば小回りです。
織田信長や徳川家康が主役では、いちいち「武家が支配する正統性は何か?」と語りかけている暇はありません。

そしてもうひとつ、「卑しく奪い合う世でいいのか?」。
これは昨年の最終回ラスト、真田幸村と徳川家康の問答と対になっている問いかけです。
幸村は人が争うことで、何かを奪いのし上がるチャンス、実力本位で切磋琢磨する乱世の活発さを奪うつもりか、と家康に問いました。
家康はそうやって戦の中で生きていてはいけないのだ、と返しました。

直虎も幸村と同じ、乱世だからこそ輝ける人です。
女で城主になるということは、徳川の泰平の世では決して許されなかったことです。それでも直虎は、戦い続けるばかりでは卑しい、そんなことではいけない、世を変えなければいけないと感じています。

乱世と太平の世、どちらにもメリットとデメリットがあります。
戦があるからこそ活気がうまれ、鉄砲を競って作るように技術が発展します。戦には世を活性化させ、実力のある者を押し上げる力があります。

その一方で、弱者には苦しい世界です。山林は荒れ放題、田畑も荒廃し、人は些細なことで殺し合う。殺伐とした安らぎとはほど遠い世界です。
昨年と今年の主人公は、立場としては反対の立ち位置にあります。

乱世を何とかしたい、そこに芽生えた太平の可能性に賭けたい直虎。
太平の世に向かう中で、乱世の活気を取り戻したい幸村。
昨年の問いかけへのアンサーを用意しています。
今年はやはり、乱世の砂漠を駆け抜けて、まだ見ぬ太平の緑の地へ突っ走るマッドマックス大河ですよ。

井伊谷と気賀でこちゃこちゃとやりとりしているため、スケール感には欠けています。
今週のOPクレジットはほとんど井伊谷と盗賊団だけでしたし。だからこそできる丁寧で愛すべき「小回り」はあるんですけれども、わかりにくいとは思います。
それでも開き直り、「今年はこれで行くぞ!」と思っているところが天晴れです。
小回り大河というパイオニアの辛さはあるでしょう。それでも頑張ってくれ、と今週も応援してしまいます。

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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link

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