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弟子の成長を喜ぶような寿桂尼 直虎の目標だった人が今……
井伊では、直虎と小野政次が気賀も収まりそうだと井戸の前で語り合っています。
政次はそろそろ戦のことを考えねばならないと告げます。寿桂尼の容態が悪い、このまま亡くなれば一気に動く可能性があると。このまま無策では今川方として無謀な戦いに駆り出される。その前に手を打たねばならないのです。
直虎は複雑な気分です。
今川は敵とはいえ、寿桂尼は目指すべき大先輩でした。
そんな直虎に、寿桂尼から呼び出しの書状が届きます。話したいことがあれば行っておいで、と南渓。
以前ならば駿府から呼び出された時点で大事件、殺されるかも知れないと大騒ぎだったなあ、と感慨深いものが。
呼び出された直虎と出迎える寿桂尼。直虎は美しく染められた綿布を贈ります。
後見を許されて三年、いろいろあった綿花栽培、綿布産業もここまで来ました。
京都出身でファッションにはこだわりがある寿桂尼も驚くほど美しい仕上がりの布です。それもこれも貴女が認めてくれたから、と恩義をにじませる直虎。弟子の成長を喜ぶような寿桂尼です。
直虎が返答すると寿桂尼は涙を流し、今川への助力を願う
寿桂尼は苦しそうに「直親のことをどう思うか」と尋ねます。
恨むなという方が無理だろう、今でも恨んでいるかと続ける寿桂尼。
直虎は一瞬呆然しながら言うのでした。
「家を守るということは綺麗事では達せられません。狂うてでもおらねば、己の手を汚すことが愉快な者などおりますまい。汚さざるを得なかった者の闇はどれほどのものか……そう思います」
寿桂尼は涙を流し、声をつまらせながら、直虎のこれまでを思い出します。
家を救うために鞠を蹴った姿。瀬名の命乞いの姿。徳政令を覆しに来た姿。
「そなたが我が娘であればと、ずっと思っておりました……」
直虎も涙で目を光らせながら、直虎と名乗るようになったころ励まされたのは『仮名目録』であった、女子である寿桂尼が作ったものだと知りどれほど力強かったか、としみじみ語ります。
互いに理解しあう美しい姿がそこにはあります。
寿桂尼は、今川は武田に戦を仕掛けられそうになっている、どうか自分の死後も今川を見捨てないで欲しいと訴えかけます。
直虎は深々と頭を下げ、「ご安心くだされませ」と返すのでした。
これが「死の帳面=デスノート」か!!
直虎は廊下に出て、他の者も寿桂尼に呼び出されているのを見ます。
一方で寿桂尼は黒い帳面に何かを書き付けています。
井伊に戻った直虎は政次に、寿桂尼はゆかりのある人に挨拶してみるみたいだよ、と報告。政次は恩義を売って離反を食い止めたいのだろうと分析します。
駿府では、氏真が離反者を呼び出し、粛清を行っていました。氏真が見ているのは、寿桂尼が手にして何かを書き込んでいた黒い帳面です。
そこにあるのは家臣の国衆の名前。
そしてその名の上には赤い×印……。
これが「死の帳面=デスノート」か!!
氏真が頁をめくると、井伊直虎の上には、なんと大きな×印がありました。
氏真は困惑しつつ、寿桂尼に「お気に入りではなかったのか?」と問いかけます。
「あれは、家を守るということは、綺麗事だけでは達せられぬと言うたのじゃ。いつも吾が、己を許すために己に吐いておる言葉じゃ。おそらく同じようなことを、常日頃思うておるのであろう。吾に似た女子は衰えた主家に義理立てなど決してせぬ」
その言葉を聞き、目を泳がせながら氏真は言います。
「では井伊については筋書き通りに」
「ええ、例の話をお進めください」
直虎は寿桂尼の試験に合格してしまった!
心情を理解できるからこそ容赦はできぬ
直虎はかつて寿桂尼が歩んだ修羅の道をゆく覚悟を完成させてしまっていた。
あのとき「目を真っ赤にして直親のことで恨み言を言えば」こうはならなかったのだ!
直虎は、合格したからこそ死なねばならない……互いが理解しあうからこそ、容赦はできぬと判断されたのです。
うわーっ、戦国だ。これが戦国だ。なんて嫌な世の中なんだ!
寿桂尼が静かに決意を表明すると画面は暗転。井伊に切り替わります。
直虎は南渓から勢力について語られます。地図の精度が上がっているのは情報主収集力のアップかな?
今川は上杉と同盟を結ぶ、そこでポイントになるのが徳川だと聞かされた直虎。
じゃあ徳川に働きかければいいね、徳川が武田と組まなければいいね、と考える直虎です。
政次はそんなことを今川に知られたらどうするんだ、と焦ります。直親と徳川の接触があの結果になりましたからね……。
しかし直虎は止まらず、瀬名に書状を出します。
瀬名は一人囲碁を楽しむ夫・徳川家康の碁盤にスライディングして書状を手渡します。
昨年に続き謎の癒やし系・徳川家。あの信玄を見たあとだと、今川に引導を渡すのは家康でよかった、と思えたりして。
MVP:寿桂尼
美しく、凛々しく、そして冷酷な寿桂尼。
信玄のやり取りはまさに化かしあい。昨年の昌幸と家康のやり取りを思い出しました。
信玄は相手を化け物扱いしていますが、両者とも十分化け物です。
彼女の凄味は「弱った老婆」であることすら利用していることです。自らの弱点すら手札に使う、持てるものは何でも使うわけです。
その姿は主人公の未来でもあるわけです。
京都から嫁いできたころは深窓の姫君らしかったでしょうし、政治に関わるようになってからも今の直虎のように青臭く理想論に燃えた女性であったかもしれません。
それが今ではおとぎ話の魔女や妖怪のようにも思えます。
しかしそれは一途に家を守ろうとした結果なのですね。直虎の将来もこうかもしれない、と示しています。
キラキラしたお姫様と悪の魔女は別の存在ではなく、段階の変化に過ぎない。いつまでもキラキラスイーツをしていたら死ぬだけだ。
今週も本作は、スイーツ大河に容赦ない一撃を加えてきました。
特に直虎とのやりとりは録画して二度見たい出来でした。
一度見た時は「ああ、彼女は直虎の成長を頼もしく思いじんと来て泣いているんだ」と思えます。
二度見ると「ああ、この人は直虎が成長し過ぎて危ないから殺そうと思い、そのせいで泣いているんだ。それかその気持ちを誤魔化すために泣いているふりをしているのかも」と思えてきて、背筋がゾクゾク……。
信玄は義信を始末しました。息子であろうと、かつての自分のと同じ、父に背く可能性があれば容赦無く始末しました。
信玄と同じく、寿桂尼も娘のように思う直虎を容赦なく始末する決断を下します。
妖怪変化(へんげ)だらけ、戦国らしさを感じる秀逸な回です。
総評
今週からは新たなターン。いよいよ牙を剥く武田!
とぼけた味わいもある信玄ですが、どこかユーモラスながらえげつないところは、流石真田昌幸の師匠だと思いました。
『風林火山』の真田幸綱(劇中では幸隆、演じた野は佐々木蔵之介さん)から昨年の昌幸には容貌はともかく、性格的にはまっすぐ繋がらないのですが、間にこの信玄を入れるといろいろと納得できます。
腹の底を隠しながらシレッと嫌らしいことを連発するあたり、そっくりじゃないですか。
直虎や寿桂尼、そして昨年の真田信尹は手を汚す時に苦しみを感じていましたが、信玄と昌幸についてはどうもそれすら怪しい。直虎の言葉を借りれば「狂っている=マッド」、武田は戦国の中でもぶっちぎってマッドマックスなのでしょう。
寿桂尼と信玄が妖怪対決をしている一方で、氏真のいじらしさが際立ちました。
常人は反発するというのが氏真の反応ですね。氏真が悪いとか劣っているとか、そういうことではなく、妖怪の前で常人は無力なのです。
テレビの前のあなただって、寿桂尼が直虎の上の×印を書いていたところでのけぞったでしょう?
氏真と同じ気持ちでしょう?
彼は人並みに善良で人並みの頭脳を持つ、愛すべき男なんですね。
開始前には「今川が悪く描かれないか心配で」という意見もあった本作。
それを見事裏切り、今川の美しさを描いたことも感動しましたねえ。春が夢のようだと語った雅さと、戦国大名としての実力、両方備えていたのが今川でした。
その美しさはたっぷりと血を吸ったもので、その血の中には井伊のものも含まれています。
一輪の大きな花を咲かせるため、小さな花は間引いてきた結果ではあります。
もうすぐ散る今川の花。短い命を長引かせるために、どれだけの血が流れるのでしょうか。
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【参考】
おんな城主直虎感想あらすじ
NHK大河ドラマ『おんな城主 直虎』公式サイト(→link)