来年の大河『おんな城主 直虎』のキャストも発表されています。
現時点ではあまりコメントする必要はないかと思うのですが、主人公周辺の人間ドラマ重視で、今年のように国衆のパワーゲームはあまりやらないのかな、という気がします。
さて、今年の大河です。
まずは追加キャスト。
そしてこの方はブレイクしたキャストです。
◆[真田丸]村上新悟 “セコム直江”のあだ名に「複雑」(→link)
本編でも「直江状」は是非読み上げて欲しいところです。
直江兼続霜月けい" width="370" height="320" />
先週は暗い、陰惨、有名な大事件でもない、人が死ぬ――と、視聴率が上がるような要素はまったくなかったにも関わらず、19%に迫る勢いでした。
昨年某氏は「人が死ぬから数字が取れない」的なことを言い物議を醸しましたが、今年は結果を出してそんな戯れ言を粉砕しているわけです。
大河のお約束ではなく、最新研究をふまえて面白い脚本を組み立てるという基本を大事にすれば、きっちり視聴率はついてきます。
「人が死ぬから」
「血が流れると女性やライト層が逃げるから」
「難しい展開はわかりにくいから」
「主人公が挫折するとカタルシスがないから」
「今の若者は時代ものがわからないから」
といった言い訳に逃げず、噛み砕くのと手を抜くことを混同しなければ、結果はついてくると今年が証明しました。
今後数年間は、本作こそが大河の指標となるでしょう。
と、先週までの展開もおもしろいことは、そうなのですが、第14回から七回ほど、二ヶ月近く秀吉周辺を描いてきたわけで、ちょっと食傷気味になってきたのも確かです。
そんな不満も今週で終わり。舞台はまた東日本、信濃から関東へとうつります。
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捨をめぐって飛び交う思惑 秀次は「後継者になんてなりたくない」
権力、待望の世継ぎを手にした秀吉。
残るは関東と奥羽を手に入れれば、天下統一です。
天下のゆくえを家康と三成と話すときでも、秀吉の膝には子の捨が。
信繁が秀吉に呼ばれますが、意見を求められるどころか捨の世話を頼まれるのでした。駄目なドラマなら、ここで信繁に意見を求めるところなんでしょうがねえ。
豊臣秀吉" width="370" height="320" />
家康と三成は、巧みに北条との戦を回避しようと持っていこうとするのですが、秀吉は北条を攻める気満々。
三成と大谷吉継は、秀吉に北条攻めを吹き込んだのは、秀吉に都合のよいことばかりを言う千利休の仕業ではないかと推理します。
その推理の通り、この数日前秀吉は利休の茶室で北条を攻めるべきだと助言を受けていたのでした。
どうやら三成・吉継と千利休対立の種が蒔かれております。
今年の利休は胡散臭い!
戦を回避したい三成は、再度北条に上洛を促すのですが。
捨を産んだ茶々は、側室でありながら正室の寧に対抗するほどの度胸と力を持つようになります。
しかし、茶々の権力志向ゆえというよりは、母となった強さゆえのもののようです。
「出産経験がないとわからないだろう」というマウンティングは、正直見ていてちょっと辛いものがあるのですが、この茶々は悪意があるというよりは、天然お姫様気質で何気なくきついことを口にしている気もします。
この二人の対立はどうにも見ていてギスギスとしたものになりがちですが、三谷流は見ていてあまり不愉快ではなく、かつ自然にかみ合わなくなってきていて、うまいと思います。
とはいえ、この二人の間で冷や冷やしながら話を合わせる阿茶局の立場にはなりたくありませんが。
二人の間で軽くいなし、話をそらす阿茶局もどうしてなかなか、ただ者ではありません。
阿茶局の報告を受けた家康と正信。正信は、秀次は捨の誕生に気落ちしているのではないか、と推察します。
しかし、そう言われた秀次はそうではありません。秀次は捨のために風車を作りながら、きりの前で本音を明かします。
「足軽の倅に過ぎない自分は、天下人の跡継ぎの器ではない」
「むしろ後継者から外れて、胸をなでおろしている」
秀次は見ていてこちらが不安になるほど、善良な好青年です。
頼りないし、頭の回転もあまり速くはなく、カリスマには欠けていますが、そこそこの地位ならばきちんとつとめあげそうな真面目さがあります。
そんな秀次は、捨に直接風車を渡せず、きりに託すのでした。
そんなわけできりは、信繁を呼び風車を託します。
「お前って相変わらず秀次様と仲が良いな。側室にでもなれば玉の輿だろ」
「はあ? 私を振り回さないでよ! 気がある振りをしたり、そっけなくしたり。素直になりなさいよ、もう子供なんだからぁ!」
出、出た、きりちゃん空回り勘違いタイム!
ここまで痛い女子を演じる長澤まさみさんってすごいと思います。この二人、どこをどうしたら将来的に夫婦になるんでしょうね。
ウザい、ウザすぎる本多忠勝が怖くて何も言えねぇ
茶々は信繁にも、子がいるのでは? 会いたくないのか? と問いかけます。
梅の忘れ形見・すえはもう五歳。伯父の元ですくすくと育ち、賢そうな女の子になっていました。
作兵衛伯父さんも可愛い姪御にデレデレです。
それにしても、あれからもう五年経つんですね。
一方で、エクストリーム新婚生活に悩んで居るのは信幸。
稲は、出された食事は塩味がきつすぎて食べたくないと突っぱねます。
これからは薄味で作らせると言う夫に、稲は父から持たされた薄味の梅干しで食べるとそっけなく言い、取り出し食べ始めます。
これには信幸もすっかり弱り、高梨内記に手強い妻について愚痴ります。
真田信幸" width="370" height="320" />
「鼻でもぎゅっとつまんでやればいいんです」(←あなたそうは言いますけどね。おたくの娘さんのきりちゃんも、そうやって躾ければあんなことにはならなかったのでは……)
「そんなことしたら本多忠勝が殺しに来るよぉ!」
叫ぶ信幸。日本最強の舅もまた、悩みの種です。
そう言う側から、超高速上田駿府間移動をこなした忠勝が、娘の見舞いにやって来ます。
そりゃ信幸も「他にすることねえのかよ!」と突っ込む。私も突っ込みました。
忠勝はおいしい蜜柑(柑子)をお土産にやって来ました。いや、そこは送ろうよ。
稲は父相手には、夫には見せぬ笑顔をしております。
おずおずと舅に対面した信幸は「うちの稲は才色兼備で武芸も達者。
日本一可愛い稲にふさわしいもののふになってくれ」とすさまじいプレッシャーをかけられます。
信幸の寿命がまた縮む音が聞こえてきそうです。そこに松が入ってきて、とりが体調を崩していると報告します。
とりは急に体調を崩したらしく、寝込んでいます。
しかし相変わらずふてぶてしい態度も見せています。
薫、信幸、松がとりを見守っていると、粥と古漬けを手にしたこうがやって来ます。きびきびと甲斐甲斐しく働くこうは、以前よりずっと元気に見えるのでした。
信幸パートは完全にコメディですが、箸休めとしては貴重です。
北条相手に家康が垣間見せる優しさ、情の深さ
ここからは北条パートです。
秀吉の天下なぞ気にもとめぬ様子で、狩りを楽しむ北条氏政。
そこへ板部岡江雪斎が、徳川家臣・本多正信が面会を求めていると伝えます。
家康本人ならともかくふざけるなと言った氏政ですが、はっと何かに気づきます。
氏政が向かった面会の場にいたのは、家康本人でした。
氏政は相変わらず意気軒昂で、秀吉に臣従する気はないと断言します。
徳川家康霜月けい" width="370" height="320" />
しかし家康は、北条に勝ち目はない、力をつけている、長いものに巻かれるのは卑怯なことではない、生き延びるための知恵だと説得します。
氏政は何故、自分を説得に来たのかと家康に問いかけます。
家康は対立してきたものの、今は戦友だと思っている、これからもご健在であっていただきたい、嘘偽りはござらんと言います。はて、どこまで本気でしょうか。
上洛し、形だけでも頭を下げればよい、あとは何も変わらない。徳川、上杉、真田、皆そうしてきた。北条の家と領地を守るためにご決断を、と家康は促します。
さらに、氏直に嫁がせた娘を離縁させると同盟破棄をちらつかせます。
ここまで言われ、氏政も動揺を見せます。
それでも氏政は、いずれ秀吉を倒すと言い切ります。
家康はならば心してかかりなされませ、さもなくば北条は滅びますぞ、と言います。こう言っている家康が、やがて熟慮断行して豊臣を倒しにいくわけですね。
正信は誠心誠意の忠告をした家康を労います。
その上で、本気で言ったのかどうか尋ねます。
家康は確かに損得を考えたら北条が滅んだ方がよいのだが、心底救ってやりたくなった、と心情を吐露します。
このあたりが実におもしろい。
本作の家康は真田最大の敵ではあるのですが、邪悪なだけではないのです。秀吉ならばありえない懐の深さと情けが彼には備わっています。
沼田の支配権は北条・徳川・真田のディベートで決まる!?
氏直は父・氏政の真意を尋ねます。
氏政は沼田が真田から取り戻したらば上洛すると条件を設定し、江雪斎を京都に派遣します。
秀吉は怒りますが、三成はかえって好都合だと判断。
(全国の大名は勝手に合戦をしてはならないという)惣無事の実現でもあるし、秀吉が沼田問題を処理することで力を見せられるというわけです。
三成はそのために、昌幸を上洛させるから説得しろと信繁に言います。
こういう土地の割り当てを頭越しにすることは戦略のひとつで、権威を見せ付けることであるわけです。
昌幸は呼ばれたからには上洛せねばならない、ついでに建設中の京の真田屋敷も見て来ると言います。
秀吉の世はそう長く続かないとまた言い出した昌幸、なんと屋敷に隠し扉を作っているとか。
そんな父を見る信幸の顔は「うわー、何言ってるのこの人……」という呆れに満ちています。
その信幸は、つらい新婚生活からの逃避をはかりたいのか、同行を申し出ますが即座に却下されます。
薫は上洛に同行できると知ってはしゃぐのですが、体の良い人質要員であると昌幸から聞かされ、臍を曲げてしまうのでした。
京の真田屋敷に着いた昌幸は、信繁から「隠し扉なんていらないから作ってないよ!」と言われてちょっとむっとします。
さらに沼田のことを聞き、本格的に怒ります。
ふざけるな、明日には帰ると言い出す父を引き留めそこなう信繁でした。
翌日報告すると、三成は「まあ、そうなると思った」となかなかひどい返事。
大谷吉継が、北条・真田・徳川でディベートを行い、秀吉がジャッジすればどうかと提案。これは新たな形の舌戦、頭脳による戦だと納得した昌幸は、受けて立つことにします。
しかし北条側は氏政ではなく、氏直も渋り、江雪斎を代理に出すことに。北条側も一枚岩ではなく、氏政はともかくとして氏直や江雪斎は戦ってはまずいと思っているようです。
これを聞いた家康はおとなしく上洛しない氏政にあきれます。
「沼田、沼田、まるで喉に刺さった小骨だな」
家康はそう嘆き、本多正信を派遣することに。
これを聞いた昌幸は「おいふざけんな、代理ばっかりじゃねえか」と怒り、やってられるかとボイコット。
なんとしても戦を避け、乱世を終わらせたい三成と吉継は、父が駄目ならお前がやれと信繁を焚きつけます。こうして三者とも代理を出すことになるのですが。
石田三成" width="370" height="320" />
「徳川を味方につければ勝てる!」 昌幸必死
ディベート会場は、赤いキャンドル(『軍師官兵衛』でも悪目立ちしていましたな)、明朝風味の柱(中華料理屋みたい)、テーブルと椅子、絨毯、レースのカーテンと、やり過ぎて悪趣味なインテリアで飾られています。
信長の場合、和洋折衷に洒落っけがあったのですが、秀吉はまるでごった煮。
美的センスの欠如と、海外への野心を感じさせる装飾でしょうか。
スタッフは意図的に悪趣味にしていると思います。
江雪斎、正信、信繁が揃ったところで、信繁はそそくさと退席しどこかへ去ります。
行き先は何か倉庫のような場所です。そこにいるのはなんと昌幸。
子供か、子供のかくれんぼか!
昌幸は徳川を味方につけろ、沼田を決して北条に渡すなよ、これは戦だ、とアドバイス。いつまでも親に頼るなとも言いますが、あんたこそ息子に頼ってばっかりだろうが! そこまで言うならお前が出てこい!
そう突っ込みたいのは山々ですが、きりがないのでこのあたりで。
席に戻った信繁は、早速正信を味方に付ける作戦開始。腰痛に悩む正信に、有馬の温泉が効くと助言し和やかなムードが流れます。
中国風の茶器で茶を飲んでいた秀吉は、三成に促されディベートの審判に向かいます。
かくして、沼田を巡るディベートが始まります。
今週のMVP:本多正信
際だってこの人だと思うところはないももの、敢えて言うならばこの人で。
家康が誠意をもって北条を救いたいと知り、嬉しそうな顔をするところがよかったです。
演じる近藤正臣さん、どの表情にも味があります。
総評
「戦端」なのであくまでさわりまで、あまり話が大きく動かないのでちょっとむずむず消化不良になるかもしれません。
しかし、ちゃんと歴史は動いています。
おそらく秀吉以上に惣無事の理念を重要視していると思われるのが、三成、吉継、家康といった周辺に見えるのが面白いところ。
「いくさはいやでございますぅ〜」と綺麗なべべ着たお姫様がキャーキャー騒ぐ近年の駄作大河とはちがい、本作の男たちは乱世に疲弊し、利害を計算し、熟考の末出した結論としてこれ以上戦うのを避けようとしています。
崇高な理念でも、現代的な平和思想でもなく、人々が中世人から近世人へと脱皮する過程において、武器を置く。
そういう歴史の流れが感じられます。
本作は決断におけるくじ引き、鉄火起請、戦う村人たちといった中世人の姿を描いてきました。不合理な神だのみ、暴力による解決が彼らの理念でした。
ところが彼らはそうした中世的なものへの疑問が生まれています。もっと合理的でよりよい解決手段はないのかと頭を悩ませています。
そうした試行錯誤の結果出てきたのが、惣無事であり、所領の帰属を理非で決めるというやり方であるわけです。
ただ、ここで面白いのは、そのやり方を採用する秀吉が、実のところ中世の申し子のような人物であることです。
彼のような人物がもし徳川の江戸時代にいたとしても、あれほどの出世はできません。
先週、戦がなくなったことを嘆く元足軽の尾藤道休は「成功しなかった秀吉」と書きました。
道休も秀吉も、戦を糧として生きてきた存在です。世間から戦をなくしてしまったら困るのです。
惣無事で戦を日本からなくした秀吉は、海を越えてまで戦を仕掛けてゆきます。その秀吉の政権は短命に終わります。秀吉とともに、中世は終焉を迎えるのです。
それに対して家康は、大坂の陣を中世最後の戦とすべく戦います。
本作は中世から近世へと移行する、時代と時代がぶつかりあい戦う大きな流れ、まさに大河が底に流れていると感じます。
歴史の教科書で覚え、頭の中ですんなりと流れてゆく、信長・秀吉・家康の流れ。戦国が終わって江戸時代が来たということは誰でも知っています。
その誰でも知っている歴史の流れの中で、苦闘、葛藤、犠牲、喜怒哀楽があったと感じ取れるのが、今年の良さだと思います。
日本中が沸き立ち、暴力で物事を解決していた戦国時代。
その国の民から武器を取り上げ、まとめあげることがどれほど困難なことであったか。
本作最大の敵として立ちふさがる徳川家康は、それを成し遂げた男です。
近世最初の統治者に、中世最後の戦士が一太刀浴びせる、それが本作のクライマックスとなるのでしょう。
軽かろうと、コメディタッチだろうと、歴史の流れる音が聞こえるのですから、本作はやはり「大河」ドラマです。
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文・武者震之助
絵・霜月けい
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真田丸感想