ムーランの元ネタ

映画『ムーラン』/amazonより引用

世界史

ディズニー映画『ムーラン』の元ネタ 中国の女戦士「木蘭」とは?

ディズニーの実写版映画『ムーラン』には、モデルとなる人物はいるのか?

あるいは創作なら、どんな内容をどうアレンジしたのか?

コロナウィルスの影響で公開が延期されるなどの不運もあり、世間的にはいまいち盛り上がらなかった本作ですが、作品の元ネタについては中国で根強く支持された話が元になっていて、歴史好きには興味深い内容だったりします。

戦うヒロインであるムーラン(木蘭)はなぜ中国で語り継がれ、ディズニーで取り上げられるまでになったのか?

その成立を振り返ってゆきましょう。

 


木蘭の詩

男装の麗人である木蘭(ムーラン)――。

そのルーツは何なのか?

ずばり答えは、魏晋南北朝時代・北魏(4−6世紀)の楽府(がふ・漢詩の形式)でした。

早い話が「詩」です。

詩に登場する女性だったんですね。

では、その詩のルーツは?

というと、元々は鮮卑族の言葉だったものが、梁(6世紀)の時代に漢語に整えられ、現存する形にされたと推察されています。

ならば気になるのが「詩」そのものの内容でしょう。

本記事では、まず概要を把握するため、途中途中を省いて掲載させていただきます。

詩の省略は心苦しいところではありますが、かなりの長さとなる全文を記事末に掲載しておきましたのでご承知ください。

ではご覧ください。

木蘭辭(木蘭の詩)

喞喞復喞喞
ああつらい どうしてこんなにつらいのか

木蘭當戸織
木蘭は、戸のそばで機織りをしている

(中略)

昨夜見軍帖
昨日の夜、召集令状を見てしまった

可汗大點兵
王は、大軍を徴兵している

(中略)

從此替爺征
召集に応じて、年老いた父の身代わりになろう

(中略)

旦辭爺孃去
朝になったら両親に別れを告げて出立しよう

(中略)

但聞燕山胡騎鳴啾啾
ただ燕山に迫る異民族兵の声だけを聞く

萬里赴戎機
万里を超えて戦場へ赴き

關山度苦飛
関山を苦労して超えてゆく

(中略)

壯士十年歸
屈強な兵士も十年を経てやっと帰った

歸來見天子
やっと帰って天子に拝謁する

(中略)

可汗問所欲
王から望みを問われても

木蘭不用尚書郎
木蘭は高い地位を望まない

願馳千里足
願いはただ千里を超えて帰ること

送兒還故郷
この子をなんとしても故郷へ戻して欲しい

爺孃聞女來
年老いた両親は、娘の声をやっと聞いた

(中略)

脱我戰時袍
戦っていた時の軍装を脱いで

著我舊時裳
昔着ていたスカートを身につける

當窓理雲鬢
窓のそばで髪を綺麗に結って整えて

對鏡帖花黄
鏡に向かって化粧する

出門看火伴
門を出て戦友を迎えると

火伴皆驚忙
戦友は皆驚いてしまう

同行十二年
十二年も一緒にいたのに

不知木欄是女郎
木蘭が女だなんて知らなかった!

 


木蘭(ムーラン)は時代を超えて愛されて

魏晋南北朝の時代、北の女性は特に活発でした。

そんな元気な女性である木蘭。兵士として従軍し、帰宅して身支度を整えると美女だった!という、この詩は、多くの人々に愛されてゆきます。

中唐の大詩人・白楽天はこう詠みました。

「木蘭の花って、メイクをした感じがあるっていうかね。だって木蘭は、男装美少女だったじゃない!」

さらに時代が降ると、彼女の心を考えるようになります。

晩唐の杜牧は、木蘭を祀る「木蘭廟」を訪れ、こう考えております。

「木蘭は、男装して頑張って戦っているけどね。夢の中ではきっとお化粧することもあったと思うんだよなぁ……」

木蘭といえば、あの戦った女の子だ。そのことを称賛する気持ちが広がっていったことがわかります。

ここで戦う美少女にウットリとする彼らを、否定的な目で見るのは控えて欲しいところ。彼らには、木蘭に萌える大義名分がありました。ただのギャップ萌えではありません。

そのことを考える前に、魏晋南北朝のヒロイン像の例として、男装ヒロインストーリー『梁山泊と祝英台』のあらすじをご紹介させていただきます。

「梁山泊と祝英台」

東晋の時代、会稽郡上虞・祝家に英台という娘がいました。

どうしても勉学がしたいと願ったものの、女に学問は不要だとして許可を得られません。

そこで彼女は男装し、杭州に遊学へ出ました。

祝英台は、梁山伯という青年と出会い、意気投合。三年間学業をともにして、二人は大親友となりました。

しかし、彼女が故郷へ戻ると、本人の知らぬ間に馬文才という許嫁が用意されているではありませんか!

梁山伯は事実を知り、嘆きのあまり亡くなってしまいました。祝英台は婚礼の日、せめてもの別れを告げるため、梁山伯の墓に立ち寄ります。すると墓が開き、祝英台はそこへ向かってしまうのです。

驚きのあまり周囲が見ているとその墓からは、二羽の蝶々が飛んでゆきます。

結ばれなかった二人の魂が、蝶々になって飛んでいくのか。

人々はそう語り合ったのでした。

※二人を讃える芸術作品は数多く生まれました

 


「孝」という動機が重要

木蘭が愛されたのは、なぜなのか?

美女だから?

健気だから?

元気いっぱいだから?

彼女の場合、その動機が重要です。

彼女が戦う理由は、病弱な父に代わって従軍するというもの。中国の伝統である儒教道徳の真髄といえました。

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中国ではルールを破った理由が「孝」であれば、そのことそのものが称賛されます。

一例として、食べ物を親のために持ち帰ること。

呉の陸績は、袁術のもとで出されたミカンを持ち帰ろうとしました。袁術は咎めましたが、その動機が母への土産とするためだとわかると、かえって絶賛しました。

実在した人物ではありませんが『三国志演義』の貂蟬にも同様の話があります。義父・王允のために男たちを誘惑したため、彼女は「孝」の化身とし敬愛されてきたのです。

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これとは逆に「親の服喪中に薬を飲んだ」だけで、人格を貶されまくた陳寿という不幸な例も……。

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親孝行――そのことそのものが美しく、感動的だ!そんな考え方から、動機の段階で木蘭は極めて素晴らしいヒロインになり得たのでした。

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木蘭はどうして戦うのか? 中国共産党の悩み

では、映画のムーランはどうして戦うのか?

そこはディズニーだけに、おどろおどろしい邪悪な敵と戦っております。実写版では中国を代表する大女優・鞏俐(コン・リー)が魔女として出て来ます。

これはある意味、ディズニーであるからできるといえなくもありません。

史実での時代背景を考えてみたいと思います。

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