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【儒教】
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礼法が君子を作る
「俺の家臣も、儒教を学べばおとなしくなるんじゃね?」
劉邦には悩みがありました。
元々は威勢のいい兄ちゃんである劉邦と、それに付いてきた家臣たち。
堅苦しい秦の法律は廃止しており、彼らは昔の兄ちゃんノリで振る舞ってしまうのです。
特に酒が入る宴会の席では、
「俺のおかげで天下取れたようなもんやろー!」
「俺だって強かったぞおおお!!」
と暴れたり、叫んだり、剣をぶん回したり、ともかくマナーがひどい。
そこで劉邦は、陸賈ではなく叔孫通(しゅくそんとう)という儒家に声をかけます。
「なんつうかよ、俺らストリートから天下取ったじゃん? だから礼法(マナー)ってもんがなってねえの。あんまり小難しくなくていいんだけどよ、もうちっとあいつらに、行儀作法ってもんを教えてやってくれねえか」
「よござんす。私がしっかりと礼法を教えましょう。礼法が君子を作るのです」
とまぁ、かように儒教流マナーを広めることになったのです。
儒教は、戦乱の世には1ミリも役に立ちません。
しかし、天下が安定した後は、人心を安定させて礼儀を学ばせる思想として、大変有用なものでした。
それゆえ漢代の後も、中国の各王朝に受け継がれてゆくのです。
儒教の基礎中の基礎
それでは、儒教の考え方とはどのようなものでしょうか。
具体的に見て参りましょう。
「君子」をめざし「小人」にはならないようにしよう!
儒教で理想的な生き方とされたのが「君子」であり、その逆が「小人」です。身分ではなく、生き方に徳があるかどうかが判断基準となります
「仁」を持とう!
「仁」とは、人を思いやる心です。誠実で、思いやりを持つことを目指そうというものです
「孝」を忘れない!
「親孝行」のこと。自分の親への敬愛を忘れないということです
「礼」を保とう!
ただカタチだけ丁寧なふるまいをするのではなく、誠心誠意でもって相手に丁寧な態度を取ることを理想とします
「道」を歩もう!
「道」というのは、国家や社会が理想的な状態に保たれていることです。そんな理想社会の実現を目指しましょう
「文」を尊ぶ!
文化や文芸を大切にしましょう
「鬼神」を語らない!
「鬼」は幽霊のこと。幽霊のようなオカルトじみたことを語らない、惑わされないということです
「狂」:何かにハマってもいい!
この場合の「狂」は、「狂った」とか「狂人」という趣旨ではなく、情熱をもって何かに取り組むことを指します
いかがでしょう?
なんだか普通というか、そんなの当たり前じゃん!という項目が多いんですよね。
例えばオカルトに対する禁止なんて「君子ならオカルトじみたあやしいことは話すべきじゃないよ(子は怪力乱神を語らず)」という言い方です。
占い師やまじない師は追い払えとか、殺せとか、そういう物騒なことは言っていません。
儒教は、あまり極端なことは教えていないのです。
儒教には、確かに悪影響を及ぼした部分もありますが、そういう場合は大抵、
・運用を厳格化し過ぎ
とか、
・変な解釈をされた
とか、そういうことであって、前述の法家思想も教えそのものがマズかったワケではありません。
例えば「孝」という「親孝行」の思想そのものは、素晴らしいと誰もが感じるでしょう。
ただ、その気持ちを示すために、服喪期間が3年もあったら?
前近代の中国では、父母や祖父母と言った直系尊属が死亡した場合、25ヶ月間服喪せねばならない「丁憂」という制度がありました。
服喪制度は権力闘争にも利用され、【服喪期間を守らない】という名目で弾劾された政治家もいます。
こういうのは、どう見たって行き過ぎた運用。本末転倒です。
基本に立ち返りますと、儒教の経典というのは名言と人生のエッセンスに満ち溢れています。
たしかに「女子と小人とは養い難し」という考え方のように、現代人からすれば差別的な考え方もありますが、男尊女卑はどの文化や宗教にもあり、儒教だけを批判するのも筋違い。
時代に合わせて正すべき解釈を導入していけばよい話ではないでしょうか。
「儒教」が呪い云々は、こじつけでは?
儒教文化圏は中国と韓国だけではありません。
日本や台湾をはじめ、ベトナム、香港、マカオ等、東アジアの広い範囲において影響を与えています。
しかし、ここ数年「中国と韓国は儒教でおかしくなったけど、日本はそうではない」といったトンデモ理論を振りかざす書籍が話題になっています。
それって、中韓を攻撃するためだけの、あまりにご都合主義的な考え方ではないでしょうか。
我々の祖先は長い間、儒教を学んできました。
それが、現代の中韓を否定するためだけに持ち出されるなんて、【日本の歴史すら否定するような言葉】にも思えて、残念さが湧いてくるのです。
儒教は日本人にとって身近であり、根付いたものです。
名著もたくさんあり、生きていく上で役に立つ言葉も多々含まれています。
年末年始のゆっくりできる時間に、良質な儒教関連本を読み、教養と生き抜く智恵を身につけてみるのも良いかも知れません。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考文献】
井波律子『論語入門』(→amazon)