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【英国温泉街バース】
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バースの一日とは、ざっと以下の通りです。
◆午前六時起床。
◆午前九時頃まで、食堂やコンサートルームのあるポンプルームでくつろぐ。入浴してもよし。温泉を飲むのもあり。宿から椅子に乗ったまま運ばれて、そのまま入浴できるサービスも。専用の入浴衣を着たまま入る。
◆朝食までは、コーヒールームでロンドンから届く新聞を読む。
◆朝食は、ポンプルームでとる。
◆朝食後、教会で礼拝。
◆午後は自由行動。散歩、ショッピング、コーヒールーム、乗馬、馬車で観光、何でもあり。
◆早めのディナーのあとは、夕方の礼拝。
◆ポンプルームに戻り、リラックス。
◆夜は集会場でティータイム。
◆あとは午後十一時の就寝まで、観劇、舞踏会、賭博……何でもあり。
なんとも優雅ですねえ。
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夏目漱石も絶賛したオースティン作品の題材となる
そんなバースの街では、男女の垣根が低くなりました。
男女の混浴もあり(といってもこの時代は着衣)、舞踏会や観劇の場で男女が同席することもあり。恋の花咲く、出会いの街になったのです。
「未婚の男女があんなふうにイチャついて、間違いが起きたらどうするの」と、思う人もいるかもしれません。
そこは心配ご無用。
「バースの王」ナッシュの目が光る中、互いに自制しあい、あやまちを起こさないようにしていたのです。
恋愛は自由、でも行きすぎた行為はないという、安心できる出会いの場として、バースは機能していました。
1801年。
そんなバースの街に引っ越して来た若い女性がいました。
彼女の名はジェーン・オースティン。
オースティンは、バースに引っ越すという話を聞いた時、卒倒するほど衝撃を受けたそうです。
そんな彼女でしたが、バースでの生活を通して社交界男女の恋の駆け引きを、たっぷり観察する機会を得ます。
皮肉屋でウィットと文才に富んだオースティンは、そんな男女の駆け引きをおもしろおかしく小説に書くことにしました。
バースでの経験が、作家としての彼女のキャリアに大きな影響を与えたのです。
彼女の作品中で、恋の軽妙な駆け引きを繰り広げる男女は、バースのセレブが元になっているのでしょう。
オースティンはイギリスを代表する作家であり、イギリス人ならば必ず国語の時間に彼女の作品を読むことになります。
バースのセレブライフは、オースティンの作品を通して蘇り、現代に生きる人々にも影響を与えていると言えるでしょう。
ちなみに、私たち日本人が国語の教科書で読むことになる作家の夏目漱石。
彼はイギリス留学中の夏目漱石は、オースティンの作品を「写実の泰斗(たいと・最高権威)なり」と絶賛しています。
バースの男女を生き生きと描写したオースティンは、今では街のシンボルであり「ジェーン・オースティンセンター」があります。
さらに街では毎年「ジェーン・オースティン祭り」が開催されています。
いつしか「負傷軍人とオールドミスだけがいる場所」に……
そんなバースですが、オースティンの時代からほどなくして、衰退期に入ります。
ナポレオン戦争時代には「負傷軍人とオールドミスだけがいる場所」と呼ばれるほど、斜陽のリゾートになってしまいました。
この頃から「健康にいい水辺の観光地」は、海水浴場のあるブライトンになってしまったのです。
バースの客足は途絶え、かつての賑わいか過去のものとなりました。
第二次世界大戦中は、空襲により歴史ある建物も破壊されてしまいます。
20世紀後半には温泉施設もなくなってしまいました。
そんな状況が一変したのは、1987年にユネスコの世界遺産に指定されてからです。
街にはかつての建物が復元され、温泉施設もオープン。
歴史ある古代ローマ風大浴場もあれば、最新の温泉リゾートもある。
そんな魅力的な街になったのです。
古代ローマの時代から続く、歴史ある温泉街バース。
その楽しみ方は日本とはひと味ちがう魅力があります。
いつか訪ねてみたいものですね。
文:小檜山青
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【参考文献】
『路地裏の大英帝国』角山 栄 (編集), 川北 稔 (編集)(→amazon)