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【ネズミ捕獲長】
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ラリーの同僚たち
2012年、財務大臣オズボーンの家族であるキジ猫のフレイヤがラリーの同僚として着任。
生後まもなく行方不明になり、3年間放浪した経験を持つフレイヤは、ラリーにはないサバイバル能力があるとされ、期待の新鋭でした。
しかし彼女の野性味あふれる性質が仇となり、ラリーとの乱闘をパパラッチされる、首相官邸の外を放浪して交通事故に遭う、迷子になるといったアクシデントが相次ぎます。
彼女には都市生活はあわない――そう判断されるや、2014年には引退。現在は郊外で伸び伸びとした生活を送っています。
2016年、外務・英連邦省ネズミ捕獲長職が新設されました。
記念すべき初代は、タキシードを着用したかのように凛々しい黒白猫のパーマストンです。
大英帝国全盛期を象徴する第3代パーマストン子爵ヘンリー・ジョン・テンプル(1784-1865)から名付けられた彼は、その名に恥じぬ有能さを発揮します。
着任後1ヶ月も経たないうちに戦果をあげ、その高い任務遂行能力を証明。ネズミ取りだけではなく、パーマストンは物怖じしない積極性においても優れた資質を見せるのです。
外務省を訪れた各国大使との記念撮影にも快く応じるその社交性は、まさに模範的な外務省職員と言えるでしょう。
そんなパーマストンの欠点をあげるとすれば、ラリーとの確執でしょう。数度にわたる公務員同士の乱闘はパパラッチされた挙げ句、負傷や装備の損傷まで発生しました。
イギリス政府は両者の対立が激化しないよう配慮するとのことです。
パーマストンの後、大蔵省もネズミ捕獲長を新設。つややかな黒い毛皮が魅惑的な黒猫のグラッドストーンに、白羽の矢が立ちました。
ヴィクトリア朝後期を代表する政治家ウィリアム・ユワート・グラッドストン(1809—1898)がその名の由来です。
彼はラリー、パーマストンと同じく「バタシー・ドッグズ&キャッツ・ホーム」の出身。好奇心旺盛な彼は職場に馴染むとすぐに戦果をあげ、同僚たちから「冷血な殺し屋」と高い評価を受けました。
黒猫はかつて魔女の使いとされてきました。
SNS時代は写真うつりが悪いと敬遠されることもあるそうですが、グラッドストーンを見ればそんなことは全くの間違いだとわかるはずです。グラッドストーンの気品あふれる姿は高い人気を誇っています。
さらに12月、新たな四本脚の政府職員としてエヴィとオジーという母子が内閣府に着任しました。
他の同僚とは違い、「セリア・ハモンド・アニマル・トラスト」という保護団体出身です。
黒い毛皮にあごの白い毛が魅力的なエヴィは、女性初のイギリス政府事務次官イヴリン・シャープがその名の由来。黒く長めの毛を持つオジーは、公務員のガイドラインである「オズマザリー・ルール」を制定したエドワード・オズマザリーに由来するとのことです。
2024年現在、イギリス政府の中枢であるダウニング街には、合計5名のネズミ捕獲を任務とする公務員がいます。
人類と猫の歴史を再考すべき時かもしれない
武将JAPANであるにも関わらず、武将ではなく延々と猫の話をしてしまいました。
どこが歴史サイトか、ネコノミクスに便乗ってどういうことかと思われる読者の方もおられるでしょうが、ちょっとお待ちください。
そもそも歴史とは、人類だけが作り出すものでしょうか?
人類とともに暮らし、協力し合う動物たちもまた、歴史の脇役ではないでしょうか?
小さな猫といえども、激しい政治闘争が繰り返されるダウニング街が職場であるからには、彼らも歴史の証人であり、イギリス政府の魅力的なPR要員なのです。
ネズミ捕獲長官は時代の変化に対応しています。
ウィルバーフォースの時代にはテレビに出演し、知名度は飛躍的に高まりました。そして現在、ラリーとその同僚たちはSNSアカウントを使いこなし、人気を集めています。
まさに彼らは21世紀の有名人……もとい有名猫としても振る舞っているのです。
彼らはまた猫と人間の歴史を再考するヒントにもなります。
人類が猫を有益だと認めた理由は、その卓越したネズミ取りの才能があればこそ。長い間猫は貴重な穀物、書物、家屋、芸術品等、様々な財産を守ってきました。
しかし現在、戦艦に乗り込んだシップスキャット、ウイスキーの原料である大麦を守り抜いたウイスキーキャット等は衛生上の理由から飼育されなくなりました。
ネズミ捕獲長はそんな消えつつある伝統を今に伝えるだけではなく、重大な事実を人類に伝えています。
「ネズミ駆除の清掃業者を雇用すれば年間4000ポンド(およそ60万円)以上はかかる。そのうえ効果があるかどうかもわからない。猫を公務員として雇用すれば、その年俸は100ポンドに過ぎない(およそ15,000円)。しかも効果が見込める。猫を雇うのは何も可愛がりたいからではない……はるかに効率的なのだ」
人類は何のかんのと理由をつけてネズミ取り業務から猫を追い出しました。
現在では猫がネズミを捕らえたら「あらまあ、おやめなさい。ネズミさんがかわいそうだし、汚いでしょ!」としかり飛ばす飼い主もいるとか。
その選択は果たして正しかったのか?
考えさせられるものがあります。
こんな事例もあります。
◆全米一の「ネズミ都市」シカゴ、駆除に野良猫が大活躍(→link)
人類はもう一度歴史の原点に立ち返り、ネズミを駆除するには猫が最適であるということを思い出す時に来ているのかもしれません。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)