西郷像の犬

幕末・維新

上野の西郷さんが連れている“犬”の正体は?死の直前まで愛犬家だった西郷

西郷隆盛が人生を共にした大切なパートナーといえば?

3人の妻?

それとも藩主・島津斉彬か、盟友・大久保利通か、あるいは維新の志士たち全般か?

いずれも間違いではないでしょうが、さらにもう一つ答えを加えるなら“愛犬”を入れたいところです。

上野公園の有名な西郷隆盛像は、愛犬を連れています。

歴史にさほど興味のない方も、動物園でシャンシャンを見た帰りにその像を見れば『あぁ、西郷さんって犬好きだったんだなぁ』と思われることでしょう。

では、実際の西郷はどれほどの愛犬家だったのか?

明治31年(1898年)12月18日は西郷隆盛像の除幕式が行われた日。

史実における犬と西郷どんの関係を追ってみたいと思います。

 


肥大巨眼の男が、犬に鰻を食わせる

恰幅のよい、ギョロ目の男が、愛犬を何匹も連れて狩りをしていた――。

明治維新のあと、故郷・鹿児島に戻った西郷の目撃談として、そんな話が数多く残されています。

西郷は心から犬を愛していました。

名前がわかるだけでも、13匹を飼っていたとか。東京では数十匹を飼育していたとも言われています。

西郷は宿や店に行くと、大きな鍋や桶に、飯・鶏肉・魚・卵等をタップリと持ってこさせて、愛犬に食べさせていました。

餌のやり過ぎで肥満してしまい、猟犬としては役にたたなくなった犬もいたほどです。

残飯だけではなく、ときには鰻丼や鰻の蒲焼きも与えていたというから筋金入り。

注文した鰻丼を次から次へと犬に与えてしまい、品切れとなって自分は食べられなかったこともあったそうです。

犬に鰻を与えることに後ろめたさがあったのか。

そういう時は丼の下に大金がそっと置かれたことも……。

そっと隠して金を置くため、気づかないで食い逃げと勘違いして追いかける店主もいたそうです。

「犬に鰻もおかしな話だけど、素直に払えばいいのに」

そんなふうに思ってしまいますね。本人でも意識する度を超した愛犬家ぶりに照れくささがあったのかもしれません。

当時の人ですから仕方ないことではありますが、鰻の蒲焼きをそのまま犬に与えるのはよくありません。

専門家によると、タレを落とし、小骨を処理して、生のままではなく必ず加熱してから与えるべきとのこと。

栄養としては、犬にもよいとか。

 


名犬の噂を聞くと

愛犬に鰻丼を与えるのですら、ちょっとビックリな愛犬家ぶり。

そんな犬好きの西郷は、誰かが名犬を飼っていると知ると、何がなんでも欲しくなってしまう性格でもありました。

相手からすれば、天下の西郷に頼み込まれて犬を譲らないわけにもいきませんから、なかなかの困りもの。

名犬がいるとなると、矢も楯もたまらず飼い主に譲って欲しいと頼み込んでいたため、御礼の書状も多数残っています。

また、飼い主側が「おはんの犬を西郷サァが褒めやった」と人づてに聞いて、自主的に連れて来ることもあったそうです。

常に立派な犬を何頭も連れていた西郷。

どこで手に入れたのか?

というレベルではなく、自らも求め、そして他からも持ち込まれていたのが実情でした。

 


悲痛な犬の鳴き声

2013年大河ドラマ『八重の桜』で、山川浩が西郷隆盛と出くわす場面があります。

犬を探していると相手が言ったことから、山川は相手が西郷だと判断。

山川浩/wikipediaより引用

史実においても西郷は、西南戦争に犬を連れて来ました。

新政府軍に追い詰められて撤退するときも、犬を何匹も連れていたという目撃情報があります。

西郷自身の姿が見えない時でも、犬が四~五匹連れられていたことから、周囲の人は彼がいるのだとわかったそうです。

それだけ西郷と言えば犬という印象が強かったのでしょう。

しかし愛犬たちも、新政府軍に追い詰められ、軍の解散を西郷が決意した8月16日に解き放たれます。

西郷は陸軍大将の軍服を焼き捨て、犬を放したのです。

死の覚悟が伝わって来ますね。

西南戦争を描いた錦絵(中央が西郷)/wikipediaより引用

解き放つ前、目を潤ませながら愛犬の頭を撫でていた、という話も伝わっています。

よほど別れたくなかったのでしょう。私達も聞いているだけで涙を誘われる話であります。

二匹の犬も、主人の西郷を忘れられなかったようで。解き放たれた後も周辺をうろつき、悲痛な声でいつまでも吠え続け、その声を聞く人に涙させました。

一匹は警視隊巡査に捕らえられ、もう一匹は元の飼い主のところまで自力で戻ったそうです。

弟の西郷従道がこの犬をのちにもらい受けた説もあります。

西郷従道/wikipediaより引用

犬は三匹~四匹という説もあります。

一匹は捕らわれ、一匹は西郷を追いかけ、一匹は行方不明になった、とされていることもあります。

死を覚悟した西郷に放たれて、それでも慕い泣き続けた犬の気持ちを思うと、どうにも切なくなるばかりです。

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