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【アン女王】
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少しずつ世の中が良くなった……かも?
その他の政策や世情についても触れておきましょう。
アンは英国国教会に深く傾倒し、下賜金を与えていました。
さらに、国教会の税の1/10と王室の収入の一部を使って貧民救済を試みています。
これで民衆の人気を得るのだが、自らが多くの子供を失ったからこそ、こうしたいと思ったのかもしれませんね。
実は、イングランドではヘンリー8世の時代から困窮する庶民が増えていました。
![](https://storage.bushoojapan.com/wp-content/uploads/2017/12/90a4cdf33d2663cb4cb10781af966630.jpg)
ヘンリー8世/wikipediaより引用
輸出する羊毛を多く生産するための農地の囲い込み(畑→牧草地への転化)や、英国国教会成立によってそれまで貧民救済を行っていたカトリックの修道院が解体されてしまったためです。
それを補うために、地域ごとに貧民救済のための税が課され、それを元に貧民が働く施設も作られました。
……が、この施設は強制労働所とも呼ぶべきもので、待遇が極めて悪いところでした。
エリザベス1世の時代には通称「エリザベス救貧法」という法律も作られ、社会福祉の嚆矢となったものの、待遇改善にまでは至らなかったようです。
イングランドにおいてさらに社会福祉が推し進められていくのはアンの死後のことですが、アンは子供を多く失ったことで、より貧者や弱者に関心が向いたのかもしれませんね。
![](https://storage.bushoojapan.com/wp-content/uploads/2016/02/0e06e904a7de1e5bf01af8d0df4b5b6c.jpg)
アンとウィリアム王子(残念ながらこの王子も夭折)/wikipediaより引用
戦争で出費がかさんでいなければ、貧者・弱者救済に対してさらに積極的な策を講じたかもしれません。
文化史的にも、彼女の治世は「コーヒーハウス」が盛んになり、新たな社交場や商談の場として存在感を強めた時代でもあります。
現代ではイギリスといえば紅茶ですが、実はコーヒーのほうが先に普及していました。
コーヒーハウスは男性専用の社交場で、コーヒーはもちろん、タバコやチョコレートなどの嗜好品を楽しみながら、政治や社会に関する談義をしていたそうです。
当然そういった人々は裕福なわけで、彼らを相手にする保険業者も多く出入りするようになりました。
現代でも有名な保険会社「ロイズ・オブ・ロンドン」も、エドワード・ロイドという人が経営していたコーヒーハウスから始まったとされます。
エドワードの店に出入りしていた船主や荷主などが、彼の死後も商談ができる場所として維持すべく、お金を出し合ってコーヒーハウスを続けたのだとか。
どこで何が商売になるかわからないから面白いですよね。エドワードとしてはちょっと微妙な気分かもしれませんが。
こんな感じで、その後のイギリスの政治方針にとって嚆矢となった出来事がアンの時代にちょくちょくみられます。
紅茶のブレンド名に名を残す
前述の通り、アンは自らの子供を残さずに亡くなりました。1714年8月1日のことです。
女王に先立つ1714年6月に、王位継承者として定められていたソフィアも亡くなっていたため、彼女の長男であるハノーファー選帝侯ゲオルク・ルートヴィヒがイングランドに渡り、英語名「ジョージ1世」と名を改めて王位を継ぎました。
ここからハノーヴァー朝が始まり、途中でウィンザー朝と名前を変えて現代に続いています。
日本ではあまり知名度の高くないアン女王ですが、イギリスの老舗百貨店フォートナム・アンド・メイソンがアンの治世中に創業したことを記念して、彼女の名を冠したブレンドを作っています。
◆FORTNUM & MASON(→link)
また、晩年にブランデーを愛したことから「ブランデー・ナン」という愛称もつきました。
前述のコーヒーハウスの件も合わせて考えると、不思議と飲み物に縁のある女王といえるかもしれませんね。
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長月 七紀・記
【参考】
『物語 イギリスの歴史(下) 清教徒・名誉革命からエリザベス2世まで (中公新書)』(→amazon)
世界大百科事典
日本大百科全書(ニッポニカ)