Theかぶきもの前田慶次は二人いた?だがそれがいい!

原哲夫のマンガ「花の慶次」(とその原作・隆慶一郎の「一夢庵風流記」)で、かぶきものの前田慶次に惚れ込んだ人は多数いるだろう。一方で、大河ドラマ「利家とまつ」でミッチー(及川光博)が演じたおねぇな慶次を好きな人も、、、いるかもしれない。
本来は前田家をつぐはずなのに加賀藩祖利家が父を追いやったために大名にはなれなかった、もしくはあえてならなかった悲運ながら、それを気にせずひょうひょうと生きた魅力的な戦国武将であることは間違いない。

ただ、歴史的にその実像は?というと、利家を冷水風呂に入れたことなどは後世に作られた逸話である可能性が指摘されている。
ところが、こうした破天荒な生き様でのおもしろさではなく、そもそも「慶次は2人いた」という興味深い説がある。
初代の前田慶次と2代目の前田慶次がいたというのだ。

歴史研究者の外川淳さんが『新説 前田慶次』(新人物往来社)で提示している。

比類なき武将として知られるのは、東北での関ヶ原合戦と呼ばれる「長谷堂合戦」での上杉軍に属しての大活躍だが、このときの慶次は68歳となる。だが、若い2代目慶次だったらありうる。

さらに慶次が死んだ場所は、上杉家の米沢(山形県)と大和(奈良県)の二つの説があるのだが、これも2人いるとすれば謎ではなくなる。信長軍の有能な部下であった滝川一益の弟説とおいっ子説(滝川家から前田家に養子に出された)の2つもあるが、これもまた2世代と考えれば不思議ではない。

こうした例は特殊でなく、伊達政宗の有能な部下である片倉小十郎も、政宗の兄貴役でもあった景綱と、大坂の陣で活躍した息子の重長がいずれも小十郎を名乗っている。鉄砲の達人の雑賀孫一(さいかまごいち)も信長と敵対した孫一と関ヶ原のときに伏見城攻防戦で西軍として活躍した孫一は別人物であることが分かっている。

どうも初代の慶次は文化面に秀でた「ひょうげもの」な文化人で、2代目慶次が体力武力ともにあった「かぶきもの」な武将であった可能性がありそうだ。

ただし、そもそも慶次の存在を1次資料で証明できるのは、外川さんの調べでは以下の3点しかない。

1)天正13年(1585)8月17日に前田利家が能登半島の七尾城を守る関係者にあてた書状に「慶二」とあること。
2)慶長3年頃(1598)に上杉家に1000石で士官した。
3)慶長6年(1601年)に京都の伏見から米沢までの旅した。

しかも、3点目は有名な「前田慶次郎道中日記」の記録に基づいているのだが、実のところ日記の筆者は自分の名を「前田慶次郎」ではなく「啓二郎」としか書いておらず、前田姓かどうかもはっきりしない。この日記自体は本物だが、発見されたのは昭和になってからで、骨董商が米沢出身の歴史家に売ったことで世に出たという、ちょっと怪しい来歴なのだ。骨董商がすでに有名だった慶次郎の名を利用して、米沢出身者の触手が動くように、日記を入れる箱に「前田慶次郎道中日記」と書いたのではないかという疑問が残るのである。

ぶっちゃけ、どんな人物だか皆目わからない。こまかい詮索はしてもきりがないということで、開き直ってかぶきもので破天荒な英雄としてフィクションを楽しむのが吉と言えるだろう。
前田慶次なら「俺が二人? だがそれがいい」と言ってくれるに違いない。

慶次の名せりふといえばこの「だがそれがいい」(原哲夫「花の慶次」より引用)

慶次の名せりふといえばこの「だがそれがいい」(原哲夫「花の慶次」より引用)

川和二十六・記

トップ画像は富永商太・絵

参考文献 外川淳『新説前田慶次』(新人物往来社)

隆慶一郎の「一夢庵風流記」(キンドル版)
B0099FLF56

隆慶一郎の「一夢庵風流記」(文庫)

原哲夫「花の慶次」(全巻)


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コメント

    • 匿名
    • 2015年 3月 30日

    片倉家はただ当主が代々小十郎と名乗るだけだから。景綱と重長はもちろん別人でしょう。親子ですし。誰でも知ってると思うけどさ。

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