「仙台真田氏」をご存知ですか。
大坂冬の陣で大活躍した真田信繁(真田幸村)が、己の死の直前、密かに脱出させた子供達により、東北・仙台で興された家――。
それが仙台真田氏です。
いかにも隆慶一郎や山田風太郎の小説と思われそうですが、さにあらず。史実であります。
真田氏と言えば、幸村のお兄さんで徳川方についた信幸(真田信之)の信濃松代藩が有名でしょう。
それと区別するため、幸村の子孫は居住地の藩名をとって仙台真田氏と呼ばれる訳です。
では、幸村はいかにして仙台で真田の血を繋いだのか?
今回は、大坂夏の陣の最中に死を覚悟した幸村が、大坂城から幼い我が子達を脱出させて片倉重綱(片倉重長)に託し、阿梅姫の血筋により仙台真田氏を興すまでの経緯を振り返ってみたいと思います。
※「真田幸村」そのものの生涯については以下の記事へ。
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阿梅姫と片倉重綱 そして幸村が大坂で繋がる
時は慶長20年(1615)の5月、場所は大坂城外の道明寺。
そう、大坂夏の陣です。
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豊臣秀吉が建設し、冬の陣においては敵にも味方にも天下の名城と讃えられた大坂城が、防衛の要であった二の丸、三の丸の壕を埋め立てられ裸城同然の無残な姿を晒しています。
日本一の堅城と言われた大坂城も、こうなっては野戦にて雌雄を決するのみ。
豊臣方10万、徳川方20万とも言われる日本史上例を見ない大規模な戦が、再び始まろうとしていました。
戦況が一気に激しくなったのは5月5日。
大坂方でその人ありと聞こえた勇将・後藤又兵衛基次が手勢を率いて猛進、激しい戦いの末に徳川方の重要拠点であった小松山を占拠した事から、夏の陣最大の激戦【道明寺の戦い】が始まります。
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勝ちの決まった戦に徳川への義理で出陣してきた諸大名と違い、この後藤又兵衛をはじめとした大坂方の諸将にとって、この戦はシリアスそのもの。
豊臣恩顧でありながら徳川に付いた裏切者達への復讐のチャンスであり、少ない兵で大軍に斬り込み世に名を残す絶好の、そして最後の機会でもありました。
混乱だらけの豊臣方で冷静だった幸村
徳川方は譜代の家臣を従える大名揃い。
対して豊臣方は、数で劣る上にろくに連携も取れない浪人ばかり。
さらに指揮を執るのは戦争経験のない淀の方と豊臣秀頼とあってはもはや敗色は濃厚であり、この上は自らの命を賭けて一か八かの勝負に出るよりないと、それぞれが悲壮な決意を固めたのでしょう、
もともと豊臣方には、味方と連携を取ろうとする気持ちが薄かったようです。
もう少し彼らに協力する気持ちがあればと惜しく思わざるを得ませんが、しかし、この頃の大坂方上層部のダメっぷりを考えると、思わず絶望して敵に突っ込みたくなる気持ちも分かります、うん。
さて、このような混乱を極める大坂方にあって、一人冷静に戦況を分析し、死を覚悟しながらも決して勝利を諦めない男がいました。
「日本一の兵」こと真田幸村です。
彼は慎重であっても臆病ではなく、勇猛であっても蛮勇を振るわず。
寡兵で大軍の猛攻に耐え、徳川本陣に向けて壮絶な突撃を敢行すること三度。
終いには、眼前の松平忠直隊を二つに裂き、旗本勢も蹴散らして敵本陣にまで到達しました。
大将首である家康こそ討ち取ることはできなかった。
されど、並の人間には到底達することのできない武人の境地。
彼の日本一の兵たる所以は、その知勇もさることながら、どんな切羽詰まった状況にあっても決して目的を諦めない、冷静沈着な人格そのものにあると言えるでしょう。
大坂城に残る阿梅姫ら、子供たちだけが気掛かり
そんな知勇兼備の将幸村にも一つだけ気懸かりな事がありました。
大坂城内に置いてある彼の子供達の事です。
物心ついた時にはすでに九度山に幽閉され、生活が困窮していく中、ただ耐えるより他に選択肢のない人生を送ってきた幼い子供たち。
このまま大坂城が落城すれば、父の敗北に連座して死罪となるか、良くても僧侶にされた上で再びどこかの寺に幽閉され、一生を終えるしかありません。
幸村も人の子の親、胸が痛んだ事でしょう。
長男で弱冠14歳の真田大助幸昌は、武家の嫡男として生まれた定めに従い、父と共にここで討ち死にして果てる事が決まっています。
しかし、他のきょうだい達はなんとか生き延びて貰いたい。
そして、できることならば、いつの日か真田の名を復興してもらいたい。
自ら亡き後、苛烈を極めるであろう豊臣の残党狩りをかい潜り、なんとか子供達を安全な所へ逃がす方策がないものか。
思案する幸村の眼前に、運命の戦場――後藤又兵衛が一人奮戦する小松山が見えてきたのでした。
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