中国史のBLブロマンスイケメン

『三国志 Secret of Three Kingdoms』/amazonより引用

歴史ドラマ映画レビュー

中国史のBL事情ってどうなのよ?イケメン・ブロマンスと併せて真面目に考察

2024/06/02

2020年代は文化面におけるアジアの存在感が世界でより意識されることになるのでしょう。

中国製のアプリも増えています。

そして2022年6月16日には、中国で大ヒットして社会現象にもなったアプリの日本版『水都百景録』がリリースされました。

このアプリの事前登録特典は……

・中国史上唯一の女帝・武則天

・潘安

武則天は世界史で習うしドラマもあるけれど、潘安って誰?

なんと中国史上最高のイケメンです。「潘又安」(潘安の再来)というイケメンを指す言葉もあったほど。

こうしたアプリは、映像作品のファンも狙っています。

映像作品では『愛の不時着』や『梨泰院クラス』が人気を博し、ビルボード1位を獲得したBTSに至っては世界クラスで大ブレイク!

日本でもこうした第3次韓流ブームが歓迎される最中、ジワジワと勢力を伸ばしているのが華流ドラマ(中国語圏ドラマ)です。

『陳情令』がAmazonランキングの海外ドラマでトップを獲得しました。

 

秋にはNHK BSプレミアムで『コウラン伝 始皇帝の母』が放送され始めました。

さらには日本発の中国史邦画『キングダム』や『新解釈三国志』などがあり、なんとなーく気になっている方もおられるでしょう。

 

「『陳情令』は好評よの」

「ククッ、二番煎じの目敏さに定評のある中国では、もはやBLドラマが群雄割拠よ……」

「なんと!」

「共産党が禁止令を出したとかなんとか言う者もおるが、かの国の禁令はいたちごっこが基本。ますます伸びる」

「つまりは華流BLがブームの予感とな?」

「左様」

「しかし、美男美女でキラキラしているウェブ記事や関連書籍で、歴史的なBLについては語っておらんようだが」

「そう、そこが問題よ」

と、突然、妙な会話をぶっこんでしまい申し訳ありませんが、今、彼の国では華流BL・イケメンブームとも言える動きがキテいます。

いや、正確に申しますと、そんな一過性のものでもなく、中国史を紐解けば、BL・ブロマンスが頻繁に取り扱われてきたものなのです。

一体こいつは何を言ってるんだ?と思われることは百も承知で考察してみたい。

本当に中国史でBLはアリなのか?

真面目に進めていきましょう。

【TOP画像】
『三国志 Secret of Three Kingdoms』(→amazon

 


『陳情令』もBLかもしれないが『三国志』にもあった

華流が燃え始めた2020年秋。

そんな中でも注目のドラマが『三国志 Secret of Three Kingdoms』です。

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美男美女まみれで『三国志』の話なのに、劉備も孫権も出てこないばかりか、主役はなんと献帝の双子の弟!

本国放送からほどなくしての配信で、日本で今最も熱い『三国志』です。

 

しかも、これは『陳情令』を先取りするBLではないかと思われる作品です。

献帝と入れ替わった劉平と、そんな劉平を弟のように思う司馬懿。そんな二人の関係性で、漢、魏、そして晋への王朝交代を描く――こうまとめると無茶苦茶としか思えないのですが、極めてレベルが高いのですから恐ろしい。

もう、曹操が劉備に向けて語った、

「天下の英雄は、君と余だ!」

という言葉すら愛があるように思えてしまい……作り手もそのあたりは理解しているのでしょう。

劇中で常に郭嘉を推してくる満寵が「郭❤︎嘉」ハチマキをつけるコマーシャルまで作られるほど――といったファントークは横に置き、本稿では歴史的な考察に取り組んでみたいと思います。

中国史でBLはありなのか?

ジャーンジャーンジャーン!

中国史でBL。しかも『三国志』ものといえば、日本でもそういう扱いの作品はあります。

代表的なものとしては

・江森備『私説三国志 天の華・地の風』(→amazon

・藤水名子『赤壁の宴』(→amazon

等ですね。

そもそも、古典的な名作である吉川英治の『三国志』ですら「恋の曹操」(※関羽に恋をして引き留めようとする場面、3巻収録)という章題を使う始末。

横光版も、いろいろな意味で熱いものでした。

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関羽に恋焦がれる曹操は、本場の映画でもそういう描かれ方ですので、もう仕方ありません。

いわば公式が最大手です。

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ある意味手遅れのような気もしますが、あえて歴史と文学史として、この点を考えてみましょう。

 


「断袖分桃」――それは禁断の愛

同性愛とは、国と地域、文化、宗教によってかなり扱いが異なります。

キリスト教圏、イスラム教圏等では重罰の対象。

一方、儒教圏としてまとめられる東アジア(日本・中国大陸・朝鮮半島)はどうでしょうか。

絶対禁止ではないものの、奨励されるかどうかは異なります。

日本だけとってみても、江戸時代は藩によってかなり異なりました。古代ギリシャ並に盛んだとされる薩摩藩もあれば、禁止令があった藩もあるのです。

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まとめますと東アジア圏では一部をのぞき、同性愛は「トラブルを引き起こす困ったもの」扱いでした(女性の同性愛につきましては割愛)。

なまじ男を寵愛するとなると、政治権力を与えることにもなりかねない。

腕力が強いだけに、深刻なトラブルを引き起こす。

そもそも、子孫繁栄に繋がらないことにエネルギーを使うのはどうなのか?

そんなマイナス評価がくだされるんですね。

暗愚とされる人物には同性愛傾向があったという誇張もされたりします。日本での典型例は蘆名盛隆でしょう。

困ったもんなんですよ、主君が美少年に夢中になるとね……。

中国史における男性同性愛をあらわす言葉とて、ボヤキ混じりの有名なものがあります。

【断袖分桃】です。

◆断袖(=袖を切る)

前漢・哀帝は、寵愛する董賢と昼寝していて目を覚ましました。すると董賢が自分の袖の上で寝ているじゃありませんか。

「もぅ……でも起こせない❤︎」

そう思い、袖を切ったのです。典型的な、主人による寵愛ですね。

董賢は皇帝の覚えめでたく、どんどん出世。哀帝のあとは王莽が王朝を簒奪します。

こういう私情によるしょうもない政治の乱れを起こすこととして「BL、ダメゼッタイ!」というニュアンスがあります。

◆分桃(中国語・日本では「余桃」を使うことが多い)

衛の霊公は、弥子瑕(びしか)という美少年を寵愛していました。二人で果樹園を散歩していたとき、こんなやりとりが……。

「ねえダーリン、この桃おいしいよ。あげる」

「弥子瑕たん……ありがと〜!」

けれども、霊公の寵愛は薄れてしまいます。

そしてこうなった。

「弥子瑕、お前さあ、主君に食べかけの余った桃食わせるってどういうこと? 処罰するから」

この故事を引く『韓非子』では、主君の寵愛は薄れたら危険だという戒めとしても用いられます。

BLが悪いというよりも、君主や家臣としての心得を説いていると言えなくもありません。そこには戒めのニュアンスを感じます。

それにこのカップリングは果たして心の底から愛し合っていると言えるのかどうか?

利害関係ではないか?

そういう関係性はどうなのか?

もっとソウルフルな関係性はないのか?

そう思ったりしませんか。

そこで考えたいのが【ブロマンス】です。

ブロマンス(英語: Bromance)とは、2人もしくはそれ以上の人数の男性同士の近しい関係のこと。

性的な関わりはないものの、ホモソーシャルな親密さの一種とされる。

Wikipediaより

 

中国史はブロマンスに溢れている

歴史上でBLとなると、真面目な本でもカップリング扱いされている人物もいます。

ヨーロッパ史でのBLビッグカップルといえば、英仏王の二人でしょう。イギリスのリチャード1世と、フランスのフィリップ2世です。

映画やドラマ化もされた名作劇『冬のライオン』は、この二人がお付き合いをしていたという設定で話が進んでゆきます。

無根拠というわけでもありません。

この二人は同じベッドで眠り、一緒に食事をするほど仲が良かったという記録があります。

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この二人の話に触れたことは、もちろん理由があります。

というのも「同じベッドで寝たらカップリングが成立する」となると、中国史はとてつもないことになってしまいます。

親愛の証として、同性が同じ寝台に眠り、語り合う――それは大いににアリでした。

劉備、関羽、張飛の桃園三兄弟が代表例ですね。

もうひとつ典型例をあげましょう。

明代、同い年で大親友同士であった文徴明が、唐寅に会えない切なさを詠んだものです。

文徴明

『月下独坐有懐伯虎』
月下独(ひと)り坐し伯虎を懐(おも)う有り

月の下でひとりぼっち、伯虎のことを考えてる

経月思君会未能
経月(けいげつ)君を思うも会すること未(いま)だ能わず

何ヶ月もきみのことを思っているのに、会えないんだね

空牀想見擁青綾
空牀 見(あ)わんことを想(おも)いて 青綾(せいりょう)を擁す

空っぽのベッドを見ていると会いたくて胸がキュンってなる、青い絹のお布団抱きしめちゃう

若非縦酒応成病
若し酒を縦(ほしいまま)に非ざれば 応(まさ)に病を成すべし

お酒飲みすぎちゃったの? それとも病気?

除却梳頭即是僧
梳頭(そとう)除却(じょきゃく)すれば 即ち是(こ)れ僧なり

髪の毛さえ剃っちゃえば、きみはまるで出家しちゃったみたい……それくらい浮世離れしてるもん

友道如斯誰汝念
友道斯(か)くの如く 誰か汝(なんじ)を念(おも)わん

こんなに友達としてきみのことを考えている奴、いないと思う!

才名自古得人憎
才名 古(いにしえ)自(よ)り 人の憎しみを得るなり

才能ある人って、周囲から憎まれるって昔から言うもんね

夜斎対月無由共
夜斎 月に対するも 共にする由(よ)し無し

書斎で月を見ていても、ぼっちだと切ないだけだよぅ

欲賦幽懐思不勝
幽懐を賦(ふ)さんと欲するも思いに勝(た)えず

この切なさを大長編ポエムにしたいけど、つらすぎてもう無理……

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士は己を知る者の為に死す――そんな言葉も熱く語られる中国の男たち。

この言葉のセットとなるのは、こうです。

女は己を説ぶ者のために容つくる――要するに、女が化粧して相手の気を引くように、男たちは命懸けになるということです。

もうこれは、ブロマンスとしても特に問題はないと思えるほど、熱い展開。

中国史は、基本的にブロマンスまみれだということです。

 


道教――後漢末からの新潮流

いや、それはそういう意味じゃないから。そんな強引なことを言われても困る……そういう困惑も想像はつきます。

そこでここはもう一度『三国志』の時代背景を冷静に考えてみましょう。

『三国志』もののオープニングを飾るビッグイベントといえば【黄巾の乱】です。

張角・張宝・張梁の三兄弟は、なんだか怪しげな黄色い頭巾をつけた人になっていて、フィクションではどうしたって、オカルトじみています。

ただ……彼らの掲げた老荘思想、そして道教とは、別にそこまで邪悪極まりないものでもない。ここがややこしい点なのです。

黄巾の乱は、後漢に反抗を見せたため、曹操、孫堅、劉備らが討伐をはかりながら根絶はされておりません。

曹操は青州黄巾党を配下に加えております。教えそのものは、必ずしも危険とはされなかったのです。

黄巾の乱を率いた張角は、道教の祖とされます。

儒教に対するカウンターでもある老荘思想を元とした道教は、中国において根付きました。

時代による盛衰はあるものの、時代が下ると神秘的なものとして尊重されます。『三国志演義』において東南の風を呼ぶ諸葛亮は、道士のポーズを取るようになっています。

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フィクションでも道士、道姑(女性の道士)はおなじみ。

日本でも、キョンシー退治する霊幻道士はよく知られていますね。

 

では道教の中身とは?

あまり言及されないものの、見逃せない動きもあります。

黄巾の乱は、後漢の政治腐敗、寒冷化する気候に対応できないことへの不満がありました。

彼らは批判の矛先を、儒教思想にも向けます。

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祖先を崇拝し、家の維持を第一に考える――そんな儒教に対してカウンターを考えてゆきたい。それは房中術にも及びました。

子孫の繁栄も大事とはいえ、それよりも自分らしい生き方をしたい。ありのままを探し求めたい!……ゆえに、子孫繁栄とは関係ない房中術を模索する。そんな考えがあったのです。

道教と房中術の関係は、なまじ話題が話題だけに語られにくい。『三国志』解説サイトだろうと、書籍だろうと、そこはあまり深くは触れませんね。

レイティングがあるため本稿でも省略させていただきますので、興味のある方は、各自探ってみてください。

読みやすい小説としては、山田風太郎『妖異金瓶梅』には中国伝統の房中術が登場しています。忍法帖にも出てきます。

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魏晋南北朝――それはブロマンス模索時代

愛を、子孫繁栄以外にも求めたっていい。

友情に、特別な何かがあってもいい。

なんだそのBL愛好家のような発想は……という考え方が魏晋南北朝にはありました。実はこの時代、歴史上屈指のBL愛好家女性が登場しているのです。

『世説新語』にはこんな逸話があります。

この時代、ディベートである「清談」が流行し、儒教ではなく老荘思想を掲げるロックな男たちがいました。

【竹林の七賢】です。

竹林で琴を弾いて優雅にトークをしている枯れたおじさんたち……ではありません。

政治的に処断をされた者もいれば、吐血するほど激しい情熱の持ち主もいる。脱法ドラッグじみたものをキメて、なかなか無茶もやらかしております。

乱世で自分らしく生きることを追い求めた、ソウルフルな人々でした。実際には七人でグループ活動していたわけではなく、後世セットにされたようです。

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そんな七人で、最も人気のあるコンビが

・阮籍(げんせき)
・嵆康(けいこう)

でした。

二人の友情に感激した七賢の一人・山濤(さんとう)は妻の韓氏に「あいつらの友情はともかくすごいんだ」と語りました。

そして韓氏は何かを悟ります。彼らの友情は、普通とは違うらしい。

「いやあ、そうだね、あの二人こそ、友とすべき人だと思うんだ!」

「そう言われても、私は確認しないと納得できない……」

韓氏は教養を見せます。

かつて僖負羈(きふき)の妻は、曹に亡命し、後に晋文公となる重耳の入浴をのぞきました。

なぜそんなことをしたのか?

重耳の肋骨がおもしろい形をしていると知った曹の君子が確かめたかったんですね。おおっぴらにのぞくわけにもいかないので、家臣の妻がチェックした。

私もそのチェック方法を見習いたいと訴えたのです。

何が言いたいのか?

要するに、脱衣した二人を見なければ、“特別な友情”が確認できないという意味です。BL愛好家として半端ないものがあります。

そこで山夫妻は二人を自宅に泊らせ、酒とごちそうでおもてなし。阮籍と嵆康の部屋を覗いた韓夫人は、夜明けまでじっくりチェックしました。

山濤は妻に感想を聞きます。

「どうだった、あの二人?」

「あの二人はマジで尊い、推せる。あなたの才能より上だわ……あなたの友になったのは、あなたをもっと鍛えるためだと思う!」

「やっぱりわかる? 俺もそう思うんだ。あの二人は尊い、俺なんか及ばないよ!」

かくして韓氏は大満足しました。

この逸話は『世説新語』でも「賢媛」(=賢い女性)に収録されています。韓氏こそ、レジェンド級のBL愛好者でしょう。

さてこの阮籍と嵆康について考えてみますと……。

なぜ彼らは“特別な友情”を結ばねばならないのか? そして周囲は、なぜそんな二人を絶賛するのか?

ただの趣味ではありません。前述の通り、後漢が傾いたあと、人々は儒教以外の価値観を模索し始めたことは前述の通りです。

儒教では、性愛とはあくまで男女間のもの。そのことで子孫を繋ぎ、先祖の祭祀を絶やさないことが重視されました。

男性は陽、女性な陰。陰陽が互いを補うことこそ、健康にもよいとされていたのです。

この理でいくと、男性同士の同性愛は儒教的に正しくありません。

だからこそ、ポスト後漢の時代には「それって最高にクールじゃないか!」となってゆく。竹林の七賢のように、老荘思想を愛する時代の反逆者たちは、敢えてクールな性愛を求めました。

彼らなりの新世界と価値観を模索していたのです。

だからこそ、BLを求める男性同士が「すごく特別で素晴らしい!」とされ、その確認をした女性は「賢媛」と称賛されたということになります。

つまり、乱世に突入してゆく後漢の人物が、こう思ってもおかしくはないのです。

「俺はありのままに生きたいんだ……」

「もう、今までの価値観だけではよくない。俺たち二人で、新しい世を見つけよう!」

「……あの二人の友情は尊い。マジ推せる!」

いかがでしょうか。時代考証的に正しい、それが当時ににおけるBL、ブロマンスの世界です。

 

魏晋南北朝はイケメン正義でもあった

『三国志』に慣れ親しんでいると、特に違和感がないかもしれません。

けれども、他の時代と比較すると特徴があります。

それは男性の容姿に関する言及が多いこと。あの人はイケメン、この人はいまいち。そういうことが頻繁に言われます。

本来、儒教には人は外見より中身だという道徳観があったものです。女性だって、夫から「うちの妻は見た目がちょっとねえ」と言われると、こう反撃できました。

「私は教養もあるし、家事もできるし、あなたを立ててもいる。それなのにあなたはルックスでしか女の価値がわからないんだ。へえ〜! つまんない男!」

そんな儒教が崩壊したのか。『三国志』の時代は男だろうと見た目でばんばんジャッジされる時代になったのです。

本人たちも認識していたのでしょう。孫策は自分と盟友・周瑜が美男子であることを認識していたと思われる言動をしています。

「橋家の姉妹は美人だけど、俺らイケメンコンビを夫にできたんだからいいよね!」

そう語る孫策は、自信たっぷりです。

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一方で、曹操は自分の見た目がイマイチだと自覚していたらしく、匈奴の使者相手にイケメン替え玉を使った話が『世説新語』に収録されています。

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そんな『三国志』英雄第一世代の子孫となると、さらにイケメン重視度があがってゆきます。

曹操の養子であった何晏(かあん)は、そんな時代の典型例でしょう。

中国史上でも珍しいメンズメイクが流行しており、何晏は白粉を持ち歩いていたともされます。手鏡で自分自身を映しては「ハァ……マジイケメン!」とうっとりしていたとか。

彼だけが特別でもなく、当時はこんな嘆きもあったとか。

「最近の若者は見た目ばかり気にしていかんな!」

こんなイケメン正義時代は、女性が男性の見た目を厳しくチェックしても許されていました。

そんな需要と供給が噛み合ったのか、当時は中国史最高の美男子がおりました。

周瑜ではありません。潘岳です。

親友の夏侯湛(夏侯淵の曾孫)もイケメンで「双璧」と呼ばれていたそうです。

古代中国文学では、イケメンのことをこう呼ぶことが定番です。

「マジイケメン、現代版潘安(※潘岳のこと、字が安仁)じゃね!」

◆古代中国美男四天王

・潘岳(はんがく、字・安仁、文学者、西晋、享年53)

・宋玉(そうぎょく、戦国、才能ある文学者、享年76)

・蘭陵王・高長恭(こうそんきょう、北斉、イケメン仮面王子、日本では一番知名度が高い、享年32)

・衛玠(えいかい、西晋、病弱儚い美青年、享年27)

なんと魏晋南北朝から三人もランクイン!

美女と比較しますと時代が偏っております。

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まさにイケメン時代ですね。

 

どうしてこの中で潘岳が頭ひとつ抜けているのか?

それは追っかけ伝説もあるのでしょう。

当時は女性もたくましく、男性は「本当に最近の女は、イベントだの推しだのチャラチャラしてダメだな!」と嘆いていたものです。

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女性たちは潘岳を出かけると、「ぎゃーーーーー!」と推しメンにざわつき、果物を車に投げ入れまくりました。そのせいで車が帰宅するころにはいっぱいになってしまう。

一方、文才があるのに顔がイケてないことで有名だった左思という人物は、「キメエんだよ!」とおばあちゃんたちに唾を吐かれまくったそうです。

ブロマンス最高、イケメン正義、女性はパワフルで追っかけができる。

まさしくBLに最適な時代でした。

 

誰かを愛することは、何かを尊ぶこと

もう言うことなしのようで、最後にもうひとつ、華流を鑑賞する上でのポイントに触れたいと思います。

かつてよく言われていた誤解として、こんなことがありました。

「東洋には、西洋のようにロマンスがない。恋愛がなく、ただ家族を維持するためだけに結ばれる」

一世紀前に当事者が自虐的に言うのであればまだしも、現代でそんなことを言うのは余計なお世話でしょう。

ヨーロッパの騎士道物語のように、騎士が貴婦人に愛を捧げるようなロマンスはないかもしれない。

それでも、東洋にだって恋愛をテーマにした作品は数多くありました。

キリスト教圏と異なる点としては、一夫多妻制を容認していることでしょう。

日本ならば『源氏物語』が代表です。

複数のヒロインがいるとなると、彼女たち個々人に個性や魅力だけではなく、概念や美徳も付与されます。

中国を代表する古典恋愛小説『紅楼夢』を考えてみますと……。

この物語のヒロイン論争は何世紀も盛り上がっています。

健康美と穏やかな性格を持つ、良妻賢母として理想的な薛宝釵(せつほうさ)か?

病弱で感受性豊か、浮き沈みが激しい。そばにいると疲れそうだけれど、儚げで純愛そのもののような林黛玉(りんたいぎょく)か?

妻にするなら薛宝釵だけど、理想の恋愛相手なら林黛玉だよね!

そんなことがずっと言われてきたものです。

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どんな相手を愛するか?

そこにはどうしたって重んじる価値観がある。そう比較できるのです。

現代の武侠ものでも、こうしたお約束は健在。

金庸の代表作『射鵰英雄伝』(しゃちょうえいゆうでん)には、主人公・郭靖(かくせい)の前に二人のヒロインが登場します。

チンギス・ハーンの娘であるコジンと、南宋で出会う黄蓉(こうよう)です。

黄蓉の方が圧倒的に出番が多く、迷う必要もないようですが、この選択肢には大きな要素があります。

コジンは元。黄蓉は南宋の象徴なのです。

郭靖がコジンと結ばれれば、チンギス・ハーンの娘婿として輝かしい将来が待ち受けています。

一方、南宋の黄蓉と結婚するということは、滅びゆく王朝のために戦うことを選ぶということを意味する。

郭靖は黄蓉への愛と、漢族としてのプライドを選んでいるのです。

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この『射鵰英雄伝』の続編である『神鵰俠侶』(しんちょうきょうりょ・日本語版は神鵰剣俠とも)では、主人公・楊過(ようか)が小龍女というヒロインと愛を貫きます。

小龍女は楊過の武芸の師匠であり、儒教規範では親のようなもの。タブーの愛なのです。

楊過は郭靖と黄蓉の娘を選ぶ選択肢もありながら、禁断の純愛を貫いて生きてゆきます。

ディズニー実写版『ムーラン』主演・劉亦菲の当たり役が、この小龍女でもあります。

中国語圏の女優にとって、この役を演じることは大きな夢。伝説のヒロインです。

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世間の見る目なんてどうでもいい。俺は、俺たちの愛を貫く――そんな楊過と小龍女のカップルは中国語圏で絶大な人気を誇ります。

愛する相手によって価値観を象徴することも、中国文学、そして華流ドラマのお約束です。

ちなみに『神鵰俠侶』主人公二人の愛は、『陳情令』の主人公二人にも大きな影響を与えていると指摘されます。

愛する相手が男女同士だろうが、同性同士だろうが、そこに愛と貫きたい価値観があるのであれば、それは美しいのです。

今、世界的にアジアのエンタメが注目を集めています。

その中にはブロマンスものもあります。

男性の中性的な美を愛でることが、斬新であると国境を超えて注目を集めているのです。

日本でもそんな作品は増えていますが、華流も熱い。そこには歴史的、文学的な根拠もあるから面白い。

ありのままにクールに愛を同性にも求め、イケメンが正義だった時代――。

話を盛ってない?

なんか嘘こいてない?

そう突っ込まれそうですが、史実なのです。

「『三国志』でBL? 何それ?」

そう突っ込まれても「史実です」と言い切れます。

何かと女好きにされる曹操にしたって、後世のフィクションのせいか、女がらみで失敗をするように思われがちですが、それはどうでしょうか。

彼は自作の詩では、ともかく賢い男子を求めてアピールしています。そういう情熱だと規定したところで、そう無理はありません。

最初に戻りましょう。

『三国志 Secret of Three Kingdoms』は考証的に正しい。

満寵がどれほどしつこく郭嘉を推していようが。

曹操が郭嘉を熱心に看病しようが。

荀彧が曹操に「もうあの頃の二人には戻れないんですよ!」と訴えようが。

司馬懿がスモークを焚きながら曹丕を出迎えようが。

それはそれで、ありなのです。そういう極めて高度なものだと思っていただいて結構です。


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【TOP画像】
『三国志 Secret of Three Kingdoms』(→amazon

【参考文献】
フーリック『古代中国の性生活』(→amazon
神塚淑子『道教思想10講』(→amazon
岡崎由美『漂泊のヒーロー―中国武侠小説への道』(→amazon

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小檜山青

東洋史専攻。歴史系のドラマ、映画は昔から好きで鑑賞本数が多い方と自認。最近は華流ドラマが気になっており、武侠ものが特に好き。 コーエーテクモゲース『信長の野望 大志』カレンダー、『三国志14』アートブック、2024年度版『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『覆流年』紹介記事執筆等。

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