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【中国史のBLブロマンス】
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明代、同い年で大親友同士であった文徴明が、唐寅に会えない切なさを詠んだものです。
文徴明
『月下独坐有懐伯虎』
月下独(ひと)り坐し伯虎を懐(おも)う有り
月の下でひとりぼっち、伯虎のことを考えてる
経月思君会未能
経月(けいげつ)君を思うも会すること未(いま)だ能わず
何ヶ月もきみのことを思っているのに、会えないんだね
空牀想見擁青綾
空牀 見(あ)わんことを想(おも)いて 青綾(せいりょう)を擁す
空っぽのベッドを見ていると会いたくて胸がキュンってなる、青い絹のお布団抱きしめちゃう
若非縦酒応成病
若し酒を縦(ほしいまま)に非ざれば 応(まさ)に病を成すべし
お酒飲みすぎちゃったの? それとも病気?
除却梳頭即是僧
梳頭(そとう)除却(じょきゃく)すれば 即ち是(こ)れ僧なり
髪の毛さえ剃っちゃえば、きみはまるで出家しちゃったみたい……それくらい浮世離れしてるもん
友道如斯誰汝念
友道斯(か)くの如く 誰か汝(なんじ)を念(おも)わん
こんなに友達としてきみのことを考えている奴、いないと思う!
才名自古得人憎
才名 古(いにしえ)自(よ)り 人の憎しみを得るなり
才能ある人って、周囲から憎まれるって昔から言うもんね
夜斎対月無由共
夜斎 月に対するも 共にする由(よ)し無し
書斎で月を見ていても、ぼっちだと切ないだけだよぅ
欲賦幽懐思不勝
幽懐を賦(ふ)さんと欲するも思いに勝(た)えず
この切なさを大長編ポエムにしたいけど、つらすぎてもう無理……
人生はエンジョイだ!文徴明&唐寅の個性派コンビは中国蘇州の人気者
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士は己を知る者の為に死す――そんな言葉も熱く語られる中国の男たち。
この言葉のセットとなるのは、こうです。
女は己を説ぶ者のために容つくる――要するに、女が化粧して相手の気を引くように、男たちは命懸けになるということです。
もうこれは、ブロマンスとしても特に問題はないと思えるほど、熱い展開。
中国史は、基本的にブロマンスまみれだということです。
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道教――後漢末からの新潮流
いや、それはそういう意味じゃないから。そんな強引なことを言われても困る……そういう困惑も想像はつきます。
そこでここはもう一度『三国志』の時代背景を冷静に考えてみましょう。
『三国志』もののオープニングを飾るビッグイベントといえば【黄巾の乱】です。
張角・張宝・張梁の三兄弟は、なんだか怪しげな黄色い頭巾をつけた人になっていて、フィクションではどうしたって、オカルトじみています。
ただ……彼らの掲げた老荘思想、そして道教とは、別にそこまで邪悪極まりないものでもない。ここがややこしい点なのです。
黄巾の乱は、後漢に反抗を見せたため、曹操、孫堅、劉備らが討伐をはかりながら根絶はされておりません。
曹操は青州黄巾党を配下に加えております。教えそのものは、必ずしも危険とはされなかったのです。
黄巾の乱を率いた張角は、道教の祖とされます。
儒教に対するカウンターでもある老荘思想を元とした道教は、中国において根付きました。
時代による盛衰はあるものの、時代が下ると神秘的なものとして尊重されます。『三国志演義』において東南の風を呼ぶ諸葛亮は、道士のポーズを取るようになっています。
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フィクションでも道士、道姑(女性の道士)はおなじみ。
日本でも、キョンシー退治する霊幻道士はよく知られていますね。
では道教の中身とは?
あまり言及されないものの、見逃せない動きもあります。
黄巾の乱は、後漢の政治腐敗、寒冷化する気候に対応できないことへの不満がありました。
彼らは批判の矛先を、儒教思想にも向けます。
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祖先を崇拝し、家の維持を第一に考える――そんな儒教に対してカウンターを考えてゆきたい。それは房中術にも及びました。
子孫の繁栄も大事とはいえ、それよりも自分らしい生き方をしたい。ありのままを探し求めたい!……ゆえに、子孫繁栄とは関係ない房中術を模索する。そんな考えがあったのです。
道教と房中術の関係は、なまじ話題が話題だけに語られにくい。『三国志』解説サイトだろうと、書籍だろうと、そこはあまり深くは触れませんね。
レイティングがあるため本稿でも省略させていただきますので、興味のある方は、各自探ってみてください。
読みやすい小説としては、山田風太郎『妖異金瓶梅』には中国伝統の房中術が登場しています。忍法帖にも出てきます。
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魏晋南北朝――それはブロマンス模索時代
愛を、子孫繁栄以外にも求めたっていい。
友情に、特別な何かがあってもいい。
なんだそのBL愛好家のような発想は……という考え方が魏晋南北朝にはありました。実はこの時代、歴史上屈指のBL愛好家女性が登場しているのです。
『世説新語』にはこんな逸話があります。
この時代、ディベートである「清談」が流行し、儒教ではなく老荘思想を掲げるロックな男たちがいました。
【竹林の七賢】です。
竹林で琴を弾いて優雅にトークをしている枯れたおじさんたち……ではありません。
政治的に処断をされた者もいれば、吐血するほど激しい情熱の持ち主もいる。脱法ドラッグじみたものをキメて、なかなか無茶もやらかしております。
乱世で自分らしく生きることを追い求めた、ソウルフルな人々でした。実際には七人でグループ活動していたわけではなく、後世セットにされたようです。
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そんな七人で、最も人気のあるコンビが
・阮籍(げんせき)
・嵆康(けいこう)
でした。
二人の友情に感激した七賢の一人・山濤(さんとう)は妻の韓氏に「あいつらの友情はともかくすごいんだ」と語りました。
そして韓氏は何かを悟ります。彼らの友情は、普通とは違うらしい。
「いやあ、そうだね、あの二人こそ、友とすべき人だと思うんだ!」
「そう言われても、私は確認しないと納得できない……」
韓氏は教養を見せます。
かつて僖負羈(きふき)の妻は、曹に亡命し、後に晋文公となる重耳の入浴をのぞきました。
なぜそんなことをしたのか?
重耳の肋骨がおもしろい形をしていると知った曹の君子が確かめたかったんですね。おおっぴらにのぞくわけにもいかないので、家臣の妻がチェックした。
私もそのチェック方法を見習いたいと訴えたのです。
何が言いたいのか?
要するに、脱衣した二人を見なければ、“特別な友情”が確認できないという意味です。BL愛好家として半端ないものがあります。
そこで山夫妻は二人を自宅に泊らせ、酒とごちそうでおもてなし。阮籍と嵆康の部屋を覗いた韓夫人は、夜明けまでじっくりチェックしました。
山濤は妻に感想を聞きます。
「どうだった、あの二人?」
「あの二人はマジで尊い、推せる。あなたの才能より上だわ……あなたの友になったのは、あなたをもっと鍛えるためだと思う!」
「やっぱりわかる? 俺もそう思うんだ。あの二人は尊い、俺なんか及ばないよ!」
かくして韓氏は大満足しました。
この逸話は『世説新語』でも「賢媛」(=賢い女性)に収録されています。韓氏こそ、レジェンド級のBL愛好者でしょう。
さてこの阮籍と嵆康について考えてみますと……。
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