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輝く少年たち、そしてキャスト
吉川晃司さんの信長と、緒形直人さんの秀吉は……よくもこんな絶妙なことをやったなとのたうち回りたくなるほど素晴らしい!
もう悔しくてくやしくてなりません!!
そして四少年とドラードを演じられた俳優たちも、
「彼らは世界に羽ばたいていくのだろうなぁ」
とため息をついてしまいます。
伊東マンショの野村周平さん。
彼のまなざしが忘れられないような、そんなメインビジュアルです。
この眼力こそ、彼を起用した理由だろうと思えます。
意志の強さがうかがえるまなざしは、本当に忘れられない、心をつかまれるものがあります。この目こそが、彼にもとめられているものです。
中浦ジュリアンの森永悠希さん。
彼の優しげなまなざしと、声音。本当にジュリアンは、優しさにあふれた少年です。
イメージ的に、史実としても、もっとも殉教者の清らかさがないといけない役。その役を果たしています!
原マルティノの井ノ脇海さん。
マルティノは難しい役のはずです。ラテン語から英語まで、彼は三カ国語でスラスラとセリフをいう必要がある。しかも、流暢でなければならない。それだけでも大変なはず。
しかも、マルティノはいついかなる時でも、知性あふれるふるまいが求められています。その高いハードルを飛び越えたのです。これぞ世界に羽ばたく逸材だ……!
緒形敦さん。
彼が大河ではなく、本作に出たということは、おそろしいことだと思うのです。
祖父(緒形拳さん)、父(緒形直人さん)に続いて、敦さんが大河に出たならば、どれほどフィーバーになるか想像がつくというもの。
そんな彼が、こちらを選んだ。これはおそろしいことです。
彼の血筋については、これ以上語りますまい。
ミゲルも、これまた難しい役。
彼は信仰心だけではなく、そこから目を背けるところを滲ませねばならない。しかも、それは彼の邪悪さゆえではなく、正義感も背後にあるのです。
ミゲルは正義感にあふれた人物です。その一方で、どこか時折暗い狂気をのぞかせる。こんな難しい演技を、彼はよくこなしているのです。
ドラードの佐野岳さん。
これも繊細で大変な役です。その血統ゆえに虐げられ、悲しい思いを味わってきた。汚いところも、きれいなところも見てきた。穏やかな性格なのに、時折激昂をにじませる演技は感動的です。
海外のキャストも、世界各地からよくぞこんな人たちを集めてきたものだと感動すらしてしまいます。
全員ミスキャストがいない。これまたスゴイことです!
宗教の歴史的な意義を問う
本作のおそろしいところ。
それは、宗教の存在意義というところまで踏み込んで来たところです。
本作の日本描写がどうこう言われておりますが、むしろ狙い澄ましてブスリと突き刺すのは【宗教そのもの】であります。
本作に描かれているカトリック描写は、本当に一番突かれたくないところを狙っている、そんな気迫を感じさせました。
・奴隷制度
・人種差別
・異端者惨殺
・海外侵略
本来の教えとはほど遠く、血を流し、人々を苦しめ、踏みつけにする。
そんな残酷な行為を止めるどころか、推奨してきた勢力こそが、カトリックであると本作は喝破しきっているのです。
問い続けることこそ祈りなのだ——。
どうしてあなたたちは、すぐに答えを出そうとするのだ——。
本作で示されるこの問いかけは、宗教の存在意義にも迫りかねない、そんなおそろしいものが含まれています。
世界にあるありとあらゆる疑問、不思議なこと。
統治者が民の不満を封じるために、信じ込ませたいこと。
そういうことへの答えとして、「神がそうしたからなのです」ということにしてしまえば、丸くおさまるのです。
異議を唱える人には「異端者め!」、「信仰心が足りない!」と言えばそれで終わり。
宗教というものは、疑問を氷解させて、問い続ける人の口塞ぎをする、そんな使い方もできます。
本作にはそんな宗教関係者や権力者が、東にも西にも、数多く出没します。
そうじゃないはずだ――そう思いませんか?
本作は、マンショ、信長、ヴァリヤーノ、法皇らの口を通してそう語りかけてくるかのようです。
この歴史、権力、宗教の問題は、四百年前のことではない。今も、同じことがあるはずです。
差別。自分と意見が異なる人を排除しようと躍起になること。知識を語る相手を憎み、罵倒すること。悪を黙認することが現実だという見方。
本作は、そういうことを放置せずに問いかけてみろと、そう語りかけてくるようです。
本作は、まさに戦国時代のようなドラマだと感じました。
火縄銃が伝わってきたとき。
カトリックを教えられたとき。
西から来たものを、東の日本人がアレンジして、独自のものを生み出した。
それが歴史です。
本作も、Amazonという西から来たものを、東の日本人がアレンジして、何か新しいものを造った。
そういうダイナミズムがあります。
大河のようで、大河ではない。
これは日本史のドラマか?
そうではなく、世界史の中の日本史を描いた作品であると思うのです。
一筋縄ではいかない。
何度も何度も、この作品は何なのかと考えてしまいます。
それこそが、本作を楽しむということ。そうなのかもしれません。
おそろしい作品が誕生してしまったものです。是非、あなたの目でお確かめください!
文:武者震之助
絵:小久ヒロ
【参考】
◆アマゾンプライムビデオ『MAGI』
◆公式サイト