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【ドラマ『大奥』感想レビュー第4回】
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実はなし崩し的な変革もあるのが、日本史
日本史の特徴として、なし崩し的に社会の仕組みが変わってしまうことがあると思います。
『鎌倉殿の13人』では、【承久の乱】で後鳥羽院を敗北させた北条義時が、武家政権を確立する様を描きました。
日本史はそういうものだと流しそうになりますが、他国と比べるとこの過程がおかしいんですね。
「どうして北条は天皇に為り変わらなかったのだろう?」
外国の歴史と比較して見るとこうなります。
キッパリと劇的に変えず、なし崩し的に大改革がジワジワ進む。
本音と建前の使い分けも限界がきて、ようやく社会が変わる。
そんなことが往々にしてあります。
この男女逆転版『大奥』もそうです。
江戸城に登ってきた大名の後継は、もはや半数が娘を息子と偽っている。それを謁見している家光だって、正体は、頭巾を被った稲葉正勝なのです。
正勝は「女子相続も認めてはどうか?」と切り出します。
百姓も商人も、武家以外は既にそうしている。これは何も男女逆転版大奥に限らず、婿養子による相続は日本ではよくありました。実は伝統的に女系が強いのが日本の歴史です。
その正勝の提案に、錯乱してしまうのが春日局です。
女が世の上に立つことを認めたら、戦国乱世に戻るではないか!と叫び、病に倒れてしまうのでした。
床に伏せてしまった春日局のもとへ家光が駆け付けます。
どうやら薬断ちをしていたようで、その影響から倒れてしまったようです。
白猫の若紫に何種類もの餌を持ってきたことは、家光の偏食を治すため春日局が「七色飯」などを用意したという逸話が基にされています。
この薬断ちも、家光の病からの回復を願った春日局の逸話からでしょう。本作には実際にあったとされるのエピソードがそれとなく盛り込まれています。
あれほど憎んでいた春日局に対し、周囲は敬愛をあらわにします。
憎くとも大奥は春日局あってのこと。そんな複雑な思いがそこにはあります。
有功は春日局の看病にあたることにしました。
自虐的に「種無しの男はそれくらいしかできない」と言う有功。
彼なりに掴んだのでしょう。大奥に必要なのは、種だけではない。その場を仕切り、管理する者。春日局のあとは誰がその役目を務めるのか。
嬲るように、からかうように、春日局の面倒を見る有功は、姑に復讐する嫁の姿を連想させます。
春日局も相手に虐待されないかと疑っています。彼女に罪悪感があればこその言葉でしょう。
しかし、有功は恩讐を捨てた存在でした。
こう語りかけます。
「鬼でもなければ平気なはずはございますまい」
この仏のような有功に心を開いたのか、春日局は思いを語ります。
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彼女は幼くして、磔になる父を見ました。
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彷徨い、月を見ては、今日も生き延びたと思う日々。あの乱世にだけは戻りたくない。それなのに赤面疱瘡が流行している。このままではこの国は滅ぶ――。
そう切々と語る春日局にとって、有功とは何だったのか。
「あの日、わしは仏をさらってきたのじゃ。間違いばかりのババであったかもしれぬ。じゃが、そなたをさらったことだけは間違いではなかった」
春日局はそう語ります。
思えば罪と過ちの多い人生でした。彼女が敬愛する大権現こと徳川家康のように、人としての情けを犠牲にしてまで、彼女は泰平の世を築かねばなりませんでした。
「上様を救ったのはそなたじゃ」
「この世が滅びるまで上様とともにいてくだされ」
そう託し、どうか最後まで上様のそばにいて欲しいと語りかける春日局。
そして彼女は息を引き取るのでした。
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戦国乱世はこうして終わってゆくのですが……この感動的な場面はそれだけではありません。
春日局に同情を引かせるようで、彼女は時代遅れだとも思い出させてきます。
村瀬が語るように、時代の流れについていけない。泰平の世が始まったら、乱世を生きることに適した人物は不要となるのです。
春日局の死後、彼女は一体何だったのかと家光は考えています。
誰よりも苛烈で、誰よりも甘かった。
「母でしょう」
振り返ると、稲葉正勝がそう語ります。
正勝にとっては実母。家光にとっても、春日局がいなければ今の存在はない。
春日局が崇敬していた徳川家康が乱世を終わらせた父ならば、春日局は母である。
男女双方がいて歴史が成立していくと確認するような場面です。
泰平の世に花開く女将軍
泰平の世に戦はなくても、危機はあります。
幕閣たちが政務について語り合う場で、随一の切れ者である松平信綱は、もうこの世は滅びると嘆いています。赤面疱瘡の流行を前に、彼ですら、もはやこれまでと諦めかけている。
春日局のあとの世は、どうなるのか?
家光が新たな決意をし、諸大名の前に姿を見せます。
このとき、裾を引く音に耳を澄まし、ハッとした顔になる女大名がよい反応ですね。瞬間、彼女の瞳に光が灯ったように見えました。
そして御簾の向こう側から出てきた家光が、声高らかに宣言する。
「父から男名を引き継ぎ、女将軍になる! 誰かわしが女将軍になる事に異存はあるかえ!」
家光の前に伏せる女大名たちの顔が一斉に明るく輝いてゆきます。
それでも人生は続き、そして長い
男女逆転版『大奥』は、ロマンチックなラブストーリーがみどころとされます。
しかし、今回は恋をする季節が終わってからの人生について描かれました。
種無しでもう居場所がないと落ち込む有功。
彼はお楽の方や春日局のケアワークをすることで、自らの生き方を見出しました。
むしろ仏弟子の己にとっては原点回帰やったんやないか?
そう悟り切った彼が春日局から「仏」と呼ばれることが実に興味深い。
家光は政治に目覚めます。
そうだ、わしは上様として天下を治めることができるのだ!
そう悟ったことで、春日局への恨みも薄れていったように思えるのです。
春日局がなければ、こうして世を治めることができなかった。そう納得したことで、彼女は前に踏み出します。
これぞ大人の世界。そう思えます。
春日局の死とは感動的なようで、通過儀礼として見送られたように思えます。
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