ドラマ大奥レビュー

ドラマ『大奥』公式サイトより引用

ドラマ10大奥感想あらすじ

ドラマ大奥感想レビュー第6回 求められるのは子作りばかりという地獄

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ドラマ『大奥』感想レビュー第6回
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「総取締ごときが私と徳川を侮るな!」

鈴が廊下に鳴り響き、綱吉は大典侍(おおすけ)という男と閨を共にすることにしました。

大典侍を選んだ瞬間、桂昌院はほくそ笑んでいる。

彼は、京都から吉保が見繕ってきた男なのです。

その大典侍に対し、学問をしているか?と問いながら、『韓非子』のことをふる綱吉。すると大典侍は、右衛門佐と同じミスがあるテキストで学んでいることがわかります。

綱吉が、そうしたからくりを見抜いているなどつゆ知らず、御台所一派は笑いが止まらない。

というのも大典侍は、御台所が先手を打って京都で選んでいた男だったのです。まさしく、してやったり。秋本が、桂昌院の側にいる口の軽い連中から、色々聞き出せた結果とのことです。

しかし秋本は、できる男ですね。綱吉編らしい風格がある。

家光時代の若き村瀬や、吉宗時代の杉下とは何か違う――これまた口蜜腹剣といえる存在でしょう。

この場面は何気ないようで、畳の上での所作がなかなか難しい局面ですが、みなさんピシッと決まっています。

そしてまた『韓非子』を読んでいる綱吉と右衛門佐の場面へ。

綱吉は自分のテキストが正しいと右衛門佐に伝え、さらに、大典侍も同じ間違いのある本で学んでいたと切り出してきました。

大典侍と右衛門佐が九条景季のもとで学んだことを、綱吉は見抜いていたのです。

言い逃れをしようとする右衛門佐。

そうはさせじと綱吉が睨みつけ、撫で斬るように怜悧な言葉を振り下ろします。

「総取締ごときが私と徳川を侮るな!」

嘘がバレて怯むしかない右衛門佐と、カッと目を見開く綱吉。

扇で右衛門佐の顎を持ち上げつつ、綱吉は続ける。

「そなたの命なぞ、私の心ひとつじゃ。だまされてやっておるうちが花と思えよ、佐(すけ)」

蟻の穴から堤も崩れる。『韓非子』を出典とすることわざ通りの展開といえます。

この綱吉は、頭の切れる人物です。

 


松姫が亡くなり、多くの人生が変わる

綱吉と桂昌院が、松姫と鞠遊びをしています。

どこか具合が悪そうな松姫は、熱を出してしまいました。

匙(侍医)に連れられ、休む幼子……そしてそのまま息絶えてしまったのでした。

あまりに突然のことに、我が子の死を信じられない綱吉。

微笑み、語りかけ、やがてほんとうに目を覚まさないと知ると、泣き崩れます。人生が崩れ落ちてしまった、そんな瞬間です。

しかし、上様には娘の死を弔う暇もないのか。

鞠を手にして呆然とする綱吉に、桂昌院は次の子を産むように語りかけてきます。

さすがに吉保もやんわりと止めるものの、綱吉は化粧をすると言い出します。肌が疲れていては男もその気にならぬだろうと。

金色の光があふれる大奥は、この世でいちばん豪華な牢獄のように、綱吉を閉じ込めています。

松姫の父であるお伝の方も、悲しさのあまり子を為すどころではない。

しかし御台所とその配下は「よう死んだ!」と高笑い。松姫という子どもの死すら喜ぶ姿に、右衛門佐は苦い顔をしています。

右衛門佐が、心痛のあまり綱吉が伏せっているとなだめるように話すと、それでも御台所と大典侍は彼女を人間扱いしないかのような言動を繰り返します。ただの好色な肉の塊のように綱吉を蔑んでいるのでしょう。

綱吉がいかに哀れか……。

子を亡くした後ですら、いや、だからこそ、父の桂昌院は「子を為すことが務め」だとせっついてくる。そして御台所たちは彼女を人とすら思っていない。

右衛門佐と秋本は、京から男をもう一人呼ぶことにしました。

御台所と大典侍のように増長して、つけあがっていては危うい。それに、こうも閨を共にしても子ができぬのであれば、そもそも作れないかもしれぬ。

人間をまるで馬のように語る右衛門佐の心境はいかに?

 


殺生の祟りからの、生類憐れみの令

綱吉はまるで牝馬のように扱われます。

右衛門佐が呼び寄せた新典侍と綱吉が閨を共にしたと聞くと、桂昌院はお庭お目見えだと言い出す。

そして庭には美男がズラリ。

そんな美男を見る綱吉の目が虚ろであることに、右衛門佐は気づいている。それでも閨に侍る男に化粧を施し、綱吉に対して「こう言うのだ」とセリフまで教える。

大奥の男は、みな上様に恋をしている――

そう語る美しい人形のような男と、綱吉は肌を重ねます。

男を選び、肌を重ねる。家光とも違うおそろしさを感じました。

セクシーどころかあまりにおぞましい。人と人が感情を交わし合うのではなく、ただただ、これは“繁殖”にしか見えません。

しかもこの閨でのことを、右衛門佐は職務として聞いている。

ちなみに綱吉が鈴の廊下で足を止め、中腰になって声をかける場面。何気ないようで、筋力を使い、難しい所作です。

一方、子ができずに焦っている桂昌院は、隆光という高僧に相談をもちかけていました。子を授かるにはどうすればよいか?

すると隆光は、桂昌院が若い頃に殺生をしていると指摘する。

そうです。玉栄が犠牲にした、あの白猫の若紫のことですね! まさかあの若紫に祟られていたとは……絶叫し、おそれ慄く桂昌院。

再び、綱吉と右衛門佐の漢籍講義です。

力を以て人を服するものは心服に非ざるなり。力贍(た)らざればなり。『孟子』「公孫丑上」

力づくで人を思い通りにするものは、心服させてはいない。力が足りないのだ。

今日は『孟子』ですが、こっくりこっくりと居眠りをしそうになる綱吉。夜、休んでいないと言います。

右衛門佐はそんな綱吉の言葉を“好色”とは思っていない。それどころか、上様は学問がお好きだと優しく語りかけます。

しかし学問は父の桂昌院には褒められないようです。近視になることを気にしているのだとか。

と、これはドラマだけの話でもありません。

かつて眼鏡は不美人のアイコンでした。いや、それは今でもそうかもしれません。なんせ4年前でこんな記事があるほどです。

◆職場でメガネ禁止される女性たち。「まるでマネキン」受け付けから看護師まで(→link

父が器量というとき、中身でなく見た目だけのことであった――そう語る綱吉に、右衛門佐も自分のことを語り始めます。

京都での役目は種付け。母も、姉妹も、彼が器量よしで賢いことで、種付け料が高くなると喜んでいた。

実際、江戸時代は皇室にせよ、公卿にせよ、ともかく貧しかったのです。

男女逆転版の公卿の家で、器量よし、血統よし、才知よしの男子がいたら、それこそ眠る暇もなかったことでしょう。

こんな短い場面ですら、貴族女性のヘアメークや衣装が準備万端で素晴らしい。

食べている御膳も、いかにも貧しい貴族のようで、手を抜かないこだわりが感じられます。

右衛門佐は、種馬として扱われる自らの人生を呪っていました。そんな本心を聞かされ、綱吉も心が揺らいでいます。

この二人は力づくではなく、心服するところまで到達したのかもしれない。

しかし、そう思っていると、白猫の祟りを知った桂昌院が、侘びながらやってきました。

生類憐れみの令】の発布へと繋がってゆきます。

 

この国で、最も卑しい女として

綱吉は狆を飼い始めました。

猫と並んで大奥ペットの横綱です。

狆
ドラマ『大奥』で綱吉が抱いていた愛玩犬「狆」は奈良時代からいた

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そんな綱吉に対し、吉保ら幕閣は、犬の保護費用がかさむと訴えるものの、「世継ぎができぬともよいのか!」と一蹴。

あの眼鏡の町人コンビであるお江とお美が、またも核心をついてきます。

世継ぎが欲しい願掛けでお犬様を救っているけど、そんなの親戚の子でも連れてくりゃいい。

それができない理由は、お夏の方の孫が候補だからだとか。

お玉の方であった桂昌院は許せません。自分の子はあの有功の子だと思っているから、他の系統に将軍職を奪われるのが許せないのです。

結局、玉栄の有功への思慕が祟っているんですね。

有功になれなかった玉栄が、唯一代わってあげられたのが子を産ませること。その血を継ぐという妄執が、綱吉を絡め取っています。

なにかが切れてしまったのでしょう。「美しく装う」と父に微笑んだ綱吉の頭には、鼈甲(べっこう)の簪が何本も飾られていました。

そうして鈴のなる廊下へ歩んでいく上様の姿は、まるで花魁道中そのもの。

そしてその後も、毒々しいほど派手な装いのまま、庭で騎馬戦をする若い男たちを眺めています。酒の盃まで禍々しい金色だ。

わざわざ上空から若い男の半裸を写す。その絵面の異様さに驚いた後、これが男女逆転していたら、あるものだと気付かされます。

若い女性アイドルをビキニ姿にしてプールや海で遊ばせるバラエティショーが、かつては大っぴらにテレビで流されていました。

盗撮という犯罪被害が相次いでいながらも、女性アスリートは高い露出度のユニフォームを求められます。

◆レオタードからユニタードへ 東京五輪で示された女性たちの意思(→link

男女逆転することで、その愚かさを見せてくるのです。

そして綱吉は気付きます。ある若い男同士が、こっそりと親しげに指を絡ませていることに……。

その夜、綱吉はその男二人と肌を重ねたあと、二人でむつみ合うてみよと命じます。

天下人を振りかざす綱吉に抱き合えと迫られ、耐えきれなくなった一人は刀を抜き、腹を切ろうとしました。

と、そこへ右衛門佐が飛び込んできて止めに入る。

そのまま男二人を追い払うと、孟子の教えのようなことを説きます。

「天下人としての力は辱めるためではなく、天下を治めるために使うものだ」と。

綱吉は「辱め」という言葉に反応。

人前で睦み合えというのは辱めだと右衛門佐がいうと、壊れたように笑い出す。

毎夜毎夜、夜の営みを右衛門佐らに聞かれている!

男を喜ばせるためにありとあらゆる手を尽くしていたがどうであったか!

将軍とはな、岡場所で体を売る男たちよりも卑しい、この国で一番卑しい女のことじゃ!

叫びながら、死んでしまった松姫のことを嘆き、右衛門佐に、易姓革命について尋ねる。

天命を失った君主は倒される。それなのに、なぜ、誰も私を倒しに来ないのか。今なら喜んで殺されてやるのに。

そしてこう語りかける。

「佐。今なら私を殺せるぞ」

そう言われ、思わず綱吉を抱きしめる右衛門佐。

天命を知るからこそなのか、相手が疲れていることを見抜いたのか、種馬だった男ゆえにわかることがあるのか。

そっと布団を被せ、寝室をあとにするのでした。

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