国民的アイドル・松本潤さんほか、豪華な俳優陣を並べ、鳴り物入りで始まった大河ドラマ『どうする家康』。
初回放送から、まだ約1ヶ月しか経過していませんが、個人的には、早くも脱落組の声を聞くようになっています。
一方で、ドラマの支持者も確かにいて、各種メディアでは
「斬新な大河にするための試行錯誤だ」
「風穴を開けるためだ」
といった勇ましい意見も目にします。
◆松潤主演NHK『どうする家康』は「シン・大河」になる? 大ヒット大河ドラマ“勝利の方程式”とは | 2023年の論点(→link)
◆どうする家康、試行錯誤でCG多用 背景には酷暑や台風、働き方改革も(→link)
◆悩むトップ像で大河ドラマに風穴 制作統括が語る『どうする家康』の潜在力(→link)
皆さんは、どんな印象をお持ちでしょう?
例えば人気を測る指標の一つ・視聴率は低迷しています。
◆どうする家康1~5回放送の視聴率
第1回15.4%
第2回15.3%
第3回14.8%
第4回13.9%
第5回12.9%
第5回放送の視聴率12.9%は、ここ5年間の大河で『いだてん』に次ぐ低さ。
もはや視聴率など時代にそぐわない――という指摘も正しいと思いますが、一方で動画配信の「NHKプラス」に注目してみますと、初回は大河枠史上最多だったとか。
ところが、その後「視聴回数が伸びている」という趣旨の発表はありません。
NHKプラスの視聴数は公開されない代わりに、仮に数字が好調ならば、そういった盛り上げ報道が出てくるものです。しかし、それがないのです。
大手メディアでも、こうした結果を苦しいと感じているのか。
「視聴率は悪くても、SNSでは神回だってよ!」なんて記事が出るほどです。
◆NHK大河「どうする家康」第5話視聴率12・9% 前回から1P減もSNSで「神回」の声(→link)
本当にこれは視聴者の意見を代表したものなのか?
視聴率が低迷しながら、一方で「神回」という評価は妥当なのか?
そんなことを考えていたら、ふと気になりました。
『どうする家康』は海外でどんな評価を受けているのだろう?
今はNetflix、Hulu、Amazon PrimeなどVOD戦国時代です。映像作品はVODを通して世界中へ配信されます。
昨今は韓国作品の勢いが凄まじく『イカゲーム』が世界で大ヒットしたことは記憶に新しいですが、ならば日本が誇る歴史劇・大河ドラマだってウケたりするのかな?
「SHOGUN」の人気が出たら、やっぱり日本人として嬉しくなりますよね。
というわけでざっと調べてみたところ、非常に心苦しい結果となってしまいました……。
いったい『どうする家康』は海外でどう評価されているのか?
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どうする海外評価の判断
そもそも「海外」といっても、どこを指すのか不明瞭でしたね。
日本では暗黙の了解として「欧米(特に白人)」が想定されがちでしょう。
いわゆる「日本って、スゴーイ! デスね!」というテレビ番組は一時期よく見られました。
しかし、考えてみたいことがあります。
日本の歴史に対して、大きな興味や関心を持っている国はどこなのか?
日本の作品が世界に向けて配信するとき、ライバルとなる国はどこなのか?
やはり隣国の韓国や中国語圏の国々でしょう。
漢字や儒教、仏教といった文化芸術の下地が共通していて比較対象としやすい。他エリアの諸外国から見ても、非常に似通った東アジアとして映っていることでしょう。
しかし、日本における韓流や華流ドラマには偏見もつき纏いがちで、『どうする家康』を否定する時でも次のような意見を見かけます。
「こんなのは、まるで韓国や中国の時代劇のようだ」
どこがどう似ているのか――作風の細かい指摘はさておき、もしも『どうする家康』が韓流や華流と似ているならば、東アジア圏でも人気の出やすい作品となるはず。
では、韓国では一体どんな反応があるのか?
◆「本当にどうするの」松本潤主演の大河ドラマ『どうする家康』が低視聴率のスタート…韓国での反応は?(→link)
どうにも芳しくない……どころか、なかなか辛辣な声が聞こえてきます。
初回放送後、韓国のネット上では「面白かった!これからが楽しみ」「ガイドブック買っちゃった。家康について勉強します」といった満足感を示す反応や、今後の展開を期待するコメントもあった一方、厳しい声も目立った。
「このキャストはちょっと軽すぎない?」
「なにこれ、学芸会ですか」
「CGに違和感が…乗馬シーンでCGは勘弁してください」
演技力に定評のあるキャストというよりは、話題性や若者に人気のある俳優で固められた布陣に疑問を抱く意見や、CGの多用に違和感を感じるといった指摘が多く挙がったのだ。
「学芸会」とまで言われては、ムムッと唸ってしまいそうですが、「CGに違和感」というのは反論の余地がありません。日本国内でも、その点は不満噴出でした。
それゆえ『どうする家康』を貶す際に「まるで韓流」という決まり文句を用いるのは、なんだか負け犬の遠吠えにも思えてしまいます。
VODに登場するドラマにせよ、BTSの飛躍にせよ、今や韓国の芸能部門は世界を席巻しています。
彼らが取り組んでいるアプローチも注目されている。
◆なぜ韓国ドラマは世界を席巻するのか 京都芸術大教授が分析「演技は世界最先端」(→link)
世界的ヒットを記録した『イカゲーム』、『梨泰院クラス』や『愛の不時着』などなど。
時代劇でも『宮廷女官チャングムの誓い』の頃とは違う。斬新な発想の『王になった男』や『哲仁王后~俺がクイーン!?~』は若い世代にも人気です。
こうした韓流作品が世界で評価を受けるのに対し、日本からは一向にヒット作が生まれていません。
民放では『六本木クラス』のようにリメイク作品が作られるほどです。
と、韓国での評価はこれぐらいにして、次に中国語圏を見てみましょう。
実は徳川家康は、中国語圏で屈指の日本史人物と言えるのです。
中国で『徳川家康』はベストセラーだった
中国語圏における徳川家康の人気はなぜ高いのか?
その要因は色々と挙げられます。
家康は、豊臣秀吉の【朝鮮出兵】で破綻した日明外交を回復させ、幕府が機能しない間に猛威を奮っていた【倭寇】も取り締まりました。
天下泰平を築いた功績は、海を超えて隣国にまで及んでいるんですね。
家康が愛読した『貞観政要』も、中国で重視される名君マニュアルです。
『光る君へ』で一条天皇も愛読の『貞観政要』は泰時も家康も参考にした政治指南書
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実は、生き方そのものも、人気があります。
2009年には山岡荘八『徳川家康』(中国版全13巻)がベストセラーとなり、簡体字版200万部を超える売り上げを記録しました。
鳴くまで待とうホトトギス――そんな忍耐強い生き方に、きっと成功の秘訣があるはずだ――として熱心に読まれたのです。
BBCでも家康を称える番組が作られましたが、
英国人から見た家康と関ヶ原の戦い!BBC版『ウォリアーズ』は一見の価値あり
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世界での徳川家康人気は、中国が頭一つ抜きん出ていると言えるかもしれません。
こうした状況が、ほとんど日本人には知らされないため、意外でしょうか?
実はブームの背景には別の姿もあります。
同じ中国語圏でも繁体字を用いる台湾や香港の影響があり、当時の若い世代も戦国時代に熱狂していたのです。
「やっぱり『信長の野望』は最高だよ!」
「『戦国無双』いいよね!」
といった具合で戦国関連の各種作品がヒット。
台湾に至っては1980年代の時点で『徳川家康』は支持されていました。パソコンや家庭用ゲーム機の普及で、戦国時代をモチーフとした作品が遊ばれていたのです。
中国本土では、こうしたゲーム関連の普及は遅れたものの、2010年代に差し掛かる頃には根付き、『信長の野望』や『戦国無双』などをキッカケに「あの家康が出てくるなら読んでみるか!」として山岡荘八の『徳川家康』も愛されたのでした。
それから10年以上が経過した2023年――ついに徳川家康が大河ドラマの主役になりました。
中国語圏にも大河ドラマファンは根強くいます。
『独眼竜政宗』や『葵 徳川三代』を感慨深げに語り、スクリーンショットを投稿する方も見かけるほど。
傾向として、戦国時代以外はあまり人気がなく、特に幕末以降の近代史は関心が低くなっています。
それでも日本以外の海外に目を向けると、大河ドラマ視聴者層という土壌は、中国語圏で耕されているといえます。
では、そんな中国語圏における評価は、どうなる家康?
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