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【中国でどうする家康の評価は?】
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中国は歴史劇もチェックが厳しい
中国語圏の戦国時代および大河ファンは、マッチョで残酷な世界観を好みます。
往年の『葵 徳川三代』といったドラマは懐かしく語られる。
その一方で、豆辮でも女性主人公大河の点数は低くなりがちです。
近年の戦国もので女性が活躍する『おんな城主 直虎』や『麒麟がくる』も点数は低迷しています。
とはいえ、中国語圏は2020年になるころからジェンダー観がガラリと変わりました。
2020年代の変わりゆく感覚にマッチしていないからことも、『どうする家康』が既に低迷している一因にあるのかもしれません。
この傾向はアジアを出ると、より一層強くなります。
海外でも性暴力、性的同意を取らない性行為があると、炎上します。海外配信も意識したドラマを2020年代に制作するのであれば、その点に配慮しないというのはないでしょう。
さらに中国では、あまりに舐めくさった歴史劇は規制されます。
他にも華流ドラマと比較して、『どうする家康』が低評価とされるポイントはあります。例を挙げていきましょう。
・アクション
華流ドラマのアクションは一級のものがあります。
なんといってもあのジャッキー・チェン(成龍)が指導している『成化十四年』といった作品もあるほど。迫力満点です。
・所作指導と演技力
中国の俳優は演劇科専攻者が多く、時代劇の動きも綺麗にこなせます。演技力も優れています。
・VFX
かつて中国ドラマは雑なVFXがお約束でしたが、それは過去のこと。現在は美麗なVFXが見られます。
華流時代劇で長安、洛陽、北京をみたあと、『どうする家康』の清洲城を思い出すと、いろいろ切なくなってしまいます。
・ブロマンス
今、世界的にブロマンスがブームであり、中国もその中心地のひとつとされています。
『魔道祖師』のアニメ版、実写版『陳情令』は日本でも大ブームを起こしました。
ブロマンスドラマが大量生産されすぎて、ついには粗製濫造にストップがかかるほど。
新作が発表されないのは惜しまれるところではありますが、ブロマンス要素が含まれた華流ドラマはストックが充分にあります。
『陳情令』で描かれるようなブロマンスは、俺様ドS王子がオラついているようなものではなく、互いを思い合う優しい世界観。
そんな2020年代流行まっしぐらのブロマンスを知ってしまうと、あのハラスメント信長は古く思えるかもしれません。
中国では性描写の規制は厳密ですが、そこを避けたうえでのブロマンスは大いにアリで、『三国志』をブロマンス解釈した傑作ドラマもあります。
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そしてこれが重要なのですが、
「史実や古典文学をおちょくりすぎると、視聴者の告発経由などを経て、中国共産党による指導が入る」
ということです。
中国というと検閲大国のように思えますが、あまりに数が多いドラマをいちいち確認できるほど中国共産党も暇ではありません。
視聴者が「なんだこれは、ふざけとんのか!」と騒ぐと、党も「どれどれ……」と腰を上げる。
そして、あまりに歴史を侮辱しているとみなされると、こうなります。
「実在の人物がこうだと思われるのは確かによくないね。架空人物名を用意して、パラレルワールドでの話ってことにすれば放映してもいいよ」
こう書くとあまりに理不尽なように思えますが、そこまでされる歴史ドラマは本当にどうしようもないトンデモ作品です。
もしも中国で『どうする家康』が作られていたら、“小田伸長”が“末代羅本安”に「俺の白兎」とねっとり語りかけるドラマにするよう、指導されていたかもしれません。
史実にこだわらない制作者。
荒れる視聴者。
どちらも納得するよい落とし所ではないでしょうか。
またファンタジー設定を加味した時代劇風のドラマであっても、衣装や小道具、建築物が日本はじめ他国特有の特徴をしていても、燃えます。
そんな炎上要素を華流ドラマから学ぶ必要はないと思いますが……ともかく、こうした規制の発端は視聴者の「これはないわ!」という困惑と怒りが起点となります。
それだけトンデモ歴史劇に厳しいのも、中国語圏の特徴です。
そりゃ、黙って『どうする家康』を楽しむわけがないと思います。
『大奥』こそ海外を狙える
なお、本当に国際的評価が高かった大河ドラマは、2014年度「国際エミー賞」にノミネートされた『八重の桜』でした。
女性主人公であり、当然のことながらジェンダー観を意識した作品です。
◆「八重の桜」が2014年国際エミー賞にノミネート!(→link)
そんな実績を無視して、“たすけて せな”の血文字で盛り上げる『どうする家康』は、たしかに時代錯誤でしょう。
むしろNHKが海外を意識しているのは、男女逆転版ドラマ『大奥』ではありませんか。
既に原作は英語版も中国語版もヒットしており、期待も寄せられています。
豆辮でも高得点で、かつ「感動した!」と熱意あふれるコメントがついています。
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合戦シーンが、2007年制作BBC版関ヶ原に今年も勝てないことがほぼ確定している『どうする家康』。
それでもジェンダー観を意識していれば、上野千鶴子さんに感動する中国語圏のファンも狙えたことでしょう。
しかし、それはもう失敗しました。
これまた中国語圏で失笑の嵐だった映画『新解釈三国志』のような受け止められ方に向かっていくこの現実に、「どうする!」と嘆きたい気持ちが湧いてきます。
まだ2月なのに非常に厳しい。
そして、お願いしたいことがあります。
『どうする家康』を腐すために、中国語圏や韓国のドラマを持ち出すのはやめにしませんか?
実力差を考えると、むしろいたたまれなくなります。
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【参考文献】
佐藤信弥『戦乱中国の英雄たち: 三国志、『キングダム』、宮廷美女の中国時代劇』(→amazon)
西村晋『中国共産党 世界最強の組織 1億党員の入党・教育から活動まで (星海社新書)』(→amazon)
他