「どうしてこうなった……」
正統派の大河ファンや戦国マニアが絶句しそうではあるけれど、実は奥深いテーマで人間を描く歴史作家・山田風太郎――。
彼の原作を、艶っぽくも物悲しく描かせたら右に出る者はいないのが漫画家せがわまさきです。
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その作風は地味なようで非常に中身が濃く、また読み手を選ぶクセの強さもあります。
が、独特な風味の食べ物がクセになるように、山田風太郎&せがわまさき作品も非常に魅力に富んでいて、戦国&歴史ファンの皆様にぜひともオススメしておきたい。
今回、注目するのは、巻ごとに話の異なる短編集『山風短(やまふうたん)』。
1~4巻まで順に解説して参りますので、ネタバレ注意のうえ読み進めてください。
(文中敬称略)
1巻『くノ一紅騎兵』

『山風短』1巻(→amazon)
ときは出羽の関ヶ原前夜。ところは会津上杉家。
徳川 家康との決戦を前にして『どうすれば豊臣側につく勢力が増えるかな……』と、どこかの策士が悩んでいる。
「そうだ! 上杉家といえば男色だよね!」
男色につけこまれて西軍につく上杉景勝。
【直江状】の背景にはボーイズラブがあった――。
いい加減にフザけるのをやめろっ! お前は何を言ってるんだ?
そう叱られるかもしれませんが、そういう話です。
上杉謙信と直江兼続のカップリングは有名で憧れられていて、上杉景勝もそのあたりを知っている。
もちろん、どういう美少年が好みか。把握済みです。
そういうカップリング妄想をしつつ「そのふさわしさ、美しさに心も痺れるようではないか」とか言い出す。
しかも、上杉家のカップリング事情を、とある一族が全部把握していたあたりも闇が深い。
関ヶ原西軍が全部BLで繋がっている――。
トンデモナイ世界がそこにはあります。しかし……。
荒唐無稽なようでも、著者が
原作・山田風太郎
漫画・せがわまさき
というゴールデンコンビなので、戦国モノとしてそつがありません。
ざっと一例を挙げていきましょう。
◆前田咄念斎(前田慶次)、千坂対馬守景親、上泉主水泰綱、岡野左内、車丹波守猛虎が出てくるぞ!
上杉家ファンならおなじみ、出羽の関ヶ原を彩る面々が登場。
前田慶次は『花の慶次』のように若返らせていないので、史実に近い造形と言えます。
◆せがわまさき画のあの武将が!
上杉謙信、真田昌幸、真田幸村、まだ黒髪が残っている頃の徳川 家康、結城 秀康もチラリと出てくるぞ!
◆しかも元ネタがあるんですね……
このとんでもないボーイズラブ、実は元ネタがあるんですね。
読んで驚いてください。なにこの無駄に高度な設定は!
戦国時代好きならば、チェックしておきたい豪華な要素がある。
無茶苦茶をかましておきながら、悲しさと美しさという読後感も残る不思議。
タイトルの『くノ一紅騎兵』の意味がわかり、それをせがわまさきの絵で再現されると、謎の涙を誘われます。
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原作はちくま文庫『山田風太郎忍法帖短篇全集10 忍者六道銭』に収録されております。
2巻『剣鬼喇嘛仏』

『山風短』2巻(→amazon)
『麒麟がくる』視聴者が悶絶しそうなストーリーがこの2巻。
長谷川博己さん扮する明智光秀と、真島秀和さん扮する細川藤孝の孫が主人公をつとめております。
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名は長岡与五郎興秋――。
父・細川忠興と、母・明智たま(細川ガラシャ)の間に生まれた次男でした。
興秋が、その血から受け継いでいたのは、父方の祖父と父譲りの剣術の才能と情熱、そして母方の祖父と母ゆずりの美貌と生真面目さでした。
とにかく剣術を極めたくて仕方がない!
あの宮本武蔵にだって勝つのだ!
大名の次男としてあってはならない情熱に燃えたぎる次男に手を焼いた父は、こう思います。
「そうだ、ここは忍法に頼ろう!」
おいおい、なんでも忍者で解決するんじゃないよ――そうツッコミたくなるでしょうが、さらに術の名前と中身を聞いたら頭がクラクラしてぶっ倒れてしまうかもしれません。
喇嘛仏(らまぶつ)、またの名を歓喜仏――。
要は男女が正面向いてくっついた仏像です。
よろしければ画像検索をしてみてください。
光秀と藤孝の孫が、女忍者を相手にして「リアル喇嘛仏」になる。そして、あろうことか男女が正面むいてくっついたまま「旅」に出るのです。
脳みそパンクするかもしれませんが、これがいい話でラブストーリーとして感動できてしまうのが凄い。
何を言ってるのか、って?
いや、嘘じゃないんだ!
武蔵を倒したい一心で剣術だけに生きてきた与五郎が、真実の愛にめざめ、己の愚かさを悔やむラスト。
そんな二人を救う若き千姫。
こんなわけわからん話であるにもかかわらず、よい場面が怒涛のように描かれます。
そしてこれが、せがわまさきの魔法なのですが……本作は原作の結末をガラリと変えています。ほんの少しの要素を加えて、ものの見事に変えています。
改悪どころか、これでよかったとしみじみ思えるところが素晴らしい。
原作を漫画化し、さらに良くしたという奇跡のような作品です。
若き千姫が登場すること。『十 〜忍法魔界転生〜』に本作の人物がカメオ出演することも特徴です。
こんな無茶苦茶な設定なのに、感動的なのが驚異的。
あと、こんなとんでもない世界観において、読者のツッコミを体現する宮本武蔵がよい味を出しています。
あの武蔵が困り果てる顔が最高です。
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原作はちくま文庫『山田風太郎忍法帖短篇全集12 剣鬼喇嘛仏』に収録されております。
この表紙と漫画版の比較もまた一興。
3巻『青春探偵団<砂の城>』

『山風短』3巻(→amazon)
昭和の作家とは、いろいろなものを手掛けておりました。
医学生でありながらミステリ作家となり、江戸川乱歩にもかわいがられた山田風太郎。
デビューしたばかりのころは、当時の学生向け短編ミステリを手掛けたものです。
まだ漫画全盛期前夜。こうした娯楽が少年少女に人気でした。
そんな昭和30年代の雰囲気を味わえる――そういう意味でも貴重な作品です。
エロも忍者もない、こういう短編も手掛けていたのですね。
トリックもそこまで複雑でもなく、地味といえば地味なようで、味わいがある。主人公の少年少女が昭和らしい造形であるところも素敵です。
原作発表当時は現代ものでも、今となっては当時の雰囲気を味わえるところがおもしろい。よい作品です。
4巻『忍者 枯葉塔九郎』

『山風短』4巻(→amazon)
これまた無茶苦茶な忍法もののようで業が深い。最終巻です。
始まりは、筧隼人という剣客が、家老の娘・お圭と駆け落ちをするところから。
この隼人という奴がダメ男の業を背負っておりまして。
「なんかあんなに燃え上がって駆け落ちしたけどさぁ……正直、真面目すぎるっていうか……もっとエロくて軽い感じの子がよかったっていうか。ぶっちゃけもうめんどくさいんだよね」
そういうダメな身勝手さゆえに、お圭を遊女にしようとする。
と、そこへ枯葉塔九郎という忍者が察してこう言ってきます。
「彼女を俺に売りませんか? 高い金出すし、殿様の御前試合で八百長もしますよ。仕官と金をゲットできる、悪くない話だと思うんですけどね。だから彼女くださいよぉ」
ダメ男・隼人はホイホイとこの誘いの乗ってしまうわけです。
しかし、相手は忍者なので無茶苦茶なことになってしまう。
隼人がひたすらダメ男の業を背負っている本作。なにがダメかって、売った後でお圭が出てきたらこうなるわけです。
「うおーっ、久々に会ったらお圭、エロくなってるぅ! 元妻だろ、俺と愛しあおうぜ!」
そういうダメ男がとんでもないオチを迎える。
業が深い短編です。忍者が出てくるのでなんだかぶっ飛んでいるようで、そこさえのぞけば普遍的で現代にもある、ダメ男あるあるに思えてくる。そんなお話。
構造的に『剣鬼喇嘛仏』と逆のように思えます。
あれは真実の愛によって人が救われる。一方こちらは真実の愛を見出せぬがゆえに、ろくでもないことになっていく……。
実は、真面目な話かもしれません。
そしてこの話には、もうひとつ楽しみ方がありまして。
原作はちくま文庫『山田風太郎忍法帖短篇全集2 野ざらし忍法帖』に収録されております。しかもなんと、水木しげるの漫画版も!
この漫画版、名前がすごいことになっておりまして。
筧隼人→水木茂之丞
枯葉塔九郎→山田風雲斎
「明日のライバル」「さすがチャンピオン」「よりそってキスをしているではないか」といったセリフも味わい深いものがあります。比較してみましょう。
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短編だから長編と違ってお気楽に読めるようで、業が深い。
そんな短編が集まりました。
忍法が世界を無茶苦茶にするようで、それでも真実の敬愛や志があれば、なんか丸くおさまるというのは奥深いような気がしてくる。
そんな作品です。
原作も漫画版も、なんでこんなハイレベルでこういうことを描くのか、疑念が湧いてくるようで、それもまたおもしろい作品。
興味を持ったら、ぜひ原作にも挑んでみましょう。
大河の休止期間仲、忍者になった明智十兵衛を……
ちくま文庫『山田風太郎忍法帖短篇全集6 くノ一忍法勝負』には、せがわまさきの解説と一部作品設定画が収録。
松平忠輝がスゴイ!
ちくま文庫『山田風太郎忍法帖短篇全集1 かげろう忍法帖』には「忍者明智十兵衛」が収録。
はい、あの明智十兵衛こと光秀が主人公です。
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【参考】
山田風太郎/せがわまさき『山風短』(→amazon)









