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戦国マンガの知られざる名作『山風短』はクセも強いが病み付きにもなる

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3巻『青春探偵団<砂の城>』

『山風短』3巻(→amazon

昭和の作家とは、いろいろなものを手掛けておりました。

医学生でありながらミステリ作家となり、江戸川乱歩にもかわいがられた山田風太郎。

デビューしたばかりのころは、当時の学生向け短編ミステリを手掛けたものです。

まだ漫画全盛期前夜。こうした娯楽が少年少女に人気でした。

そんな昭和30年代の雰囲気を味わえる――そういう意味でも貴重な作品です。

エロも忍者もない、こういう短編も手掛けていたのですね。

トリックもそこまで複雑でもなく、地味といえば地味なようで、味わいがある。主人公の少年少女が昭和らしい造形であるところも素敵です。

原作発表当時は現代ものでも、今となっては当時の雰囲気を味わえるところがおもしろい。よい作品です。

 

4巻『忍者 枯葉塔九郎』

『山風短』4巻(→amazon

これまた無茶苦茶な忍法もののようで業が深い。最終巻です。

始まりは、筧隼人という剣客が、家老の娘・お圭と駆け落ちをするところから。

この隼人という奴がダメ男の業を背負っておりまして。

「なんかあんなに燃え上がって駆け落ちしたけどさぁ……正直、真面目すぎるっていうか……もっとエロくて軽い感じの子がよかったっていうか。ぶっちゃけもうめんどくさいんだよね」

そういうダメな身勝手さゆえに、お圭を遊女にしようとする。

と、そこへ枯葉塔九郎という忍者が察してこう言ってきます。

「彼女を俺に売りませんか? 高い金出すし、殿様の御前試合で八百長もしますよ。仕官と金をゲットできる、悪くない話だと思うんですけどね。だから彼女くださいよぉ」

ダメ男・隼人はホイホイとこの誘いの乗ってしまうわけです。

しかし、相手は忍者なので無茶苦茶なことになってしまう。

隼人がひたすらダメ男の業を背負っている本作。なにがダメかって、売った後でお圭が出てきたらこうなるわけです。

「うおーっ、久々に会ったらお圭、エロくなってるぅ! 元妻だろ、俺と愛しあおうぜ!」

そういうダメ男がとんでもないオチを迎える。

業が深い短編です。忍者が出てくるのでなんだかぶっ飛んでいるようで、そこさえのぞけば普遍的で現代にもある、ダメ男あるあるに思えてくる。そんなお話。

構造的に『剣鬼喇嘛仏』と逆のように思えます。

あれは真実の愛によって人が救われる。一方こちらは真実の愛を見出せぬがゆえに、ろくでもないことになっていく……。

実は、真面目な話かもしれません。

そしてこの話には、もうひとつ楽しみ方がありまして。

原作はちくま文庫『山田風太郎忍法帖短篇全集2 野ざらし忍法帖』に収録されております。しかもなんと、水木しげるの漫画版も!

この漫画版、名前がすごいことになっておりまして。

筧隼人→水木茂之丞

枯葉塔九郎→山田風雲斎

「明日のライバル」「さすがチャンピオン」「よりそってキスをしているではないか」といったセリフも味わい深いものがあります。比較してみましょう。

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短編だから長編と違ってお気楽に読めるようで、業が深い。

そんな短編が集まりました。

忍法が世界を無茶苦茶にするようで、それでも真実の敬愛や志があれば、なんか丸くおさまるというのは奥深いような気がしてくる。

そんな作品です。

原作も漫画版も、なんでこんなハイレベルでこういうことを描くのか、疑念が湧いてくるようで、それもまたおもしろい作品。

興味を持ったら、ぜひ原作にも挑んでみましょう。

大河の休止期間仲、忍者になった明智十兵衛を……

ちくま文庫『山田風太郎忍法帖短篇全集6 くノ一忍法勝負』には、せがわまさきの解説と一部作品設定画が収録。

松平忠輝がスゴイ!

ちくま文庫『山田風太郎忍法帖短篇全集1 かげろう忍法帖』には「忍者明智十兵衛」が収録。

はい、あの明智十兵衛こと光秀が主人公です。

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忍術で斬首されたり、首が生えたり、お市の方のストーカーになったり……とにかくとんでもない展開が刺さります。

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文:小檜山青

【参考】
山田風太郎 (著)・せがわまさき(著) 『山風短』(→amazon

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