ジョジョの奇妙な冒険歴史的考察

『ジョジョの奇妙な冒険』第1~8部表紙/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

『ジョジョの奇妙な冒険』の歴史的背景が奥深い~荒木飛呂彦の凄さよ

こちらは2ページ目になります。
1ページ目から読む場合は
ジョジョの奇妙な冒険の歴史背景
をクリックお願いします。

 

第3部:スターダストクルセイダーズ

ジョジョの奇妙な冒険第3部Kindleカラー版(→amazon

◆先進国のゆくえ〜イギリスからアメリカ、そして日本

主人公がイギリス、アメリカ、そして日本へ――。

第2部のラストでは、ジョセフが娘を奪った日本への苦い感情を語りつつも、ソニーのウォークマンを愛好しております。

第3部の約50年後、1988年の日本から物語は始まるのです。

時代の流れは当然のことながらあります。

ジョセフの若いころからすれば、西洋人と東洋人の人種を超えた結婚は想像すら難しいことでした。

そして経済という覇権も、連載と作中時系列の1988年ならば日本にありました。その後の長い不況を経てみれば、皮肉にも歴史を感じる設定です。

それが1980年代。ハリウッドスターが日本でコマーシャルに出る時代でした

未成年飲酒に対する批判も現在ほど厳しくないためか、承太郎がビールを飲む……なんて場面も。

 

◆新しいようで古典的、それがスタンドバトル

第2部までの波紋に代わり、特殊能力として本作の代名詞であるスタンド(幽波紋)が登場します。

波紋とは違い、事前にどういう能力であるかわからないため、探りながら戦うところに本作ならではの頭脳戦要素があります。

特定の状況に追い込まねば使えないスタンドもあれば、DIOのようにどうすれば勝てるのかわからないものもある。

それがスタンドバトルの魅力ですね。

当時の少年漫画は、『ドラゴンボール』のスカウター描写のように、数値化できる強さ同士のぶつかり合いが多いものでした。

それだけではなく、ジャンケンのように、組み合わせや使い方次第で戦い抜く頭脳戦要素が本作の魅力です。

アメリカンコミックにも同様の趣向はありますが、日本にもそうした伝統はあったものです。

新しいようで古典的、そしておもしろい――それがスタンドバトルです。

当初はタロットカードだけだったスタンドも、エジプト9栄神、そしてもうともかく出てくることに。それも納得のおもしろい能力です。

武侠
北斗の拳にも影響大!中国エンタメ「武侠」は日本と深い関係にある

続きを見る

 

◆タロットカード

タロットカードってそもそも何でしょう?

大アルカナ(22枚)と小アルカナ(56枚、トランプの原型という説もあり)があり、スタンド能力は大アルカナのみとなっております。

ここで、主人公チームとDIOのカードとテーマをざっと見てみましょう。

空条承太郎:17 星

勇気や希望を示すカード。主人公にふさわしいよいカードです。

ジョセフ・ジョースター:9 隠者

分別のついた老人。知恵のある導くもの。これぞ主人公の祖父というところですし、ジョセフのスタンドは念写で仲間を導いてゆきます。

アブドゥル:1 魔術師

創造的なスタート。好機の始まり。冒険の始まりに出てくるアブドゥルにふさわしいカードです。

花京院典明:4 法皇

慣習により規定されること。遵守。生真面目な花京院らしいカード。緻密な計算ありきの能力でもあります。

ジャン=ピエール・ポルナレフ:7 戦車

ワムウとジョセフの戦っていたあの戦車です。勝利。克服。困難に打ち勝つカード。最終決戦後も生きていられたことも、暗示されていたとか?

イギー:0 愚者

途方もない目的を果たすために向かう、愚かなようで勇気ある者。確かにイギーは無鉄砲なようで考え抜いて戦う戦士です。

DIO:21 世界

全ての面での勝利。ありとあらゆる欲望の充足。不死身であり、時をも操る。まさしくDIOはありとあらゆる面での勝利を目指す存在でした。

占いの歴史~タロット、風水、西洋占星術から甲骨文字まで 何を信じますか?

続きを見る

三人の主人公、三つの国。そして一世紀という時の流れ――。

1部からの因縁の敵であるDIOを倒すことまでが、作者当初の想定と思われる本作。

時を駆け巡り、現代日本に回帰する。スケールの大きな力作でした。

しかし、スタンドバトルは終わりません。第4部以降、ちょっと特殊な継承を経て、シリーズは続いてゆきます。

 

第4部:ダイヤモンドは砕けない

ジョジョの奇妙な冒険第4部Kindleカラー版(→amazon

◆非嫡出の主人公

三部作が終了して、一巡したような物語は、作者自身の原点回帰や個人史への転換点を感じます。そこはご了承ください。

第4部以降がずれてきている点。それはジョースター家の血統による継承が、非嫡出となっていく点です。

ジョセフよぉ、スージーQだけを愛するんじゃなかったのかよぉ〜。

そう突っ込みたくなる、それが主人公である東方仗助出生の経緯です。

父:ジョセフ・ジョースター

母:東方朋子

ジョセフが61歳の時、当時大学生であった朋子と不倫した結果、できた子どもという設定。

3部主人公・承太郎は甥であるという、少年誌でよくできたとしか言いようがない設定です。

これも歴史的に突っ込むとおもしろい。

キリスト教圏では、非嫡出子はBastardと呼ばれ、差別的な境遇にさらされてきたわけです。

仗助が半世紀前の人物ならば、なかなか大変なことになったっスね。

歴史的に見ても、そういう存在はいました。

太平洋戦争が終わって間もないころは、米軍兵士と日本人女性の間に生まれた庶出子が多く存在し、しかもしばしば差別的な扱いを受けてきました。

そういうことを考えると、仗助の設定からは斬新なものを感じます。

 

◆ノストラダムスの大予言

本作の連載期間は1992年から1995年。しかし、劇中の時間軸は1999年とされています。

どうしてそうなのか?

これには考えられる要素があります。

1973年、五島勉の著書『ノストラダムスの大予言』が発売されて以来、日本にはオカルトブームが始まり、うっすらとその年には何かがあると思われていたのです。

大予言で恐怖の大王が襲来するとされた1999年7月が過ぎるまで。

何やらドキドキする緊張感がありました。

第1部以来、オカルト要素があった本作。第4部にもその名残があっても、何の不思議もないことなのです。

日本中の子供達をビビらせたノストラダムスの予言って一体何だったんだ?

続きを見る

ちなみにノストラダムスとは、フランス王・アンリ2世の死を予言したとされています。どうなんでしょうね。

彼の王妃であるカトリーヌ・ド・メディシスがオカルトマニアであったこととか。

様々な要素が積み重なって、評価が印象づけられたのでしょう。

この王妃や、スコットランド女王メアリー・スチュアートがらみのフィクションでも、本人が出てくることがあります。

ディアーヌ・ド・ポワチエ
中世フランスの美魔女ディアーヌ・ド・ポワチエ~19歳の若い王をメロメロに

続きを見る

 

◆漫画家・岸辺露伴

第4部を読んでいて気になるのは、漫画家が登場するところでしょう。

岸辺露伴はどこまで作者の反映なのか? そこはどうしたって気になります。

作者自身に聞いたところで、素直に「ああ、ボクがモデルだねッ!」とも言いにくいだろうとは思えるのですが……それでもはやり、興味は湧いてきます。

岸辺露伴は杜王町で連載をしています。

漫画もスタンドで余裕を持って描きあげます。これはある意味、作者の理想の反映のようにも思えるわけです。

荒木先生のデビュー当時、仙台のような地方都市で連載することはできなかったと。

業務上の必要性に応じて引っ越したわけですが、できれば地元にいたかった。そんな思いが岸辺露伴に反映されていたとしても、おかしくはないわけです。

スティーブン・キング作『シャイニング』のように、創作者が自分と同じ職業のキャラクターを描くとなると、何かが反映されるとは言われております。

そういう意味で、やっぱり岸辺露伴は面白いと思えるのです。

彼が主人公の作品もありますが、それも納得できるというものです。

 

◆杜王町――伊達政宗の城下町

杜王町のモデル?

実写映画はどういうわけか海外ロケをしましたが、ンなこた忘れましょう。

それは伊達政宗の城下町、仙台市ッ!

伊達政宗
伊達政宗の派手な逸話はどこまで本当か?史実の生涯70年を検証まとめ

続きを見る

東北地方最大の都市にして、唯一の政令指定都市、人口100万を超え、地下鉄も運行している。そんな堂々たる街です。

杜の都という愛称の通り、緑豊かで美しい都市。これぞ少年漫画の舞台にふさわしいぜーッ!

と、仙台観光をプッシュしてしまいますが。

歴史的にみて、見逃せないのは美的センスでしょう。

伊達政宗が「伊達」の語源かどうかはあやしいのですが、彼が美的センスをアピールしていたことは事実です。

最上義光のような、周辺大名は「くだらないことにカネを使ってバカでねーか」と割と冷静に見ておりました。

最上義光
最上義光(政宗の伯父)は東北随一の名将!誤解されがちな鮭様の実力

続きを見る

もちろん政宗はただのバカではなく、彼なりに考えていることはありました。

「東北出身というだけで蝦夷、文明文化も及ばぬ者として扱われるこの屈辱ッ!」

豊臣政権下で大名として上洛した際、多くの東北の大名はストレスに苦しみました。露骨に「蝦夷だぜーッ!」とダサい扱いを受け、どんよりしてしまうわけですね。

政宗はそうした東北蔑視に対抗すべく、持ち前のファッションセンスを見せつけます。

そのセンスを気に入られて、秀吉が優遇したとまでは思えませんけれども、目立っていたことは確かなのです。

豊臣秀吉
豊臣秀吉のド派手すぎる逸話はドコまで本当か?62年の生涯まとめ

続きを見る

素朴で地味な印象があるような、そんな東北からド派手なセンスを見せつけるッ!

そんな荒木先生こそ、まさしく伊達者であることは確かなことです。

政宗のファッション
政宗はお洒落さんだった?服装・兜・小物等をファッションチェック!

続きを見る

ちなみに、1995年から1997年にかけて連載された冨樫義博『レベルE』は隣県である山形市が舞台になるエピソードもあります。

1995年とは『少年ジャンプ』誌上で宮城と山形舞台の漫画が掲載されるという、なかなか熱い東北熱がありました。

そんな第4部は、モナリザの手に興奮する吉良吉影が最終的な敵でした。

そんな隠しきれないルネサンスへの憧れは、第5部に昇華してゆきます。

※続きは【次のページへ】をclick!

次のページへ >



-この歴史漫画が熱い!

×