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【ジョジョの奇妙な冒険の歴史背景】
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第5部:黄金の風
◆主人公は仇敵の子
第4部の仗助もどういうことかと意外な設定でしたが、第5部はもっとぶっ飛んだ設定です。
なんとあのDIOに子がいてイタリアにいるのだッ……!
これはどういうことなのかと読者まで混乱しますが、ある意味、時代が荒木先生に追いついたと言えるのではないでしょうか。
荒木先生は、ハンサムな人物を描くと自分に似ていると言われてしまうと語った――そんな現実があります。
『ジョジョの奇妙な冒険』の前に連載された『魔少年ビーティー』では、ビーティーの外見や性格がディオによく似ている。
作者自身にも似ているような、魔少年を主人公にしようにも、1980年代はまだまだ少年誌にも読者にも受容できなかった。
それが時代の進歩とともに、魔少年を堂々と主役に据えてもいい――そんな現代史の進化を感じます。
ジョルノは正義感もあるし、悪いとは言い切れませんが、トリッキーで狡猾な戦術で勝利しますからね。1980年代にはちょっと難しいタイプの主人公ではあるのです。
だますにせよ、ジョセフのようにユーモアでおちょくらないと厳しかったと。
◆夢はギャングスター
そんなジョルノの夢は、ギャングスターではあります。
イタリアを舞台にしているという点で、ここは欠かせないところです。
イタリア人だからギャングと連想するのは、どうしたって失礼な偏見にはツッコミかねません。
でも、そういう現実はある。海外フィクションでの定番日本人像としてヤクザはわりとあるもの。深作欣二監督は偉大ということです。
◆ルネサンスの輝き
『ジョジョの奇妙な冒険』の絵柄は変化してゆきます。
どうしたってそこは少年漫画です。理想としての男性像が反映されるもの。1980年代は、シュワルツネッガーやスタローンのたくましい肉体が理想でした。
そして1995年から1999年にかけて連載された第5部となると、すっかり細身になりました。
ジョルノのウエストとジョセフの腕まわりが同じ太さでも違和感はないッ!
そりゃ女のファンも多いはずだよな〜ッ!……というツッコミはさておきまして。
ジョルノって、まるでダビデ像のような体形には見えませんか?
細くスタイルは整っているのに、筋肉はしっかりついている。その体形の美は、まるでルネサンスのようでもある。
カラーページや単行本の表紙からは、その影響を感じるものがありました。
ルネサンス的だからこそ、トリッシュのような女性キャラクターも、胸がそこまで大きくない。
ギリシャの女神像にせよ、ルネサンスの女性像にせよ、胸はそこまで大きくない。
バランス重視なのです。
そういうイタリアが舞台であることも納得できる、芸術の美を感じる第5部。
海外で個展が開催され、叶姉妹がコスプレをし、資生堂やグッチとコラボするのも納得できる。
そんな芸術的な美は、この第5部で頂点に達したとも思えるのですッ!
ルネサンス建築の始まりが壮絶!ブルネレスキvsギベルティの大聖堂
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第6部:ストーンオーシャン
◆ヒロイン・徐倫登場
女性主人公は『ゴージャス☆アイリン』以来ッ!
編集部からも何色を示されたという徐倫です。1999年から2003年においても、ヒロインは斬新でした。
前述の通り『ジョジョの奇妙な冒険』では女性も進歩してゆきます。
第2部では、リサリサという、主人公の師匠が登場。
第3部では、女性のスタンド使いも行方を阻む。
第4部と第5部では、味方側のスタンド使い、主人公チームに女性がいる。
となれば、第6部で主人公が女性でも不思議はないのです。
近未来舞台なので歴史要素はないようで、主人公そのものが歴史的だということは忘れずにふまえておきたいところです。
第7部:スティール・ボール・ラン
◆一巡した世界で西部劇
だんだんと難易度があがる『ジョジョの奇妙な冒険』。掲載誌も変えて、一巡したあとの世界からスタートします。
西部劇になるというのは、これまたある意味原点回帰です。
荒木先生のデビュー作は『武装ポーカー』。
西部劇であり、騙し合いをする、少年漫画離れしたシブい作品です。
◆処刑人ツェペリ
ジャイロ・ツェペリにはモデルがいます。
フランスの処刑人であり、人類史上2番目に多く斬首したアンリ・サンソンです。
ハンサムで教養があり、若い頃はなかなかモテて、国王ルイ15世の寵姫デュ・バリー夫人とも関係があった。
そのまんま漫画主人公にもなれそう……実際に坂本眞一に『イノサン』の主役でもあります。
ジャイロに結集されているサンソンの要素は、無実の少年を救いたいという恩赦を願う心です。
処刑人でありながら、罪のない人を殺すことだけはなんとしてもl回避したい――そんなアンリ・サンソンの願いが、ジャイロを通して結実します。
人類史で2番目に多くの首を斬ったアンリ・サンソン あまりにも切ない処刑人の苦悩
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◆人種が入り混じる出場者たち
本作は西部劇でありながら、伝統的なハリウッドもののお約束を打ち破る先進性があります。
サンドマン、ポコロコ、アブドゥル、ドット・ハーン……人種が混合しております。
実際に当時のアメリカ西部には様々な人種がいたものの、フィクションでは「白人だけのほうが見栄えが良い」といった思惑により、白人だけの世界にされているのです。
そこを時代考証をして、修正をしたのがリメイク版『マグニフィセント・セブン』。
その公開前にこういう描き方をする荒木先生はすごい。
それに『マグニフィセント・セブン』にすら出てこなかった、女性戦士のホット・パンツも出てくるのですから、革新的なものがあります。
20ドル紙幣の顔になったハリエット・タブマン「黒人のモーゼ」と呼ばれ
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◆南北戦争
ファニー・ヴァレンタイン大統領の父は軍人。
西部劇のお約束といえば、南北戦争です。
勝利した北軍か、敗北した南郡か。
どちらについたにせよ、軍人として内戦を戦い抜いたが故に、愛国心を高めた者もいる。暴力の味を覚えてしまった者もいる。後遺症やトラウマゆえに、社会からはぐれてしまった者もいる。
そんな傷跡も、西部劇には欠かせない要素なのです。
建物も畑も焼きつくす南北戦争「海への進軍」アメリカ軍の作戦が恐ろしい
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◆大統領が戦うのってアリなの? YES! YES! YES! むしろ最先端ッ!
本作のラスボスはファニー・ヴァレンタイン大統領です。
それはありなのか?
アリですね。むしろ流行に一致しちゃってますね。
2010年、セス・グレアム=スミス『ヴァンパイアハンター・リンカーン』が発表されました。
南北戦争は吸血鬼を壊滅したいリンカーン大統領の悲願ゆえの戦争だったッ! 黒人が死んでも誰も気にしない、そんな奴隷制度こそ吸血鬼蔓延の背景にあったのである……というなかなか強烈な話ですが、これが大ヒット。
2012年には映画化された『リンカーン/秘密の書』が公開されています。
この作品は、そういう考え方もありなのだと世界に衝撃を与えたのです。
そういう2010年代のトレンドを、偶然なのか必然なのか、取り入れる荒木先生はやはりセンスがすごいッ!
連載期間が2005年から2011年ですからね、時代を先取りしていますね。
過去の歴史を取り入れるどころか、未来に振り返っても歴史的な要素を入れる。それが『ジョジョの奇妙な冒険』の奇妙であり、スゴイところだと再確認できます。
★
第8部「ジョジョリオン」は未完結ですので今回は見送りました。
けれども3.11の後に杜王町を舞台としており、そしてコロナ禍に連載期間が重なっているということも気になってなりません。
歴史を取り込み、どう先取りしてゆくのか?
これからも読み続けたい――『ジョジョの奇妙な冒険』には、そんな世界観に満ちあふれています。
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文:小檜山青
※著者の関連noteはこちらから!(→link)
【参考】
『ジョジョの奇妙な冒険』第1部:ファントムブラッド(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第2部:戦闘潮流(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第3部:スターダストクルセイダーズ(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第4部:ダイヤモンドは砕けない(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第5部:黄金の風(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第6部:ストーンオーシャン(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第7部:スティール・ボール・ラン(Kindleカラー版)
『ジョジョの奇妙な冒険』第8部:ジョジョリオン(Kindleカラー版)