るろうに剣心 明治村 コースター 高荷恵/amazonより引用

この歴史漫画が熱い!

『るろうに剣心』高荷恵|色っぽい大人の女設定は会津女性としてどう?

2022/10/15

維新からたった十年。

幕末から明治にかけて生きた人々には、時代の荒波に呑まれてしまった辛い過去や事情もあります。

『るろうに剣心』の登場人物は、そんな想いとともに生きている――本稿では【会津藩】の歴史を背負った高荷恵(たかに めぐみ)を考察してみたいと思います。

【TOP画像】るろうに剣心 明治村 コラボ コースター 高荷恵(→amazon

 


婀娜(あだ)っぽい大人の女・高荷恵

婀娜(あだ)っぽいというのは、今はあまり使われませんよね。

要はセクシーで魅力的ということ。

大人でクールなヒロインである高荷恵――初登場時の年齢が22歳だと気付いたときには、驚愕してしまった方もいたのではないでしょうか?

江戸時代は初婚年齢が若く、しかも東北地方となるとその傾向は強まります。

明治時代、アメリカ留学から帰国した会津藩出身・山川捨松(のちの大山捨松)は、親から「もう売れ残りだ」と言われると嘆いておりました。

恵も、そういう感覚があったとしてもおかしくはありません。

大山捨松
会津藩家老の娘・山川捨松が辿った激動の生涯|留学後に敵だった大山巌の妻へ

続きを見る

ちなみに身長166センチ45キロというのは、当時としてはかなりの長身、かつ低体重です。

幕末会津の新島八重は、もっとマッチョでした(当時としても規格外)。

新島八重
新島八重の生涯を辿れば幕末と会津がわかる|最強の女スナイパー86年の軌跡

続きを見る

こういう女性の身長体重、あるいはスリーサイズ設定は、連載当時の漫画やゲームではよく見受けられました。

健康を損なうほど不自然な数値であったり。女性キャラクターばかりだったり。

どう考えてもおかしな数値もあるので、こうしたものはあくまでお遊びと流しましょう。

高荷恵は、神谷薫と比較すれば大人っぽく、セクシーに思えます。けれども設定を見ていけばまだ若く、家族を失った不安定な女性であることは確かです。

やたらと大人っぽい扱いをされますが、左之助や弥助はともかく、剣心より年下なのですね。

これも連載当時によくあった話です。

複数名の女性がいると、年上女性がおばさん、色っぽいという設定をされることがよくある話でした。

 

そういう漫画のお約束を抜きにして、会津出身でこの境遇でありながら、セクシーであることは正しいのか?

野暮は承知でちょっと突っ込んでみましょう。

 


高荷家は脱藩しなければいけなかったのか?

恵が史実として整合性があるのか?

そう考えると本当にややこしく、無駄に喧嘩を売っていると思われたくはないのですが……。

まずは基本設定に対する違和感をまとめてみます。

・家族総出で脱藩する必要性はあったのか?

恵の高荷家は、先進的であるがゆえに、西洋の医術を学ぶために脱藩した――そんな設定があります。

幕末の会津藩は、京都守護職のせいで留守を守る妻子が苦労したことが特徴ですので、むしろ父だけ脱藩の方がリアリティがあったと思えます。

次に、脱藩を過小評価しすぎているとも感じます。

そんなエキセントリックな手段を取る前に、どうして周囲に相談しなかったのか。いくら会津藩が保守的と言っても、理解者はいるでしょう。

・西洋医術を学ぶために脱藩する必要はあったのか?

高荷家は、別に脱藩する必要はなかったと思います。何か隠したい理由があれば別ですが。

漢方医が西洋の医術をタブー視したとは言えないのです。

日本の医学は、江戸時代以降、蘭方=オランダ経由の医学を取り入れています。杉田玄白が典型例です。

確かに会津藩には、御典医が保守的であったため、起きなくてもよい悲劇が起きてしまいました。

松平容保の正室・敏姫は御典医の反対で種痘摂取ができず、天然痘で亡くなってしまったのです。

ただ、これは該当御典医が頑迷であった個人の特性があると思えてきます。彼女の悲劇から学ぶように説得することもできたはずでしょう。

・会津藩には、西洋医術の重要性を理解する人がいた

こう書くと、憶測だけどものを言っているように思えるかもしれませんが、実はそうした史実はあります。

幕末の会津藩では進歩的な家老・山川重英(浩・健次郎らの祖父)らによって種痘接種が取り入れられ始めていました。

山本覚馬と八重の母も、種痘の有用性を説き、周囲に勧めていたそうです。

「脱藩するまでもなく、山川さんに相談したらよかんべ!」

こうなってもいいと思うんですけれども。

余談ですが、そんな山川家の浩と健次郎は、斎藤一の親友です。

山川浩&山川健次郎&捨松たちの覚悟を見よ!賊軍会津が文武でリベンジ

続きを見る

 

あまり感じられない会津設定

高荷恵周辺の設定は、フィクションで増幅された会津藩のイメージありき。あまりリアリティがないと感じてしまいます。

恵そのものが、明治の会津藩ルーツ女性のイメージから見て、かなり隔たりがあるのです。

2013年大河ドラマ『八重の桜』もあってか、明治の会津女性・八重が描かれる機会が増えました。

結果、恵はいろいろと粗が目立つ感があります。

高荷恵像への違和感の背景には、和月先生が大好きである司馬遼太郎の幕末作品に通じるものも感じます。

司馬は新選組、特に土方歳三には愛着があったとは思えるのですが、そんな新選組を預かっていた会津藩に対しては、嫌悪感があったとは思える箇所が多いのです。

『王城の護衛者』という松平容保を扱った傑作短編もあります。

会津若松市には、司馬遼太郎文学碑もあります。

◆会津若松商工会議所(→link

司馬は何も、会津藩を常に悪く描いていたというわけでもない。会津藩の苦境を知らしめた功績もある。

けれども徳川 家康と同様、うっすらとつきまとう嫌悪感はあると感じます。史実と比較すると、それが目立つのです。

徳川家康の肖像画
徳川家康の生涯|信長と秀吉の下で歩んだ艱難辛苦の75年を史実で振り返る

続きを見る

私一人だけの妄想とも言えません。

一例として、幕末会津藩家老・田中玄宰の子孫である田中清玄をあげますと、彼は司馬の作品に対して「薩長を利するものである」という痛烈な批判をしています。

高荷恵をまとめると、司馬ワールドの幕末価値観が根底にあると思えてきます。

◆頑固で保守的な会津藩

◆進歩的な高荷家は脱藩する

◆そんな恵は、明治としては斬新な女医になる!

そういうテンプレートですね。ものすごく意地悪な言い方をしますと、後進的な会津藩の例外的存在としての目立たせ方ですね。

たとえ彼女が魅力的だろうと、その輝きの背景としてくすんでしまう会津藩にはどうなのか?

史実として、ともかく金がなく、会津藩の身分制度や保守性が問題であったことは確かですが……。

これは和月先生一人の問題でもなく、当時の世界観やメディアの限界だとも思います。

 


会津藩の女性はともかく融通がきかず

恵が明治時代の会津女性とはかなりかけ離れたイメージであることも、指摘させてください。

会津藩の女性はともかく融通がきかず、頑固で、堅苦しくて、ああいう「女狐」キャラとはむしろ正反対とされてきました。

新島八重に個人的怨恨を募らせた徳冨蘆花が、フィクションを通して広めた事情もあったりします。

三島弥太郎と三島和歌子とは?三島弥彦の兄と母はどんな人物だったのか

続きを見る

ああいう蓮っ葉(※色っぽくて軽薄な口調)と、会津弁の相性も悪い。

あの恵の話し方から剣心が会津出身だと見抜くのは相当無理がある――そんな情け容赦ないツッコミもしたくなってしまいます。

アニメにせよ実写にせよ、全然会津弁が出ていないので、もう仕方ないとは思いますが。

 

いろいろと野暮なことを突っ込みましたが、明治時代を代表する医者として会津出身の野口英世がおります。そういう意味では、粋な気遣いがある人物だとは思います。

勉強熱心な和月先生が、会津藩設定の不備に無自覚であったとも思えません。週刊連載ともなれば、多忙でなかなか調べものもできないのですから、仕方ないところはあります。

そんな和月先生の会津藩ルーツの女性として、惜しい存在がいます。

『GUN BLAZE WEST』(→amazon)のコリス・サトーです。

史上初の日系人移民として、会津藩の人々がカリフォルニアに上陸し「若松コロニー」を作りました。

しかし、この移民計画は頓挫して、散り散りになってしまいます。

「OKEI」と刻まれた日本人女性・おけいの墓が発見されるまで、彼らの存在は忘れられていました。

コリス・サトーはそんな会津藩ルーツの日系人であると推察できます。

そんなコリスをどうするつもりであったのか、気になって仕方ないところではあります。

 

明治女医の「ならぬことはならぬ」

野暮なことは書いてきましたが、明治の会津出身者として、女子教育に貢献した人物として、新島八重、大山捨松、海老名リン、若松賤子らがおります。

医者としては、野口英世がいます。

彼らを思い起こさせる恵の設定は秀逸です。

実は遊び人だった野口英世と彼を支えた人々――偉業は一人にして成らず

続きを見る

当時少ない女医を描いたことは、女性応援の意味があるのかもしれない。

そういう見方もできますが、これはどうでしょう。恵が料理上手で、それに対して薫がメシマズという時点で、連載当時らしい残念女性描写だなあ……となってしまう点ではあります。

女は胃袋を掴むという描写に、連載当時の時代性はやはり感じてしまいます。

ただし、繰り返しますが、和月先生一人の問題ではありません。

さらに野暮を承知で、恵には医療従事者として大問題があることを指摘させていただきます。

髪型です。

当時の女性は長髪をまとめました。前髪を作ることもあの年齢ではまずありません。

これについては、デザインのモチーフが小畑健の漫画『CYBORGじいちゃんG』の若いばあちゃんであると和月先生本人が明かしているので、突っ込むのも無粋の極みではあります。

実写版では髪の毛を結う場面が多いようですが、それは適切だと思います。

そもそも、本気で医療行為をする気持ちがあるなら、髪の毛はまとめるか断髪するところでしょう。

会津戦争における新島八重の断髪は、歴史の名場面です。

2020年のコロナ禍においても、看護師が断髪する動画が話題になりました。あの不潔な髪型の時点で、恵は残念ではあるのです。

 

こうしたツッコミは野暮というもので、漫画はあくまで漫画として楽しめばよい。それはその通りです。

ただ、実写映画化、舞台化までされるとなると、ただの漫画では済まされないものがあります。

高荷恵を入り口として、幕末の会津藩、明治を生きた会津人にも興味を抱いていただければ幸いです。


あわせて読みたい関連記事

抜刀術
『るろうに剣心』倭刀術を徹底考察|ルーツは倭寇の日本刀なのか?

続きを見る

雪代巴&雪代緑
『るろうに剣心』雪代巴&雪代縁を徹底考察|間者やリベンジは妥当か

続きを見る

志々雄真実
『るろうに剣心』志々雄真実|魅惑の悪役に漂う90年代ラスボス感

続きを見る

るろうに剣心の新選組
『るろうに剣心』の新選組が複雑だ 司馬遼太郎の影響でややこしや

続きを見る

相楽左之助
『るろうに剣心』相楽左之助が「赤報隊」の印象を変えた?

続きを見る

【参考】
コミック『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚―カラー版』(→amazon
コミック『るろうに剣心―明治剣客浪漫譚・北海道編―』(→amazon
映画『るろうに剣心』(→amazonプライム
映画『るろうに剣心 京都大火編』(→amazonプライム

TOPページへ


 



リンクフリー 本サイトはリンク報告不要で大歓迎です。
記事やイラストの無断転載は固くお断りいたします。
引用・転載をご希望の際は お問い合わせ よりご一報ください。
  • この記事を書いた人
  • 最新記事

小檜山青

東洋史専攻。歴史系のドラマ、映画は昔から好きで鑑賞本数が多い方と自認。最近は華流ドラマが気になっており、武侠ものが特に好き。 コーエーテクモゲース『信長の野望 大志』カレンダー、『三国志14』アートブック、2024年度版『中国時代劇で学ぶ中国の歴史』(キネマ旬報社)『覆流年』紹介記事執筆等。

-この歴史漫画が熱い!
-

右クリックのご使用はできません
目次